天學編入5
今回は早いですが、少々短いかもです。
続々と新キャラが出てきて、書いてて大変でもあり、楽しくもあり、頑張ってます。
ではどうぞ‼︎
あたりを霧で覆われ視界を奪われた中で、綴はシャロンの放つ氷の矢を全て打ち落としていた。
「やりますね。失礼ながら正直なところ、あなたのことを見くびっていました」
霧に紛れ姿の見えないシャロンに対して、綴は話しかけた。
「それはお互い様よですよ。初撃で倒せると思っていたのですが、まさか軽々と躱されるとは…」
声は反響して、声の主を取られることはできそうにない。
「そんなこと言って、あの一撃はそんな単純なものではありませんでしたよ。二手三手先を読んだ攻撃でした」
「念には念をと思っただけよ」
会話をしながらも、常に攻防は続いている。
右後方から右肩めがけて飛来する矢を微かな音で感知し、右手に持つ刀で迎え撃つ。
その隙を狙ったように、今度は左後方から三本の矢が背中に向かって襲いかかる。そしてそれを、綴は時計回りで回転しながら、そのまま刀で叩き落す…と、このような攻防を繰り返している。
戦いが始まったのは、数分前ーー
「始め‼︎」
泉の合図に合わせ先に動いたのはシャロンだった。
一瞬うちに術式を組み上げたシャロンは、紺碧のオーラを帯びたレイピア横一文字に空を裂く。突如として複数の巨大な氷の矢が出現し一斉に綴目掛けて放たれた。
綴は魔術の発動の速度に驚くも無駄のない僅かな動きで、しかし危なげなく余裕を持ってその全てを交わした。
「そんな⁉︎…っ、水よ!」
シャロンも綴に負けないほどの衝撃を受けていたが、すぐに次の手に移った。
シャロンの詠唱を聞いて、綴はようやく先手を取られたことに気がついた。
(やられたな…。さて、どうしたものか。)
先ほどの攻撃によって、氷の矢が溶けあたりは水浸しになっていた。
そして、シャロンが呪文を唱えた次の瞬間水は蒸発し、あたりは霧に包まれた。
シャロンはその霧に紛れ、姿を消した。その代わりとして、四方から次々と氷の矢が綴を襲う。
この霧は自然に発生したものではない。魔術に込められた紺碧色のオーラの性質によって、水分が発生し、そして霧となったものだ。つまり、この霧の範囲にはシャロンのオーラで満たされている。その中に隠れているせいで綴からは、オーラの反応でシャロンの位置を特定することができない。
実を言うと、綴はこの状況を力押しで打開できる。しかし、その場合加減をしくじるシャロンに怪我を負わせる可能背があるので出来るだけさせようと、さっきから防戦一方なのだ。
(このままじゃ埒があかないわね…)
この状況に手を焼いているのはシャロンも同じだった。
こちらが押しているのに、相手を追い詰めているという手応えが感じられない。
(仕方ないわ、ここで決めましょう…
「煉獄招来‼︎」
シャロンが術式を組み上げる前に、綴が呪文を唱えた。右手中指につけた指輪型のデバイスが、赤い光を帯びて真紅のオーラが噴き出した。
途端に、地面は熱を帯び周囲の温度は一気に上昇した。それにより霧が晴れ、代わりに蜃気楼が発生している。
「…っ…領域結界⁉︎第三下位魔術が使えるなんて…‼︎」
一変した目の前の光景に、シャロンは動揺を禁じ得なかった。
◆
闘技場の隅で観戦していた泉と結は、強い衝撃を受けていた。
「シャロンの攻撃を凌ぐならまだしも、まさか第三下位魔術まで放つとは…」
信じられないと言わんばかりの表情をして、驚きを露わにする泉。
「最強の第三上位魔術に次ぐ強力な魔術の一つ、煉獄招来」
その横で、結も驚いていた。
表情の変化に乏しく、普段は近しい友人でなければ感情を読み取れない彼女でも、今は少し注意して見れば分かる程度に驚いていた。
「先生、アレここだとどの階級で習いますか?」
「座学としてなら七階生で習うが、習得にはそれなりに時間がかかる。術式は公開されているが、カリキュラムには入っていないよ」
結の問いに答える泉は、綴が見せる規格外の実力に、驚きが一周回って逆に落ち着いていた。
◆
シャロンが見せたその驚きは極僅かな、しかし綴に対しては致命的な好きを生んだ。
シャロンはレイピアを構え迎えうとうとするが抵抗虚しく、綴は瞬く間に距離を詰め、鞘に収まったまま真紅のオーラを帯びた刀を喉元に突きつけた。
「そこまで!勝者、八尾綴!」
綴は、泉からの勝ち名乗りを受けると数歩下がって一礼した。
パチパチと数人分の拍手の音が聞こえてきたのは、その直後だった。
「模擬戦、拝見させていただきました。さすがですね、八尾くん」
拍手の音のする方に目を向けると、綴は見知らぬ女子生徒に声をかけられた。
腰まで届く銀髪のストレート、少し大人びていて可愛らしいよりも美しいという形容詞が似合う顔立ち、背は一六五センチ程度と女性に来ては少々高めで、出るところは出て、締まるとこは締まった、顔もスタイルも文句無しの女子生徒。
