ミリナの話
実習は大変だけどだんだん楽しくなってくる。
でも疲れるので小説書く時間が・・・。
結婚式から十日程経ったある日のことである。
「ごめんアルくん! 匿って!」
そう言ってうちに駆け込んできたミリナを家に上げたのは三十分程前の話だ。
結婚式の日に「お邪魔しちゃいけないし次来るのは一ヶ月後ぐらいにするわね」とか言ってたのはなんだったのか。
というかそういう気遣いいらんのよ?そりゃ跡継ぎはひつようだけどそんな急ぐ必要もないんじゃ・・・産めよ増やせよな昔の農村じゃあるまいし。
それはともかく。
うちに来た理由だがなんでも俺とエリシアの結婚に触発された男どものアプローチが激しさを増したらしい。
「で、押しが強くなってきて逃げてきたと」
「しょうがないじゃない。 まさか家にまで押し掛けてくるなんて思わなかったんだもの」
大きなため息を吐いてるとこを見るに相当迷惑だったんだろう。
たしかミリナは母親と二人で暮らしてるんだったっけ。ミリナの母は元メイドで今は針子の仕事をしていると聞いたな。
そんな家に貴族の嫡子たちが押し掛ける・・・よく騒ぎにならなかったな。下手すりゃミリナの家周辺に迷惑かけるだけじゃなくてそれぞれの実家にも話行ってたんじゃないか?
「多少なら揉み消されるわよ。 誰だって汚点は隠したいものだわ」
汚点っつたな今。仮にも攻略した相手のことを。
「私が言えたことじゃないけど情熱だけで恋愛しないでほしいわ・・・」
物語なら盛り上がるけどね。だがしかし、悲しいかなここは現実。しかも今んとこ一方通行な恋と来たもんだ。うわあ、焦らしすぎて拗らせたんじゃない?
「あんまりしつこいなら逃げてきてもいいけど」
「そう言ってくれるのはうれしいわ。 そう頻繁には来れないのよね。 学友と言っても限度はあるし」
言われればたしかにそうだ。
新婚の家に仲の良かった女が頻繁に訪れれば邪推してくる人もいるだろう。そうでなくても庶子と仲良くすることをよく思わない人間も親戚にはいる。そいつらにたいした力は無いけど放置すれば面倒事を招くだろう。
うーむ、どうしたものか。
悩んでると家のどこかから「なんで起こしてくれませんのー!?」という声が聞こえた。エリシアが起きたみたいだな。というか昨日寝る直前に明日は起こさないでほしいって言ってなかったっけ?
それから少しして廊下を急ぎ足で、というより小走りする音が聞こえ扉の前で止まった。そしてゆっくりと扉が開き、さも余裕ありありですよといった様子のエリシアが現れた。
「あらミリナさん、こんな朝早くからどうしましたの?」
どうやら何もなかったことにする気らしい。
そんな妻を生暖かい目で見ながら残酷な真実を告げてやることにした。
「もうすぐ昼だよエリシア」
「えっ!? ・・・しょ、少々寝すぎてしまいましたわね」
取り繕おうとしてるけどさっきの声はこっちまで聞こえてたんだよね。残念なことに。
というわけでエリシアも交えて相談タイム開始だ。正直こういう相談はエリシアの方が適役だろうから任せていいだろ。
というか俺は知らないうちに結婚が決まっていた実績があるから役にたたんよ絶対に。
「相手のことを考えないで愛を語るなんて信じられませんわ!」
これまでのあらすじを聞いたエリシアがドンとテーブルを叩いた。
「俺は結婚のこと当日に聞かされたけどね」
「改めて聞くととんでもないわ。 よく受け入れたわね?」
「驚いたけど嫌ではなかったし。 流石に外堀埋められてたのは予想外だったけども」
でもびっくりってレベルではなかった。あんな奇襲はもう経験したくない。
「・・・それは置いといてですわ!」
目を逸らされた。棚上げですねわかります。
