10
大学も四年になって、俺、小鳥遊寿は焦っていた。
恋人の和文さんとは俺が卒業したら一緒に住もうと計画をたてている。
両親には二年程前に「卒業したら結婚する!」宣言をして一応認めてもらっている。うちには跡を継げる弟もいるし、父は元々和文さんがお気に入りだ。母に至っては学生の頃……そういう、なんだ、同性愛的なマンガに嵌まっていた時期があったらしく、反対はない環境で助かった。和文さんを悪く言われてはたまらない。
俺自身も実家にいるときから男女問わずに付き合っている人を紹介していたものだから、この期に及ぶまでこんな重大なことに気がつけなかった。
和文さんの方は、そういうわけにもいかないんじゃないかと思い至ったその年の冬。
彼は一人っ子だ。和文さんは俺のことはおろか自分の性志向についてもご両親に打ち明けてはいない。
俺たちは話し合い、和文さんのご両親に一度挨拶に伺うことにした。
晴れたある日、ふたりで武内家の玄関にならんだ。和文さんのお母さんがドアを開けると途端に表情が変わった。和文さんは「大切な人を連れていく」と、ご両親に話していた。そして隣にいるのは俺だ。かわいい女の子ではない。
リビングの空気は重かった。一通り和文さんが説明すると、お父さんはため息をついた。しばらくの沈黙のあと、重い口を開いた。
「本気なんだな」
「はい」
「寿くんも」
「……はい」
「それならいうことは何もない。後悔しないようにふたりでよく話し合って頑張りなさい」
「……あ、ありがとうございます」
しかしちらりと見たお母さんの顔は依然曇っていた。そして「少し考えさせて」と言い残し、席を立った。
その日はそれで、武内家を後にした。俺たちは和文さんの部屋に帰りつき、それでも会話はなかった。
当然なのに、やっぱり痛い。
和文さんの近況を聞きに行った四年前の春。お母さんはアルバムや記念品を広げながら、小さい頃からの和文さんの話を何時間もしてくれた。楽しそうに笑って、時に涙ぐんで。
心から彼を愛していると知っているけれど、ごめんなさい、俺はもう、和文さんと離れられそうにない。
たまたま授業が早く終わった午後。少し食材を買いだめしておこうかとスーパーに立ち寄った。かごを持って店内に踏み出したとき、声をかけられた。
「……寿くんじゃない?」
和文さんのお母さんだった。
「先日は突然驚かせてしまって……」
「あー……ねえ、時間ある? お茶しない?」
スーパーの中にあるカフェで向かい合って座る。この間とは違う和らいだ顔をしていた。
「本当に申し訳ありません。大切な息子さんを、俺……」
紙のカップに入ったコーヒーを挟んでお母さんがまっすぐ俺の顔を見つめる。
「……何で謝るの? 悪いことしてるの?」
「いえっ。そんなことは決して!」
「じゃあ、謝らないで。……誤解させちゃったね。あのね、私、迷っちゃったの。君たち幸せになれるのかなーって。だって、結婚も今の日本じゃできないでしょ? 子供だって望めない。寿くんも教師になるんでしょ? お仕事に差し支えないのかな? 和文の方がうんと年上で先に死んじゃったとき頼れる人もいないじゃない。事故で病院に運ばれたってICUとか入れない。不安じゃない? それでもいいの?」
「……えっと、和文さんが男の恋人連れてきたのがショックだったんじゃなくて?」
「いや? だって私、君のお兄ちゃんにうちに嫁にならないかってスカウトしたくらいだもん」
「間違いなく孫をお見せすることはできませんが……」
「あら、相手が女の子だって『間違いなく』なんてないわよ。そっちの方が本人たちは辛いわよ?」
「世間体とか」
「今さら何言ってんのよ。ふたりでよく考えて、それでも選んだことなんでしょ? 想い合う気持ちはふたりだけのものよ。回りがとやかく言うくらいで揺れてるくらいなら、最初からやめときなさいって」
