まんじゅうこわい、その後
使用したお題:『馬』『ボタン』『田中』+最後の一文『だが、これで終わりではなかった。』
『まんじゅうこわい』という古典落語がある。怖いもの知らずのクマさんが饅頭が怖いと言うものだから、他の仲間たちがいたずらで饅頭をクマさんの部屋に放り込んだところ、クマさんが全部食べてしまった、と言う話だ。
本当は大好物だった饅頭をたらふく食べたクマさんは最後に一言こう言って、この落語はオチをつける。「今度は熱いお茶が怖い」と。
だが、これで終わりではなかった。
クマさんの満面の笑みと、口元にベトベトくっついたアンコと、一つ残らず消えてしまった饅頭を見れば、さすがにアホな仲間たちだって真相に気付く。
クマさんをこけにしてやろうと思っていたのに逆にこけにされたのだ。ハラワタ煮えくりかえるとはまさにこのこと。
お茶を待っているクマさんを一人部屋に残し、アホたち4人は隣の部屋で即席会議を始める。
「さて、今度はクマさん、熱いお茶が怖いっていうじゃねぇか。バカにしてやがる。まだオレたちが気付いてないとでも思ったのか?」
「かもしれねーな。実際、饅頭には完全に騙されて、なけなしの小使い全部使っちまったよ。このままじゃあしまらねぇ。なんかできねーかな?」
「クマさん、今度は熱いお茶が怖いっていってんだろ? だったらホントに怖いお茶を用意してやりゃーいいんじゃねぇか?」
「お、そりゃ名案だ! あいつに一泡吹かせてやんだな!?」
「しぃぃっ、声がでけぇ! 隣にいるクマさんに聞かれっちまうだろ? 静かにヒソヒソと相談するんだよ。……で、どんなお茶を用意すれば、やつぁ怖がると思うかい?」
「そうさなぁ。お茶の上にクモが浮いてるとかどうだろ? お、おれならかなり怖がると思うぜ?」
「バカ野郎。クマが最初何言ってやがったか忘れたか、ハチ? あいつはクモもアリも怖がらねぇって吹いてやがったじゃねーか。ホントかどうかはわからねーが、やめといたほうが無難だ。他ないか?」
「ものすっげーあっついお茶をクマさんに渡すとかどうだろか? 茶碗まであっつい奴をさ。そしたらあいつビビんじゃねーかな」
「バカ野郎。そんな熱いお茶どうやって持ってくんだよ、タロウ? クマさん驚かす前にオレらが火傷しちまうよ。でも熱いお茶ってのは良い案だな。あいつに渡す直前にお茶ひっくり返して頭からぶっかけてやるのはいいかもしれねぇな。おい、お前は何かないか?」
「お茶の中に饅頭いれとくとか」
「バカ野郎。クマの野郎が饅頭怖がるのはウソだって気づいてなかったのか、田中よぉ。あいつは茶でふやけてても喜んで饅頭食っちまうよ! ……でも中に何か入れるってのは名案かもな。何か入れてやるか?」
「牛のフンでも入れとけばいいんじゃねぇか?」
「犬のフン入れようぜ、そこら辺に落ちてるからさ」
「馬のフンもいいよ。確実に腹壊す」
「おめぇらフン好きすぎかよ……。でもまあいいだろ。よし、他に案出せや」
とまあ喧々諤々のアイディア会議が始まった。あーでもないこーでもないと四人で悪知恵をめぐらす4人組。だんだん楽しくなってきたのか、エグい案やさすがにそりゃダメだろって案も出始めてきた。
クマさんの嫌がる顔が見たいからって大量の饅頭を買いあさるような連中だ、この手のイタズラは大好物である。まさに悪ガキの顔で4人で延々会議を繰り広げていた。
「ふぁぁぁ、よーく寝た。お茶持ってくるの待ってたら満福で寝ちまったよ。ってさすがにオレの嘘に気づいたか、お茶は用意されてねーな……ってなんか外が騒がしいぞ?」
と、ここでクマさんが外の様子にようやく気づく。腹いっぱいで昼寝から起きたら、妙に外が騒がしい。
障子に指で小さく穴を開けて、外の様子を覗き見た。
外にいたアホ4人組のイタズラ会議は時間が経つにつれ、かなりヒートアップしていた。
「だーかーら、何でもかんでも入れようとするな! 茶碗なんてこんな大きさなのに、そんな大量にフンを入れられるわけねぇだろ! お茶が入らなくなるだろ!!」
「だったらでけぇバケツで持ってくりゃいいだろがよ! 一応名目はクマさんを怖がらせるってもんなんだろ!? だったら茶碗で持ってく必要ねぇだろそもそも!!」
「アホか! バケツいっぱいのお茶なんていくらクマがアホでも受け取らねぇわ! 怪しすぎるだろ常識的に考えて!!」
「おめぇこそアホだろ!! 最初に、持ってきたお茶は頭からぶっかけるって話だっただろがよ! 受け取らす必要ねぇんだよ障子開けたらそのときが最後だ!!」
「ねぇ、やっぱりお饅頭も入れとこうよ」
「田中てめぇは黙ってろ!!!」
そこにはもみくちゃになって言い争いをしている4人のアホがいた。何か変なボタンでも押しちゃったのか、もはやヒソヒソ話とは何だったのかと言わんばかりの怒号の応酬がクマの家の前で繰り広げられている。
部屋の中に聞こえるのはもちろん近所にもその大声が響き渡っていた。近所迷惑にもほどがある。
しかし……アホ4人が騒いでるのはいつものことなので、みんな迷惑そうな目で一瞥しただけスルーしていた。スルーできないのは障子から覗いているアホ一人。
「ひ、ひぇぇぇ。あいつら何相談してやがるんだ? お、お茶にフンを入れる? めちゃくちゃ熱くして頭からぶっかける? もしかしてオレに持ってくるお茶の相談してるのか? っていうかまだあるのか!?」
4人の非道極まりないやり取りを聞いて、すわ自分に襲い掛かる未来を想像する。身震いがした。
クマさんは居ても立っても居られず、障子を開けて4人組の前に飛び出した。
「す、すまねぇ、みんな! オレがバカだった! ちょっとからかってやろうと思っただけなんだ! だから、オレにそんなこえぇお茶持ってくる相談なんてやめてくれ!!」
「く、クマさん、そういえばいたんだっけか……。もしかして話聞かれちまったか?」
「あ、ああ。途中からだが、かなりとんでもない代物が用意されるって話は理解した。頼む! お前らが用意するお茶はホントにこえぇ! 謝るから許してくれ!!」
この通りだ、とクマさんはその場で土下座をする。それを見て4人組は冷静になり、クマさんの肩に手を置いた。
「ああ、安心してくれ。お前さんが怖がる顔が見たかっただけで、クマさんを殺したいわけじゃねぇ。今、お前の顔めちゃくちゃビビってるな。それが見られただけで満足だ」
他の3人組も、そうだそうだと同意する。怯えきっていたクマさんは心底ホッとした様子で、いらんことを言ってしまった。
「ああ、良かった。みんなアホだからこうやって今までちょくちょくこうやって騙してたけど、今回は露骨すぎたよ。反省するし、もうやらないようにするから許してくれよな?」
これを聞いたアホ4人が固まった。仲間を思いやる大らかな笑顔が、鬼子母神のような笑顔にサッと変異する。
これで終わりだと思いこんでいたクマさん。だが、これで終わりではなかった。




