04 『聖剣』のカタチ
『魔王』が『消滅』した今、『聖剣』も『消滅』する。
『魔王』を倒す為だけに存在した『聖剣』。その『聖剣』が今も目の前にある。
もしかして、まだ『魔王』が存在するのだろうか?
しかし、『魔物』も『魔法』も消えた…。『魔王』だけが存在するのか?
俺は何故『聖剣』に違和感を感じたのか…。
「そうか…『聖剣』が『昔』と変わってないんだ…」
『勇者』が手にする時の光り輝く剣…彼の為に生み出される形状…
その光景に圧倒され 眩しいはずの光を食い入るように見つめていた昔の『俺』
「『聖剣』がどうかしたのか?」
俺の様子を心配して顔を覗き込むように彼は話しかけてきた。
「『聖剣』は、ずっと同じ形成を?」
「あぁ、村に 飾ってあった時から、この形だが?」
『魔王』を倒した『聖剣』に『魔王』の気配がなかった…。
『封印』ではなく、3ヵ月後『魔物』と共に『魔法』も世界から『消滅』した。
『勇者』『聖女』『戦士』『魔法使い』『賢者』『吟遊詩人』『・・・』
『記憶』 『記憶』 『・・・』
…『記憶』が今を否定する。気づいては戻れないと。
「すいません。今日は疲れているみたいなので、これで失礼を…」
俺は、この場から抜け出すため席を立つ。何だか息苦しい…。上手く笑みを作れているだろうか?
手の振るえさえも止める事が出来ない。確認する勇気さえもない。
「…『勇者』さま…『聖剣』をお借りしてもいいですか?」
『聖女』さまの声が震えて擦れていた。
それ以上は、駄目だ!気づいてしまったら…もう…
「えっ?どうしたんだ…?」
「駄目です!!それは…!」
俺は、『聖女』さまの肩を掴む。頼む!気がつかないでくれ!
ぽたり…っと手のひらから血が滴りおちる。『聖女』さまは、その手を唖然と見つめる。
「ちょっと、大丈夫なの?『魔法』使えないんだから怪我しないでよ」
「大丈夫か?今手当てを…」
「…私は…」
『聖女』さまはその場に膝をつく。俺は、自分の失態に言葉がでない。『聖女』さまに置いていた手を離そうとした時、『聖女』さまが俺の握りしめ何かを決意した様に立ち上がった。ここに居るように…っということだろう。
「『聖剣』は、『勇者』によって形成が変わる。『聖剣』は『聖女』を傷つける事はない。この『聖剣』は贋物なのですね…」
これは、確認なのだろう。少しの間を空けて俺は、「はい」と答えた。ここで嘘を言っても、もう遅いのだろう。
『聖剣』だったはずのものが、『聖女』を傷つけたのだから…。
「ちょっと、『聖剣』が贋物だから何だっていうの?本物は…?」
「『封印』は、『聖剣』に宿った『魔王』を体に移してからもすぐに『封印』するワケじゃないのです」
静かに語りだす『聖女』さまに、誰も口を挟めない。『聖女』さまは続ける…。
「体に、『魔王』の力を馴染ませてから『封印』の儀を行える場所でもう一度『聖剣』で体を貫きます。その時にはもう『魔王』と同化した『聖女』は『聖剣』によって消える…」
「その『封印』に使われる場所は、どこに?」
「…『勇者』の村…その奥に…」
そうか…だから 帰ったのか…。誰にも怪しまれないよう、問題を起こしてこの場所を去った。
目撃者が多ければ多いほど、ここに留まる事が出来なくなる。人目の多い場所で何かを起こしたのもその為だろう。
もしもの事がないように、きっと『聖剣』を『聖女』にむけて…。
今思えば、彼女に関しては色々思う所が多々あった。
その疑問に、どうして今まで触れなかったのか…。簡単な話だ。彼女が俺を避けていたから。この時点でもっと怪しむべきだった。自分の容姿で女の子を怖がらせているのだろうと彼女の行動にまったく疑問に思ってなかった。