お母さんは、ふう、とため息をついた。少し冷めてしまったコーヒーを口元に運んで、飲まずにそのままの姿勢で店内に視線を走らせた。母親と買い物に来た子供がはしゃいで店内で声をあげている。
「和文が登校拒否してたときの話もしたよね」
さっきの子供が紙パックのジュースを持ったまま奇声をあげて店内を走り出した。その子供を目を細めて見つめたまま、ゆっくりと話し出す。
「和文ね、私たちのことも恨んでたと思うの」
「……え?」
「小鳥遊さんの家のご事情は知ってたの。でもまさか、あんなことになるなんて夢にも思わなかった。あの日、和文は篤生くんが帰ろうとするのを珍しく引き止めてたの。でもお母さんが帰ってくるのを楽しみにしていた篤生くんは家に帰ってしまった」
「……」
「私たちが友人としてもっと、小鳥遊さんの状態を理解していたらもしかしてって何度も考えた。あれから何年もたって子供を巻き込んだ事件や事故を耳にするたびに、やっぱり回りのサポートが必要だったんだって痛いほど思うの。たぶん和文だってそう思ってたはず。だから長い間私たちを許さなかった。口もきかなかった」
「そんなことは……」
目の前の人は、悲しそうに笑う。その笑顔はいつかの和文さんによく似ていた。
「他人の家にね、介入することが簡単なことじゃないっていうのももちろんわかってるの。でもあのとき私には確かにやれることがあったはず。それができていれば小鳥遊さんに、あんな悲しいことをさせなくて済んだかもしれないのに……」
みんな、悲しんでいたんだ。誰も悪くなんかなかったのに。
それでも俺は、今ここにいることを、それだけを信じたいから。
「そうかもしれません。誠人のお母さんを助ける方法はあったのかもしれない。でももし、その事故がなければ、俺は父さんにも誠人にも会えなかった。父は俺のことも本当の子供と分け隔てなく育ててくれました。父の子になれなかったら、俺はもっと寂しい子供時代を過ごしていたと思います。父と出会えていなければ、和文さんとも会えなかった」
初めての夜。健全とは言えないバーのカウンターで、ひとりうつむいていた和文さん。さんざん迷った俺が後ろからそっと声をかけると、今にも泣き出しそうな顔で振り返った。
その瞬間に俺は決めたんだ。和文さんが辛いとき、そばにいてあげられる人になろう。望むときにいつでも手を差し出そう。
いつまでそうしていられるかなんてわからない。でも、和文さんが求めてくれるなら、いつまでだってそうしてあげたいと。
「和文さんは、ずっと苦しんでいました。兄ちゃんをおいて、自分だけが大人になってしまったことを責めてた。ずっと寂しくて、ずっと後悔して。それでも負けまいと懸命に闘う和文さんを俺は好きになりました」
和文さんが淡く笑う顔が好きだ。俺を優しく包んでくれる腕が好きだ。照れて下を向く仕草や、担任をしている子供たちの話をする嬉しそうな表情。
どこを切り取っても、どの角度から見ても涙が出るほどかけがえのない瞬間だと思えてしまう。
「必ず幸せにしますなんて、そんな大それた約束は出来そうにもありません。でも俺は今、すごく幸せです。こうやって和文さんの好きなものを考えながら買い物することや、くだらないテレビで笑いあったりすることや。何でもなく朝目覚めることだってすごく幸せです。そんなこと、和文さんに会うまでは考えたこともなかった。それがすごく嬉しいんです」
明日なんてどうなるかもわからない。でもそれは俺たちみたいな恋人同士だけじゃなく、誰もが同じだ。
明日悲しい別れが来るかもしれない。病気や怪我に苦しむかもしれない。自然災害で何もかも失うかもしれない。
だけど、そうかもしれないことを憂いて、目の前の小さく輝く時を曇らせたくはない。精一杯に抱き締めていたい。
例えそれが、世間から眉をひそめられる行為だったとしても、自分の信じた道をしゃかりきに進むことは、俺ができる唯一の親孝行でもあると思うから。
