クレタ人は嘘つき
使用したお題:『忍者』『博打』『エイプリルフール』『巨大または極小』『サービス』
クレタ人は嘘つきだという言葉を聞いた事はあるだろうか。色んな論理問題に出てくる謎の人種だ。
『クレタ人が「全てのクレタ人は嘘つきだ」と言ったとすると論理破綻が起こる』というところから始まり、『目の前にいる人間がクレタ人かどうかを一つの質問で確かめなさい』とか、『天国への道をクレタ人か普通の人かわからない人に質問して決定しなさい』なんて問題もある。
中学生にでもなれば誰でも一度は彼の名を聞いたことあるだろう。
「で、自分はそんなクレタ人なわけだけど、ちょっと困ったことが起きてね」
そんな嘘つきの代名詞として有名なクレタ人が僕へ急に問いかけてきた、真顔で。そりゃもうビックリしたよ。
とりあえず僕は真っ先に思い付いた返事をした。え、それも嘘?
「いやさね、自分が困って相談するのに嘘をつくバカはいないでしょう。さすがにクレタ人でも場はわきまえるよ」
クレタ人は意外と常識がある人のようだ。だったら嘘なんてつかなきゃいいのに。
思わず漏れ出た僕の本音に、クレタ人はこれまた真顔で答えた。
「クレタ人は嘘つきで長年通してるからね、こればっかりは譲れない。我らが誇りに賭けて」
誇りと一緒に人生まで賭けてるなこの人……。
どうせ賭けるなら他のことにプライドを持てばいいのにと思ったが言わないでおいた。僕は一応空気が読める。
話を本題に戻した。で、何が困ったの?
「今日が何の日か知ってるか?」
トレーニングの日だね。あと児童福祉法記念日でもあるかな。あとは万愚節でもあるね。
「なんでエイプリルフールを万愚節なんていうマイナーネームで言ったんだ。しかも一番最後に出てくるって……こいつ空気読めないな」
失敬な、万年嘘つきのクレタ人よかマシだよ。
「褒めてくれてありがとう。そんなことより察しておくれよ。クレタ人とエイプリルフール、ここら辺の関係性で何か思うことはないかね?」
そんなこと考えた事もなかったよ。でも、どっちも嘘関係だからなんか相性良さそう?
僕がそう問い返すと、クレタ人は首をブンブン振った。
「そう思われる事は知っているが、実際はそんなことないんだ。エイプリルフールは嘘をついてもいいわけだろう? そうなると我々がどんな嘘をついたとしても、『ああ、エイプリルフールだから嘘をついたのか』って言われてしまうわけだ。これが悔しい。普段なら『クレタ人が本当に嘘ついた! やっぱりクレタ人は嘘つきなんだ!』って盛り上がってくれるのに、この日だけはハレの日に舞い上がる一般人へと埋没してしまうんだ……」
いまいち同情できないけれど、なんとなく言いたい事はわかるかな。
ええっと、つまりこんな感じかな? 自分だけチート能力を貰って転生するのはいいけど、自分以外の人や異世界人も含めて全員チート能力持ちだと嫌だ、みたいな考えだと思っていいか? なんて器の極小な人なんだ……。
「なんかそう例えられると同意したくなくなるが、まあそんなところだ。自らのクレタ人としてのアイデンティティが犯されてる気がして結構辛いんだ。どうにかならないだろうか?」
どうにかって言ったって……。ええっと、じゃあ逆にエイプリルフールはクレタ人は嘘つかないようにするとか?
「そんなことはできない。クレタ人は嘘つきであることに意味があるんだから」
なんかオフの日でも笑いを取ろうとするサービス精神豊富な芸人みたいな思考だな。でも、なるほど、嘘をつくことは止めたくない感じか……。
ならこんなのはどうだろう。名づけて『影分身作戦』。
「影分身? 忍者がやるやつか?」
そうそうそれそれ。アニメや漫画だと忍術ってドハデだけど、実際はかなり地味なのは知ってる?
「え、あ、う、うん。し、知ってるとも!」
例えば幻術は犬の鳴き声を真似てただの野良犬だと思わせることだったり、空蝉の術は単なる衣装の早脱ぎだったりね。
影分身もそう。自分が見つかったとき咄嗟に影に隠れて、その後石つぶてを投げて遠くに逃げてるフリをするんだよね、本来は。と僕もネットで知っただけの知識を披露した。
「え、あ、そ、そうなんだ。へ、へー、ふーん。はぁ……。あ、で、でそれがどんな作戦になるんだい!?」
僕が半眼で睨むと、慌ててクレタ人が話を戻した。間違いなく嘘だとわかるその知ったかぶりは無視して、僕は作戦内容を話す。
つまり影分身のように、エイプリルフールという影に隠れて別の嘘を先んじて言っておくんだ。そしてその嘘を後から「嘘でしたー」って発表すればいいんじゃないかな?
「ん? ごめん全く意味が分からない」
例えば株式投資で『この株は3日後に値上がりする』って嘘をつく。なるたけ絶対に値下がりしそうな株をね。そうすれば嘘がバレる日がエイプリルフールではなく3日後になるから、そのバレタ3日後に『クレタ人が嘘をついた!』ってことになるんじゃないかな。
「なるほど、嘘という小石を遠くに投げて、追いかけて行った人がそこでようやく『クレタ人のついた嘘だった!』ってわかるわけだね。なかなか妙案だと思う。里のみんなと相談してみようと思う」
そっか、適当な思い付きだけど助けになったならよかった。
僕は雑に演技して喜んでみせたが、クレタ人は本気で嬉しそうだった。喜び勇んでその場を去ろうとする。
「いや、ホントに助かった。ありがとう、早速みんなに相談してくる!!」
クレタ人は光の速さで去って行ってしまった。僕はプラプラと軽く手を振って彼を見送る。
……でも冷静に考えて、『エイプリルフールに浮かれてウソをついてるだけの人に見える』って問題は解決してない気がするんだけどなぁ……。
まあいいか。今日はエイプリルフールだし、この程度のウソは許されるだろう。