「お兄さま、ちょっと女の子同士のお話がしたいので席を外してほしいですわ」
「いいけど何か考えあるの?」
「もちろんですわ」
自信満々に胸を張るエリシアにそこはかとない不安を抱きつつも任せることにした。
貴族らしさでは俺より上のエリシアのことだ。問題はないはず。・・・大丈夫だ、妻を信じろ。たまにやらかすけど基本有能だ。
それから三十分ぐらいして二人が部屋から出てきた。
「というわけでミリナさんをメイドとして雇いますわ!」
「どうしてそうなった」
ほんとどうしてそうなったのか。いや別に
「でもお兄さま。 どうせミリナさんと交友を続ける限り言いがかりはつけられますわ。 でしたらいっそのこと堂々と雇ったしまえばいいのですわ」
それ開き直りって言うんですよ。でもたしかにそうかもしれない。それに貴族の娘や庶子がメイドをするのは珍しい話じゃない。箔をつけるためにどこかの家で働いてから嫁入りするのは下流貴族では当たり前のことだ。たまに何かに目覚めてメイド道を突き進む娘もいるけど。
それとミリナは学園を卒業したという実績はあるけどストーキングされてる現状じゃそれを活用することは難しい。だから手に職つけとくのも良いだろう。母親がメイドだったんだから
なによりアプローチかけてきてる男どもも家にはそう易々と来れないし誰かに嫁ぐにしてもリーンベル家はそれなりの家だからちゃんと箔もつく。
うん、貴族の庶子の進路としてはいいんじゃないだろうか。
「なにより我が家の使用人であれば如何に貴族の嫡男であろうと手は出せませんわ!」
「そうなの? それならありがたいのだけど」
簡単に説明すると使用人は雇い主の財産として扱われるのだ。だから使用人が結婚するときは主の許可が必要だったりする。これは勝手にその辺の人間と繋がりを作らせないためらしい。まあ大体使用人は使用人同士で結婚することが多いからそこまで意識はしてないけどな。でもほら勝手に結婚して寿退社されても困るし。
話が逸れたがそんなわけでミリナの安全は確保できるのである。何気にリーンベル家の格は高いので権力に任せて無理矢理みたいなのもできないしな!流石にそんな人間はいないけど。そんなん乙女ゲーで出せるもんか。
「あ、ついでにミリナさんのお母様もうちで働いてもらおうと思いますわ。 」
「え? ミリナのお母さんも?」
ちょっと待って。うち別にメイド足りてないわけじゃないよね?なのに一人ならともかく二人も雇うの?給金とかどうするのか。勝手に決めるにしてももうちょっと考えてから・・・ああもうメイド長!メイド長はやくきてー!
その後お義父さんやお義母さん、メイド長とも話し合って無事二人を雇うことになった。正直ミリナのお母さんがまだメイドスキルを保持していなかったら厳しかっただろう。
それで今は研修中だ。メイド長厳しいからミリナのお母さんはともかくミリナは大変な思いをしてるだろうな。
まあその分きちんとしたメイドになるから我慢してもらいたい。技術さえ身につければ知り合い補正で出世は早いだろうし。
あとは正式に雇う前にした約束をミリナが守ってくれることを祈るだけだ。
その約束っていうのは『ちゃんと答えを出すこと』。
誰かを選ぶにしろ選ばないにしろその気持ちをちゃんと男衆に伝えなさいってことだ。
男共の勢いにびびったのはしかたないけど逃げ続けるのは奴らと同じ男として認められない。ま、軽い気持ちだったとはいえ惚れさせてしまった以上は最低限の責任は果たしてもらおう。
・・・答え出さなきゃヒートアップが目に見えてるし。
さてさて、ミリナはどんな答えを出すのかな?エリシアと一緒に楽しみに待たせてもらうとしよう。
次で完結する予定です。