結婚式の話
小説のデータが消えたりしたけど私は元気です。
他者視点?奴は死んだよ。
空を見上げるとどこまでも続いてそうな青空が広がっていた。
ああ、今日はいい天気。いわゆる雲ひとつない空というやつだ。晴天!
俺としてはちょっと雲があるくらいがちょうどいいと思うんだけど、ほらまばらに雲があった方がなんだか空!って感じがするし。まあその辺は個人の嗜好だね。
まあ何にせよめでたい日にはもってこいの天気だろう。
そう、なにを隠そう今日は結婚式があるのだ。
え?誰の結婚式かって?
あーえっとそれは・・・・・・俺とエリシアのなんです。ははは。うん、察せよ。現実逃避ってやつだよ。
まあもう真っ白なタキシード着てるしそもそもここ控え室だし逃げ場ないけどな!ああ、現実に引き戻される・・・・・・。
あ、現実逃避してたわけだけど別に結婚が嫌なわけではない。だって俺は婿入りする立場だけど叔母さんたちとの仲は良いし昔から入り浸ってたから使用人たちとも顔見知りなので不安は少ない。
まあ、しいて言うならちょっと結婚早いかなーとは思うけどそれだってこっちの常識からすれば特に早いわけではない。同級生の中にはもう結婚してる人がいることを考えれば遅いとも言える。
それにこれでも俺は貴族として生まれ育ったのだ。結婚に関する価値観はどっちかっていうと貴族寄りだ。貴族の世界では結婚に愛だとかを求める方が珍しい。あるに越したことはないが大体は家同士の繋がりとかそういう利益を求めて行われる。当然俺もそういう教育を受けてきた。だからどんな相手と結婚することになろうと文句は言わないつもりだった。
まあ相手がエリシアなら文句なんてないのだが。
ん?で、結局現実逃避してた理由はなんだって?
・・・・・・いや、だってさ。
結婚のこと知ったの今日なんだもの。
もう一度言おう。
結婚式の日程どころか今日俺とエリシアが結婚することを聞かされたの今朝です。
だからちょっとくらい現実逃避したっていいと思うんだよね。
あ、母の声が聞こえる。なに?まだ式には早いはずだけど・・・・・・え?もう新婦の準備整ったの?早いね。現実逃避終了のお知らせですね。
はいはい、行きますよ。いや逃げないから。あ、ちょっと母さん腕掴まないで。引っ張らないで。歩くから。歩けるから。
父さんも母さんに何か言って・・・・・・いや、父さんなんで逆側の腕掴むの?捕らわれた宇宙人みたいな感じになってるよ?やめて恥ずかしい!ああ、式場に向かわないで!歩くから!自分で歩くから!
そんなわけで両親から突然の辱しめを受けたわけだが式が始まってからは順調で誓いの言葉も指輪交換も全部やって無事に結婚式は幕を閉じた。現在は披露宴ということでみんなでわいわいパーティーをやっているわけだ。
え?肝心の結婚式はどうだったのかって?
いや至って普通の結婚式だったよ?サプライズとか花嫁を奪いに来るようなイベントもなかったし万事滞りなく進んだ。
というかふざける余裕なんて無いからね。緊張でガッチガチだったしもう疲れたよ。
というかさっきからひっきりなしに親戚とかリーンベル家と付き合いがあった人とか学校の先生とか学友たちが挨拶に来て休めねえ!
友達のみんなは疲れてるの察して簡単な挨拶で終わらせてくれるけど新しい親戚たちめ、長々と話しやがって……!
「やっほ、アルくん。 お疲れ?」
「ミリナ……見りゃわかるでしょ」
人の列が途切れたらミリナがやって来た。
「あ、招待ありがとうね。 さすがにこういう日は気軽に来れないもの」
むしろ普通の日なら平気で遊びに来れるあたりに図太さを感じる。
とある貴族の庶子であるミリナの身分はあくまで平民である。父親に認知されているし援助も受け学校にも行かせてもらったがそれでも貴族としては認められていない。
だからこういった貴族が集まる場所には本来来れないのである。
まあエリシアはそんなの気にせず招待状送ったがな!俺としても異論はない。だって友達だし。
「俺たちは気にしないけどうるさいのもいるからね。 まったく貴族社会はめんどくさい」
「それあなたが言う?」
貴族だから言えることでもあるんだけれどね。
「にしてもアルくんとエリシアが結婚なんてね。 学校にいた頃からこうなるんだろうとは思ってたけどなんだか不思議な気分よ」
「そういうミリナはどうなのさ。 嫁ぎ先なら不自由しないだろうに」
「うぐっ。 あー、その話は今はいいでしょ?」
なるほど。苦労してるみたいだ。きっと空気読まないアプローチが連日行われているのだろう。前にそんな噂を聞いた覚えがある。
ちなみにその攻略対象たちも来てるはずだ。ミリナ経由で俺とエリシアとも面識はあったから一応招待したらしい。今頃会場のどこかで牽制しあっているのだろう。騒いだら追い出そう。
「お兄さまったらひどいですわ! こんなにかわいい妻がいますのにミリナさんとばっかりお話しするなんて!」
ミリナといろいろ話してたらようやく挨拶が終わったらしいエリシアがこっちに来た。ドレスで走るのは止めなさい。転ぶよ。
「あら、それなら私はもう下がってたほうがいいかしら」
「駄目ですわ! ミリナさんともお話したいんですの!」
どうしろってんだよお前。ミリナも苦笑してるし。ま、学生の時みたく三人でおしゃべりでもするかな。
時間が経つのは早いもので夜になった。お祝いに来た人たちは帰りミリナも他の人よりは長居したものの今日は泊まることなく帰っていった。
今はエリシアとバルコニーで静かに夜空を見上げている。
すでに見慣れてしまった地球のものとは違う星空。この星空を見ていると前世の記憶はただの夢だったんじゃないかって思うときもある。まあ夢じゃないんだけどね。俺以外の証人もいるし。
というか結婚しちゃったんだなー。前世ではしてなかったのに。早死にしたからしてなくてよかったんだろうけど今度は長生きしなきゃなー。
とか思ってたらエリシアが身体を寄せてきた。
「本当にわたくし、お兄さまと夫婦になれたんですわね。 夢みたいですわ……」
「夢ってお前が計画したことだろうに。 こっちは今朝まで何も知らされてなかったんだぞ?」
むしろこっちがあまりに展開が早すぎて夢かと思ったわ。直前まで新郎がハブられてたとか前代未聞だよ。こちらとら主役の片割れぞ?
「ええと、言い出す勇気がなかなか出なかったんですの。 そういているうちにそのー、ずるずると……」
だからって当日言うかね?いやオーケーしちゃった俺も人のこと言えないだろうけども。結果的にだけどファーストキスが結婚式というピュアにも程があるかんじになったけども。
……そういえば流され流されでちゃんと言ってなかったな。
「エリシア」
「なんですの?」
「愛してる」
「……っ!? ず、ずるいですわそういうの! もうちょっと心の準備をさせてくれないと……その、困りますわ!」
こういうのは思ったときに言うのが一番だと思うんだよね。あー、でも恥ずかしい。
まあ結婚したのに愛してるも言わないなんてあれだしね。
「お、お兄さま」
なに?
「……わ、わたくしも愛してますわ」
……うん。言われるのも恥ずかしい。でもそれ以上にうれしいもんだな。誰かに愛されるってのは。
嬉しすぎて思わずエリシアに二度目のキスをしてしまったのだがそれはまあ別の話としよう。
あと多くても二、三話かなー?後日談的な話をさっと書いて終わりにします。