02 ハジマリノ過去
「ずっと、貴方様をお慕いしております…」
それが『聖女』と呼ばれた女の最後の言葉だった。
『勇者』と呼ばれた男は、女が消えるその時までずっとそばにいた。
いや、消えたその後もその場に…女が消えたそばにいた。
世界を救う為だとはいえ、たった一人 愛する女を守れなかった男は嘆く事もせず、ただ立ちすくんでいた。
仕方がなかった?…本当にそうなのだろうか?
まだ何か出来ることがあったのではないか?
女性の体内に『魔王』を受け入れる事が『魔王』を世界から遠ざける唯一の手段だった。
その為に魔力の高い『聖女』が必要だった。
『勇者』であれば、『魔王』の存在を消せるのではなかったのか?
世界のために犠牲になるのは、『勇者』ではなかったのか?
『魔王』を倒せば 幸せになれるのではなかったのか?
男は考える…。世界は『魔王』という存在から開放され、『聖女』の望む平和がもたらされた。
それは本当に『聖女』が望む平和なのかと。『魔王』は確かに封印された。
『聖女』がその身をもって『魔王』を封印した。
『聖女』はこの世界から居なくなったが、『魔王』は封印されているとはいえ存在する。
それが、『聖女』が望んだ平和なのかと…。
『勇者』と呼ばれた男は、『勇者』である意味を考える。
『魔王』を倒す為だけに存在する『勇者』と『聖剣』。
『魔王』がいなければ存在しない『勇者』と『聖剣』。
戦う事しか出来ない『勇者』が平和な世界に残ってどうするのだと。
『聖女』こそが平和な世界に必要なのではないかと。
『勇者』は思う。そして『聖剣』握り締め誓う。
もし『魔王』がまたこの世界に姿を現すことがあれば、『勇者』は『魔王』を倒してみせると。
『聖女』の本当に望む平和と 普通の女として愛される幸せを…。
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昔、昔のお話
『魔王』っという怖い魔物が、世界に現れました。
『魔王』は手下の魔物達を従え人間を襲いました。
魔物達の力に人間は無力でした。
人々は次々と死んでいきました。
人々は必死に神に祈りました。
神は人々に『勇者』と『聖女』いう存在を示しました。
『勇者』さまは、世界の人々の為に『魔王』を倒しました。
『聖女』さまは、世界の人々の為に『魔王』を封印しました。
世界は『魔王』から守られ平和になりました。
けれど『聖女』さまは、『魔王』を封印したために死んでしまいました。
『勇者』さまは嘆き悲しみました。『聖女』さまを愛していたからです。
世界の人々は、『聖女』さまの為に祈ります。
「世界を平和にしてくれてありがとう」っと
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やがて、男は『勇者』として伝説となり『聖女』は女神として崇められる。
『勇者』の意思は、勇者の村と呼ばれる村で語り継がれ、
『聖剣』と共に守り続けられる。
『魔王』が封印をとくその日まで…




