正義のヒーロー殺人事件
使用したお題『ああああ』『殺人事件』『書き出し→「親父が失踪した」』『ヒーロー』
親父が失踪した、最初はその一言だった。
しかし状況は一変する。親父が居ない期間が長期化し、失踪したのではなく殺されたかもしれない、という可能性に皆が気付いた瞬間、私たちグループの間に亀裂が走った。
私たち、愛と正義のヒーロー戦隊の中で疑惑の視線が横行する。
「親父の失踪が一か月を過ぎようとしている。これは一大事だ。私たちの変身スーツや巨大ロボの管理は全て親父任せだったし、敵の襲撃が増えれば増えるほどこちらの武装の劣化が進んでしまう。すでに巨大ロボの右腕が破損して動かなくなっている」
リーダーである俺が深刻な顔でヒーロー組織内部の不備を論う。
親父こと博士はヒーロー戦隊に必要な全ての物資の管理を行っていた。彼が居なくなることでここまで問題が多発するとは考えてなかった。
腕を組み今後の組織運営について考える俺に対し、震える声で食ってかかる奴がいた。
「た、確かにそれも問題だけど、お、親父さんのことを心配しようよ! もう一カ月だよ!? て、敵に捕まっちゃったのかもしれないし、も、もしかしたらこ、殺され……」
もともと気弱なブルーが、変身もしていないのに顔を真っ青にした。確かに親父さんは俺たちにとっては恩人に等しい、できれば無事でいてほしいと思う。
でもだからこそ疑問が残る。ただその疑問をこの場で言っては不味いので、俺は何も言わない。その言わないでおいた疑問を賢しげな顔で口に出す軽率な者もいた。
「ここはヒーローの秘密基地だ。無論敵側にこの場所がバレてはいない。親父さんは身の安全を考えてか知らないが、基地から出ることは全くない。つまり、親父さんがいなくなったのは敵の誘拐ではない、な」
俺は言わないでおいた疑問を言ってしまったブラックに、彼以上にドス黒い感情を持った。彼はきっと格好つけたいがために自分の気付いた事を率先して発言しただけなのだろうが、その後に何が起こるかを考えていない。
そして当然のように悪いことが起こる。唯一女性である彼女の甲高い悲鳴が響いた。
「そ、それって、この中に裏切り者がいるかもしれないって、こと……?」
ピンクの顔は桃色に紅潮していた。こんなとき普通ならブルーのように顔を青くすると思うのだが、なぜか彼女はドヤ顔のブラックとそれを睨みつける俺を交互に目をやりながら、何か嬉しそうにしている。
台詞は怯える被害者のそれだが、表情と全くあっていない。いつものことだが謎だ。
彼女の台詞を皮きりに動揺する皆の中、一人最も気の小さい奴が勢いよく席を立った。
「こ、この中に親父さん殺しがいるかもしれないってことか!? だったらこんなとこにいつまでもいられるか! 家に帰らせてもらう!!」
グリーンがそのままネズミが逃げるように部屋を飛び出していこうとした。彼の心情は察するが、その台詞と行動は完全に死亡フラグだ。安全じゃない。
この五人の中に親父さんを亡き者に、少なくともどこかに監禁した者がこの中にいるかもしれない。互いに信頼し合った仲間であるはずなのに、その絆は簡単に割れてしまった。
俺が悲しい気持ちを抑えて皆の動揺を静めているうち、いきなりサイレンが鳴り響いた。
「こんなときに敵の襲撃が!? しかし行くしかない! 皆、出撃だ!!」
「だ、だけどこの中に裏切り者がいるかもしれないじゃないか! ぼ、僕は行きたくない!」
「気持ちはわかる、だが堪えてくれ! 我々が行かないと街の皆が酷い目に遭うかもしれないんだ! 世界の平和のために、頼む!」
「……わかった、レッドを信じるよ」
俺はその一言でとても嬉しい気持ちになった。割れたと思った絆だったが、意外としぶといようだ。みんなの覚悟を決めた表情を見て、俺は強く頷く。
そしてみんなでポーズをとり、一斉に変身した!
「へんしん!! 皆殺しのレッド!」
「へんしん!! 毒薬博士ブルー!」
「へんしん!! 猟奇殺人ブラック!」
「へんしん!! 保険金殺人ピンク!」
「へんしん!! 一日一殺グリーン!」
「暗殺戦隊コロスンジャー! 出撃します!!」
何度も練習した変身ポーズを皆でとり、さっそうと走りだした。街の平和を守るため命がけで戦う5人の雄姿がそこにあった。
ちなみに親父こと博士は自分用の秘密の部屋でひっそりと首を吊って死んでいた。
死因は過労によるストレスだった。やはりヒーロー戦隊の各種武装や設備を一人で切り盛りするのは無理があったらしい。