離脱したあの死闘で 実は、彼女に助けられていた。死を予感していたが彼女が投げた短剣で助かったのだ。意識を失う寸前であったのに、一撃で倒した短剣を見て「ええ~うそだろ」っと突っ込んでしまったのは当然の行動だと思う。俺が必死に相手していた魔物が一撃で、しかも短剣でだ。俺が、相手を追い込んでいたとも考えられるが…それでも一撃はない。おそらくあの短剣が『聖剣』であったのだろう。
「だから!なんなのさっ!説明してよ!」
『魔法使い』の言葉に俺は、どう言えばいいか分からなかった。『戦士』も眉間に皺をよせて俺を見ている。『聖女』さまからのこれ以上の言葉は望めないと判断したのだろう。
「…私は、『勇者』ではなかったんだな…」
『魔法使い』の問いに答えたのは、『勇者』の村で生き残った2人のうちの一人…彼だった。
『聖女』さまの取り乱し様に気が付いたのか…。彼の動揺が伝わってくる。
『魔王』を倒す事が出来るのは『聖剣』のみ。しかし『魔王』は倒された。彼が持っていた『聖剣』は贋物だった。では、何故『魔王』は倒されたのか…。彼のほかに『聖剣』を持っていたからだ。『勇者』の村で育った者がもう一人いた。そして彼は気が付いた。
彼女が『勇者』であり、彼は『勇者』ではないという現実を…。
「『勇者』じゃないって…じゃぁ、誰が「では、彼女は…!」
『魔法使い』を遮り『戦士』が、俺の胸ぐらを掴み顔を寄せる。息苦しさに顔をしかめると、我にかえったのか「すまない…」っと彼は手を離した。彼女を誰よりも見てきた彼もこの会話の意味を分かったようだ。
「なっ…何なんだよ…。彼女って…アイツのこと…?何?まさか、彼女が『勇者』っとか言わないよね?」
誰も彼の問いに答えない。答えられない。ここで『勇者』だと認めてしまえば、今、彼女はどうしている…?『魔法』や『魔物』の『消滅』した事と何か関係しているのか…。もし、関係していたら…?
彼女一人に全部背負わせてしまった事に…。
「ちょ…笑えないんだけど、その冗談。なら何?その『勇者』さまは、『魔王』と…」
それ以上の言葉が彼の口から出る事がなかった。確定ではないはずなのにここに居る全員が、『勇者』の結末を悟っていた。でも何故、彼女が『魔物』を『消滅』する方法を考えついたのか…。これでは…まるで…。
「『魔王』の『消滅』は、『勇者』の『消滅』だと、仮説をたてたのは、私でございます」
今までずっとだんまりだった『賢者』は、いつの間にか席を立ち『聖女』さまの傍らにいた。その場で膝をつき懺悔をするかのように語りだした。『聖女』さまは、その姿勢に驚き立たせようとするが、融通がきかないご老体に言っても無駄の様だ。
「私が仮説をたてたのは、前の『記憶』の時。初代『勇者』さまに、どうしたら『魔王』を倒せるのかと問われたからです」
「『勇者』さまから…」
『聖女』さまは、『賢者』の言葉を静かに聞き入る。
「『聖剣』が傷をつける事が出来ないのは『聖女』だけではない。『勇者』である彼にも同じでした。そこで私は一つの仮説をたてた…。『魔王』が倒せる可能性がある最も信憑性のある仮説を」
「とにかく、座って話してくれ。その体勢だと気になって話が入ってこない」
俺は、『賢者』に椅子をもってくると、ご老体は少し考え椅子に座った。そして改めて話だす。俺は、黙って耳を傾けていた。ご老体の話は長く所々脱線しては、昔話を語っている。
簡単に内容をまとめると『賢者』にも『記憶』があり、その時に『勇者』に『魔王』を『消滅』出来るかもしれない方法を伝えた。
女性である『聖女』しか『魔王』を取り込めないのなら
『勇者』が女性で、『封印』の儀を行えば『消滅』するのではないかと。
そして、『魔王』の復活に『勇者』が女としてこの世界に現れる。『賢者』は驚きと期待を胸に今まで彼女が『勇者』だという事を黙認した。彼女は思惑通り『魔王』を倒し『消滅』させ、世界は『魔王』も『勇者』も存在しない世界となった。