「……親なんて、子供はいつまでも子供だからずっと心配で心配でどうしようもないのよ。どんなに幸せだって、気になって仕方ない。君たちのことだってそう。ふたりでいるのが一番いいってわかっていても、もっと違う幸せがあるんじゃないかって思っちゃう。特に寿くんは若いし、和文なんてすぐにおじさんになっちゃうのにいいのかーって」
いたずらっぽく、ふふっ、とお母さんが笑って言った。
「でも、今思い出した。部屋に閉じ籠ってた和文が、学校に行くって部屋から出てきた朝にね、私たちに『おはよう』って言ったの。その時にね、ああ、もうこの子が笑っててくれるなら何でもいいって。勉強もスポーツも何もできなくていい。笑って、そこにいてくれるだけでいいって思ったこと。……勝手よね。篤生くんは亡くなって、もう笑うことも泣くこともできないのに。君たちは親にはなれないけど覚えておいてね。親なんてそんなもんよ……まだぐじぐじ悩んでるし。それも、私の勝手。気にしないで笑ってて」
俺とお母さんは大の仲良しになった。しょっちゅう電話やLINEで近況を伝え合うし、和文さんがいなくても一緒に出掛けたりする。
写真館で記念写真を撮ったらいいんじゃないか提案したのも、実はお母さんだった。
「なんかね、幸せになれるって都市伝説がある写真屋さんなのよ。写真だけなら衣装もただで貸してくれるみたいだし、写真代だけじゃない? それでそのあと会費制で簡単な食事会とかするの。和文、びっくりさせちゃえば?」
そうと決まれば、写真屋さんやレストランとの打ち合わせをしたり、バイトを増やしたり。和文さんに内緒の作業は心苦しいような、ワクワクするような。
ただ、少しだけ迷うことがあった。
最初はお互いの家族だけを集めようと思っていた。それなのに計画を進めるごとに、ある人に見届けてほしいと思う気持ちが強くなってきた。
中田紗月。彼に、来てもらうわけにはいかないだろうか。
あの件があってしばらくしてからふたりはちゃんと顔を会わせて和解した。だから、もう、彼の人生に関わることはかえって迷惑なのかもしれない。
たぶんこれは、俺のエゴだ。
和文さんは、長い間彼に心を奪われていた。勘違いでなかったら、きっと彼も和文さんを好きでいた時期があったはずだ。
俺はそんな彼に、自分たちを見せつけたいのかもしれない。彼ではなく、俺と幸せになる和文さんを。
小さいな、俺。悲しいくらいにみっともない。
それでも、そうせずにはいられなかった。
「和文さん、中田紗月くんって、今何してるか知ってる?」
「……大学生だよ、なんで?」
「いやー? 遊びに来ればいいのに、とか?」
「お前、絶対会いたくないだろ」
「ははは」
などと、ごまかしきれてない感ありありだったけど、なんとか通ってる大学を聞き出せた。
お、いた。
しばらくしてからの平日。彼の通う大学の庭でぼんやりと探していた。電車で二時間近く。これを毎朝通っているのだとか。なんで引っ越さないのかはわからないが、医学部だというからそのうち限界が来るだろうことは想像に容易い。
そんな道のりを何日かは通う覚悟でいたので、ラッキーだ。
和文さんが彼に救われていたことは確かだ。そしてふたりは惹かれ合っていた。
タイミングが悪かったと言えば身も蓋もない。運命は彼らを一緒にしなかった、それだけのことだ。自分がしようとしていることは、ただの自己満足だ。ただただ俺は、和文さんを見せびらかしたい。俺と生きていくんだと、ふたりで幸せになるんだと。
紗月くんだけじゃない。世界中に、俺が和文さんの恋人だと。
「中田紗月くん?」
「はい?……あ」
彼は俺の顔を見てハッとなにか思い出したようだ。ああ、そうか。彼は一度俺を見ている。きっといい印象はなかったに違いない。
「あ、あの……」
「あ、ごめん。俺、小鳥遊寿っていうんだけど、少し話できない?」
「あー、実は次も講義があって。待っていていただいてもいいでしょうか?」
「うん、学食とかある? そこで待ってる」
