人格入れ替わり爆弾
使用したお題「男女入れ替わり」「サイコパス」
とあるマッドなサイエンティストがとんでもないモノを作ってしまいました。
その名も『男女入れ替わり爆弾』。
爆弾としての破壊力こそないが、爆発したら最後、爆弾の効果範囲にいた全ての最も近くにいる男女の中身が入れ替わってしまうというものだった。
効果範囲は直径300kmほど。日本のほぼ大部分を覆ってしまうほど強力な爆弾は、ついうっかりスイッチを押してしまったお茶目な製作者のせいで、音もなく盛大に炸裂した。
その瞬間から各地で混乱が始まった。
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「うお、なんで俺台所にいるんだ? さっきまで自分の部屋でネトゲしてたはずなのに、包丁持ってキュウリ切ってる。……一体何がどうなって……」
「ちょっとタカシ! な、何が起こったのよこれは!?」
「え、かーちゃん!? って違う、俺? え、なんで俺が目の前にいるんだ? え、こ、これってまさか……」
「あら、私がいるわ。やっぱりこれタカシの身体なのね。びっくりしたわー」
「こんな大事件をびっくりしたの一言で済ますのか、アンタは。っていうかなんだよこれ、なんで母親と入れ替わってるんだよ。どうせなら美少女とか近所のお姉さんとかそういうステキな展開にしてくれよ。なんでよりによってかーちゃんなんだよ……」
「何膝ついてるのよ、アンタは。それよりさっきまでゲームして遊んでたんなら、ゴミ出し行ってきてちょうだい。私は晩御飯の用意してからご近所さんに挨拶したりとか色々やることあるのよ。あー忙しい忙しい」
「っていうかかーちゃんなんでそんなに動じないんだよ。あっさりと順応しすぎだろ。ていうか俺の身体でエプロンとエコバッグ持つのマジやめてくれ見てると本気で凹むから……」
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「おぎゃー! おぎゃー!」
「ちょ、どうしたんだ急に!? い、痛みで気がおかしくなったのか? 大丈夫か!?」
「おぎゃー! おぎゃー!」
「くそっ、何が起きたか全くわからん。急に俺の体が縮んだかと思ったらなぜかナース服着てるし、手も細くて俺の物じゃないみたいだ。それに妻の様子もさっきまでと明らかに違うし……」
「おぎゃー! おぎゃー!」
「お医者さんも何かあったみたいで混乱してるな。でも早くこっちにきてくれ。妻が出産間際なんだぞ! しかもなんか様子がおかしいし、誰でもいいからお産を手伝ってくれ! 頼むから!」
「……た……て……」
「ん、なんだ? 今どこからか声が聞こえたぞ? お腹? 妻の大きなお腹から声が聞こえる? いや、そんなまさか……」
「……あなた……はここ……」
「いや、気のせいじゃない! お腹の中から声がする!? なんだ、これは。ちょっとごめん。出産中に悪いがお腹に耳を当てるぞ? 聞こえるかな?」
「あなた、わたしはここ、たすけて」
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「え、あれ? なんだここは。あ、電話が鳴ってる。ってこのスマホ、俺のじゃねぇ。もしかしてあいつのか? なんで俺のポケットに……」
『もしもし? リョウタ?』
「あ、ああ俺だけど。誰だお前? 俺のダチにこんな声の奴いたっけ……」
『違うの、わたし、カナよ。今あなたの体の中にいるみたい』
「マジか。いや、たしかに俺のこの体、女のものだよな。鏡がないから顔分からないけど、そっか。俺ら入れ替わったのか……」
『うん、そうみたい。さっきニュースでやってた。一番近くにいる男女の中身が入れ替わっちゃう謎の現象が全国で起こってるらしいよ』
「んな、アホな。って言いたいけど、実際そうなっちゃってるしなぁ……。お前いまどこにいる? って俺がさっきまでいたところだから俺のアパートの自室の窓際か。近くにいるからすぐそっち行くな。ちょっと待っててくれ」
『わかった、待ってる』
「ああ、切るぞ。……まったくなんてとんでもないことが起きたんだ。小説じゃあるまいに。
……そういえば、なんでカナはこんなところにいたんだ? 『近くにいる異性と入れ替わる』んだとしたら、普通に考えて母親とかと入れ替わるはずなのに。ここ、俺の部屋の真上にある屋上だよな?
あいつん家、歩いて10分くらいかかるほど遠くなのに、なんでまたこんなところにいたんだ……?」