ご老体は、どうも仮説だったものが定説となった喜びを感じ…それと同じぐらい 罪悪感があるらしい。『勇者』を己の探究心で止めることなく行動させてしまった事に…。最後に『聖女』さまに懺悔をすると『賢者』は部屋を出ていこうとしていた。
「待ってください。『賢者』さまは、もしや…このまま!」
『賢者』をここから出せば馬鹿なことをしようとしているのは明らかだった。誰もが『賢者』を引き止める。『戦士』である彼は扉の前に立ち、『魔法使い』はご老体の前を塞ぐ。
「私の『記憶』は、『勇者』さまが『魔王』を『消滅』出来なかった時にもう一度仮説を立てるために残してあるものです。私の仮説は『勇者』さまにより証明されました。もう私は必要はございません。どうか、私を通してはいただけませんか?」
「その理屈でしたら、私の『記憶』も必要はないのです。『封印』は行われなかったのですから…」
「『勇者』と偽った私も必要ではなかったんだな…」
俺の『記憶』は…?俺の『記憶』はどうなんだ?必要がなかったのか…?そもそも、コレが『勇者』が望んだものなのか…?『魔王』の『消滅』が、『勇者』だったアイツが望んだ世界?俺の『記憶』での親友は…。窓に映った自分の姿を確認するように見る。
「それを言うなら、僕だって『勇者』さまこの人だって皆に偽った事になるよ!」
「それは、知らなかったから…」
「それなら『勇者』だって知らなかったじゃないか!」
「しかし…誰も信じてはくれないだろう…。我々が『勇者』さまを知らなかったなんて言っても…」
『戦士』の言葉に沈黙が流れる。
いつの間にか俺以外の話の内容が『勇者』を偽った罪の断罪の話へとかわっていた。そうか、俺たちは『勇者』を偽っていたのか…。親友の性格の事だから、きっと初めは勘違いから『勇者』を名乗らなかったとしても…。
そうだった…アイツは…。俺が知っているアイツは…。
クックックッっと笑い出す俺に訝しげに『魔法使い』が話しかけてきた。
「なんなの?変なものでも食べたんじゃないよね?」
「いや…『勇者』を偽っていたのかと思ったら…」
「今の状況わかってるの?君が今言ってる事が、意味不明すぎるんだけど?」
「…あいつらしいなって思ったんだ…」
親友は、性格が悪い。俺にとっては親友ではなく悪友だ。本当に最後まで迷惑な奴だ。
どこまで計画立ててた?どこまで計画道理だった?
その計画に乗るのは癪だけど…でも語ってやるよ。
お前が残したもの。望んだもの。繋ぎとめたもの。
すべて俺が語って、もう一度『勇者』さまを作り出してやる。
「必要か必要じゃないか…『賢者』さまは、まだ仮説を立ててないことだらけなのにココで居なくなってもらっちゃ困るな」
「立てていない仮説…でございますか…?」
「あぁ…『勇者』が消えた所を誰も見ていないんだ。もしも…アイツが、『魔王』と共にいなくなったのなら…『賢者』さまは、『勇者』が戻ってくる方法を考えてもらわないとな」
「…しかし…いや…そうですな…。可能性は無ではない…」
「『勇者』はもう必要はない。アイツだけを、戻ってくる方法を頼む」
ぶつぶつと自分の世界に入っていったご老人に、苦笑してしまう。もう、自分の存在を必要じゃないとは思わないだろう。ただ、お孫さんか誰かに言っておかないと飯も忘れて没頭しそうだが…。
そんな事を考えつつ目の前の男の前を見れば椅子にうな垂れていた。
まったく…ここに親友がいたら殴る。丸投げしやがって…。
「昔の『勇者』さまの伝説…壮大でかっこよくできてるだろう?あれって昔の俺が語っていたものなんだ」
誰も俺の話を折る事がなくなった。どうしたらいいのか分からなくなったのか、それとも俺の『記憶』を頼りたいのか…。どっちもだろうか?俺は、何も聞かれないので話を続ける。
「俺の知る『勇者』(しんゆう)は、極度の恥ずかしがりやだったんだ」