教えてもらったカフェでお茶を飲んで待っていた。もうすぐ春だ。ポカポカと気持ちのよい日差しに眠たくなってくる。
どのくらいそうしていたか、うつらうつらしていた俺に遠慮がちな声がかかった。
「あ、の」
「んああー……あ、ごめん、寝てたか……来てくれてありがと……」
「いえこちらこそ、お待たせして」
紗月くんは自分も持ってきたコーヒーを目の前において腰かけた。そしてまっすぐ俺を見ると少し不安げな顔になって「それで、お話って……」と切り出した。
「うん、えっと……」
情けないことに、少し怯んでしまった。まっすぐな瞳に、長く報われなかった恋の前に。
和文さんが今好きなのは、俺
和文さんが今好きなのは、俺
心の中でそう繰り返す。彼の前のコーヒーに落とした視線をぐいと上げる。意識的に空気を吸って、一息に言った。
「今度俺と和文さん、結婚するんだ。それで、簡単な披露宴するから来てもらえないかと思って」
「……え、結婚?」
「うん、結婚」
「……」
「ビックリした?」
「はい……って、出来るんですか?」
「や、さすがに入籍とかは無理だから、気持ちだけ」
紗月くんはしばらく呆けていたけれど、急にクスッと笑った。
「……すごい、やっぱり」
「やっぱり?」
それまでシャキッと伸ばしていた背筋をほんの少し緩めた彼が、俺を見てさらに笑みを深くする。
「以前、お二人を見かけたことがあって。そのときの先生はなんだか知らない人に思えた。たぶん、僕が知っている先生は生徒の前で見せる先生の部分だけで、本当の先生はあなたと一緒のときの顔だったんだろうなって気づいて……それで僕は先生に会わないことに決めたんです」
それはまだ、和文さんが俺が何者かも知らないで都合のいい恋人ごっこをしていた頃だ。和文さんに限っての話だけれど。
彼の目にそんな風に映っていたのなら、少し嬉しい。
でも、和文さん、俺が原因で振られただなんて知ったら怒るだろうか。笑ってくれると、いいな。
紗月くんが少し寂しそうな顔になる。そうか。彼にしても長くこじらせた想いをやっと昇華させたばかりなのだ。彼のように自分が今の気持ちを手放さなければならなかったらと考えると苦しくなる。
「最後に会ったとき、先生は幸せだって言ってました。あなたとだったからなんですね」
「……和文さんが?」
「はい。一番最後にお会いしたとき、今幸せですか? って僕が聞いたら」
「……そうなんだ」
不覚にも、泣きそうになった。俺は彼に一番祝福して欲しかったのかもしれない。
紗月くんは照れくさそうに笑うと「おめでとうございます末長くお幸せに」と言ってくれた。俺たちの年齢だと、まだ言い慣れない言葉だ。そして披露宴には必ず出席すると約束してくれた。
結婚といえば、単純かもしれないけれど。俺はジュエリーショップの前でショーケースを睨み付けたまま立ち尽くしていた。
ブライダルリングを買おうと思ったのだ。
結婚の事実がないのに、そんなものを職場に付けては行けない。つまり、買ったところでなんの意味もないものになってしまう可能性が高いのだ。
それでも贈りたいと思った。誰にも見せることができなくても、小さなリングでふたりを縛ってしまいたかった。
ショップの前で懊脳すること三十分。さぞや気味が悪かったのだろう、女性店員に背中を押された男性店員が表まで様子を見に来て「何かお探しでしょうか?」と聞いた。
俺は覚悟を決めて「結婚指輪を探しています!」と大きな声で答えた。
そんなに大きな声じゃなくてもよかったと思う。道行く人がクスクス笑っているのに気づいてどっと汗が出た。まだ一歩も店内に入っていないのに。
なんとか調べてきた和文さんのサイズと少ない予算を伝えると、店員はいくつかのリングを持ってきてくれた。
「彼女にデザインの相談はしなくてよろしいんですか? 一生ものですから」
「はい、贈ることも秘密にしているので」
「指輪も要らないなんて、慎ましやかな奥さまですね」