よく見ると、そこには女子生徒の他に男女数人の姿があった。
「…どうも。…失礼ですが、あなたは?」
「申し遅れました。私の名前は和水 雛子、この学園の生徒会長を務める者です」
腰まであるストレートの髪を揺らしながら、綺麗なお辞儀をする雛子の姿は、彼女の育ちの良さを表していた。
「…それで、生徒会長がどうしてここに?」
天學にも、生徒会何てあったんだ、と思いながらも、口には出さずに抑え込む。
今回の模擬戦は、学生警備隊の問題であって生徒会は関与しない。
綴はそう考えていたが、
「模擬戦の制度そのものが、生徒会の管轄なんです」
どうやら違ったらしい。
綴の思い込みを、雛子が修正する。
「で、噂の編入生が模擬戦をするというので、観戦ついでに今後の学園生活についてお話をしたいと思いまして」
そう言って、胸の前で手を合わせ、ニコッと微笑み微かに首を傾けるという、とても可愛らしい仕草をした。
素でやっているのか、はたまた狙っているのか。
(愛想笑いのうまい人だなぁ)
どちらとも区別がつかない仕草に、綴は問答無用で狙ってやったと決めつけた。
「立ち話もなんですから、生徒会室に移動しましょう」
「待て、和水。彼はまだ、こちらの用が済んでいない」
そこで、泉が口を挟んだ。
この模擬戦は、綴が警備隊に入るかどうかを決めるためのものだったので、勝手に会話をされては困る、と泉が思うのは当然のことだろう。
「なら、全員で行きましょう。どうぞそこで話し合ってください。こちらの用件は、その後で構いません」
人当たりのいい笑顔で、提案する雛子。
生徒会と警備隊は交流が深く、また、雛子は二年前から生徒会長をやっているため、泉との付き合いは長く、お互い気が知れている。
この顔をした雛子には何を言っても無駄、と経験則から判断した泉はシャロンに目を向けた。シャロンもそれに、抵抗するつもりはないらしく、こちらに向かってくる。
「生徒会室はどこにあるんです?」
そこで、綴はふとした疑問を雛子に投げ掛けた。
「七〇〇メートル程度離れたところの『学生館』の最上階にあります」
また、そんなに移動するのか、と少し憂鬱になっていた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと転移門を設けていますから」
「…え?」
綴の心情を読み、説明を付け足す雛子。
しかし、今度は別の意味で綴は驚く羽目になった。
「転移門をご存知ありませんか?」
「あ、いえ。そうじゃなくて、ここにも転移門の技術が導入されていたのを知らなくて…」
転移門は数年前に、「高天ヶ原」の本部とSIMSの技術部が共同で開発したと発表された魔術だ。知っているも何も、彼はSIMSに所属しているうえ、そもそも、『転移門』の開発責任者が綴本人である。
余談だが、綴がSIMSに入隊したのは七歳の時。とある事情でSIMSに保護され、その時に能力者としての戦闘力が非常に高いことが判明したのもそうだか、魔法技術に対する驚異的なセンスを持っていたのも、七歳という異例の若さで入隊した理由に一つである。
ゆえに、技術部でもそれなりの信頼と期待を受けている。
ちなみに、『転移門』とは、門と鍵となる二つの術式を用意し、門を特定の場所に設置することで、鍵からいつでもどこでもその場に移動できるという、空間制御の第三上位魔術である。
基本的に、数人がかりで仕上げるという大規模な魔術で、個人で使える者は非常に少ない。
閑話休題
だから、綴は転移門について知っている。
綴が、驚いたのはそこではない。
転移門は、開発当時、外部に漏れないように極秘扱いになっていた。
それが、アカデミー–––能力者養成機関の俗称–––に導入されていることが、意外で仕方なかったのだ。
そういった事情を知らない周りの者は、頭上に疑問符を浮かべているが、その疑問を解消しようと発言する者はいなかった。
全員がそばに来たことを確認すると、雛子は右手につけた指輪にオーラを流し、転移門を起動する。
術式を組み上げ、そして、空中に指で円を描く。
その円は次第に広がり、やがて複雑な円陣となった。
その円陣に軽く触れると、空中に水面のような波紋が広がった。
「さあ、行きましょうか」
雛子から合図がかかると、生徒会の他の面々や泉、シャロン、結の三人は次々と円陣の中に消えていった。
「ほら、綴くんも」
最後に残った綴に対し、雛子が声をかける。
言われるままに、綴は円陣をくぐり、最後に雛子がくぐると、円陣を模るオーラの粒子は霧散して、あたりは静寂に包まれた。
どうでしたか?
会話が多く、もっとその場の状況や人物の様子が書けるように努力したいと思います。
次回もよろしくお願いします!