惚れ音楽
使用したお題;『楽譜』『フレンズ』『ずっしり』『秘宝』『ハート』
祖父の遺品を漁っていたら、とんでもないお宝を見つけた。ズッシリとした箱がたくさんある倉庫の中、一つだけやたら丁寧に包装された箱があったのだ。
気になって中身を見てみたら驚いた。それは一枚の楽譜だった。
「この音楽を聞かせると、相手に惚れられる、惚れ薬ならぬ惚れ音楽の楽譜」
まさしく秘宝と言って過言ではない、とんでもない遺産だった。なんとこの音楽を聞かせるとホモ・サピエンスの情動を動かし、確実に相手から好かれるそうだ。祖父はこれを使って祖母と結ばれたそうな。
箱の表面に明記された惚れ音楽という単語と、その中に入っていた妙に緻密な取扱説明書をオレは一通り読んで……絶句した。
正直アホか、と。
優しかった祖父がこんなものを持っていたことに衝撃を受け、惚れ音楽というパワーワードに呆れ果て、一瞬本物だったらと妄想した自分のバカさ加減を自虐した。
そしてあまりのくだらなさに、あえて本当かどうか試してやろうと思った。
「で、私が呼ばれたわけか。君はいつも暇だなぁ」
この楽譜を見つけた直後のオレと同じような呆れ顔をして友人がため息をついた。オレは少しだけムッとしつつも言い訳をする。
「こんなアホらしい遊びに付き合ってくれるオレの女友達って言ったらお前くらいしかいなかったんだよ。いいだろ、お前も暇なんだし」
奴は「まあね」と軽く同意した。その後、パソコンの画面を覗き込む。
「にしても、こんな変わった音楽作成ソフトがあるんだね。知らなかったよ」
「大昔にあったイラストを描くゲームに、音楽作成するプログラムがおまけでくっついてたんだよ。それを本格的に使えるようにしたのがこれね。結構有名なもんだよ」
そう言って僕はシークエンサを起動する。赤い帽子を被った小さいおっさんが五線譜の上を走りだして、音符の上を飛び越すたびに音を奏でる。
惚れ音楽という名前に因んで少しでも効果をあげるべく、ハートの音符を多めにつけてみた。独特の音楽がパソコンの貧弱なスピーカーから流れる。
「どうだ、なんか変わったか?」
音楽が一巡りし、音楽が終わる。赤い親父がいなくなって停止した画面を背に、彼女に聞いてみた。
「変わるわけないよ。ただの音楽だし」
しかし奴は当たり前のような顔をして首を横に振った。まあそりゃそうだよなぁとオレは少し期待外れな気持ちをしつつ納得した。
女友達はもはや惚れ音楽に興味はないのか、パソコンの方を注視していた。操作したそうにマウスの方に手を伸ばしている。
「で、この後はどうするの? 終わり? 終わりだったらこの音楽作成ソフト使ってみていい? 遊んでみたい」
「いいよ。あ、その前に、ちょっと待って」
「なに?」
「どうせだし、これネットにアップしてみるよ。ネタ動画としては十分なネタになるでしょ。爺ちゃんの供養代わりにね」
「いいんじゃない? どうぞどうぞ」
そう言ってマウスを僕に渡してくれる。僕は世界的有名な動画サイトの自分のアカウントに今の音楽を再生した動画をアップした。
そしてシークエンサに乗っていた楽譜を上書き保存してからクリアして女友達に席ごと渡そうとする。奴はなぜか嫌らしく笑っていた。
「で、君はこの音楽を私に聞かせてどうしたかったのかな? もし私が君に惚れちゃったらどうするわけ?」
「いやいや、自意識過剰だろお前。こんなん効くわけないって思ってたし、お前もそう思ってたんだろう?」
「えー、でもわざわざ呼びつけて最初に聞かせるとか、なんか意図的なものを感じるなー。きゃー、ヘンターイ」
「うっせ、ほら、使うなら勝手に使えよ。俺は下でお茶入れてくるから!」
「はーい」
そうしてその日はオレの部屋で適当に遊び、夕方には解散した。僕は動画の再生数が、タイトルのインパクトの割にはあまり伸びなくって少しだけ残念に思った。
そしてオレはこの惚れ音楽のことをすぐに忘れてしまった。
一か月後、大量の女の子が我が家に押し寄せてくる大事件が起こるとは、この時のオレは予想だにしていなかった。