たぶん、俺が若いから金がなくて彼女が遠慮しているカップルとでも思われたのだろう。金がないのは確かだけど、思われているような理由でリングを躊躇していた訳じゃない。それでも、そのまま彼の想像に乗っかって目の前のリングを選び始めた。
さっき恐る恐る様子を見に来た人とは思えない、親身になって相談に乗ってくれた店員のお陰で、俺はひとつのリングを選び出した。
「これ……」
「こちらも人気のデザインですよ。シンプルだけど丸みのあるウェーブのデザインが手に馴染みます。どうぞ試してみてください」
勧められるがまま、プラチナを左手薬指に付けてみる。こんな小さいものなのに、ずしりと重い。柔らかいもののように指の上で描いた曲線が和文さんの少し照れた顔に重なって、俺はそのリングに決めたのだった。
「内側に名前やメッセージが彫れますが、いかがしますか?」
「……」
人気のメッセージなどが書いてある表を差し出しながら店員が聞く。定番だろうと思われる、『LOVE』『Forever』などの言葉が並ぶ紙を見つめながら、俺たちの関係にはどんな言葉がふさわしいのか考えた。
もちろん、『LOVE』だし『Forever』を祈っている。だけど何か……もっとしっくりくる言葉が俺たちの間にはあったような気がする。
『ずっと、だからな?』
『和文さん?』
『好きだよ、寿』
「……ずっと」
あのとき和文さんは俺に『ずっと』を望んだ。
ずっと一緒に、ずっと変わらない、ずっと好きでいる。
それは簡単なようだけれど難しいことを俺たちはもう知っている。知っていたからこそ、彼はその言葉を選んだのではなかったか。
「eternally……でお願いします」
「永久に、いつまでも、ですね」
「そうですね……照れますね」
「そこは照れずに堂々と贈ってください。最初で最後の約束ですから」
「……そうか、最後の約束でもあるわけですね」
きっと、今までにたくさんの恋人たちにさまざまな言葉をかけてきたのであろう店員は、必要事項を用紙に書き込みながら微笑んでいた。
永遠を約束するなら、それは二人の最後の願いだ。一年でも、一日でも長くふたりでいられるといい。
特別なことは何も要らない。出来れば健康で、出来れば明日の心配のない、そのくらいのささやかな日常を和文さんと紡いでいきたい。
「あ、忘れてた」
「はい、何かありましたか?」
「……これ、両方メンズって出来るんでしょうか」
一番肝心なことを聞き忘れていた。変に思われるだろうか、怪訝な顔をされるだろうか。
あまり他人の目を気にして生きてこなかった。そもそも子供の頃からよそと自分が違うのが当たり前の家庭だったせいもあるかもしれないが、こうして自分のことを初めて打ち明けるときには少なからず緊張する。
でも彼はさっきと同じ優しい微笑みで
「承知しました」
と言ったのだ。
写真館との打ち合わせも滞りない。レストランも押さえてある。来てもらう人には連絡済みだし、あとはリングの完成と当日を待つだけだ。
和文さんのお母さんはああ言っていたけど、俺たちはただ笑っているだけなんてできないと思う。
男女のカップルにだって恐らく難しいのに、俺たちは戸籍で縛ることもできない。子供という絆もない。本当に困ったことがあったとき助ける術がないかもしれない。
社会的には認めてもらえない俺たちだから些細なことでつまずくこともあるだろう。
不安、嫉妬、疑い。
それらからはきっと逃れられない。そんなことは十分承知だ。
それでも俺は、和文さんとでなければ歩けない人生を選ぶ。他の誰でもない、たったひとりの和文さんとしか見ることのできない明日を見たい。
その事を、彼もまた望んでくれているといい。
明日も明後日も、ずっと、いつまでも。
本編はここでおしまいです。どうもありがとうございました♪
明日から2日、おまけ小話をお届けします。お時間ありましたらお付き合いください!