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天學編入1

前回の話は10年前、綴(当時七歳)と菜緒(当時五歳)の初めて出会った瞬間の話です。


今回は、10年飛んで現在の話です。


でわご覧ください。

ピピッ…カチッ。

半分まで覚醒した意識で、枕元の目覚まし時計を止める綴。


「六時ジャスト…」


枕に顔を埋めながら、目だけで時刻を確認する。


(まただ…。起きたくもないのに起きてしまった)


綴は心の中で溜息をつく。

綴はとても習慣が身についた生活を送っている。朝は目覚ましがなる直前に起き、ベッドに入ると十二時には決まって意識が落ちる。それは滅多に本人の意思が反映されない。夜更かしすることはできても、昼ごろまでの長時間の爆睡はできない。


(俺の体は睡眠の重要性をわかっているんだろうか?人が人生の中で約二十年を費やす睡眠の、いかに大事なことか…)


今の平均寿命が八十歳。一日平均、六時間寝るとして、それを八十倍すると二十年…。人は人生の四分の一を眠って過ごすのだ。一日八時間寝る人は人生の三分の一が夢の中だ。これは決して睡眠が無駄である証ではない。その逆で、睡眠にはそれだけの時間を割く価値があるという証だ。

そんなことを考えながら、決して再び意識をフェイドアウトさせることなくゴロゴロしていると、


「綴さ〜ん」


という声と共に廊下の方から、タッタッタッという軽快なリズムが響いてくる。


(…仕方ない、起きよう)


近づく少女の足音に観念して、睡眠への希望を捨てる。

心の中での言葉とは裏腹に、彼の行動は早く、ものの十数秒で着替えを完了させていた。


「朝ですよー。ってなんだ起きてるじゃないですかぁ。だったら返事してよ、もうっ」

「おはよう。菜緒が速いんだよ、のっくもしてないし」


扉を開けるなり、文句を口にするエプロン姿の少女–十拳 菜緒–は決して起こっているわけではなく、唯楽しみを取り上げられて少し凹んでいるだけだ。

菜緒の楽しみとはいくつかある。この場でいうなら、まず綴の寝顔を眺めること。次に一緒に布団に入って内緒で添い寝すること。これは別にエッチな目的のためではなく、昔を思い出し落ち着き安らげるからである。後は、寝てる綴に悪戯すること。

綴が急いで支度したのも、このためである。顔に落書きしたり耳元で囁いたりなど、内容は普通の可愛らしいものだが、菜緒の場合どうも悪戯が「うまい」のだ。例えば顔への落書き。決して描いてるときに起こすようなミスはせず、ひどい時は綴は出かける直前まで気付かない。たとえ気付けてもしっかりと油性マジックで描いてあるから、落とすのも一苦労。可愛らしくもちょっと困った一面である。



閑話休題それはさておき



「とにかく、ごはんできたから早く来てね」

「分かったよ」


菜緒は踵を返し部屋を出ていった。


(そういえば、今日でちょうど十年か…早いなぁ…。一緒に暮らして初めてもう三年だ)

「綴さーん」


十年前の今日を思い出し、あの頃に向かっていた綴の意識は菜緒の声で現実に戻された。


(今日はこの後いろいろあるし、早くご飯食べますか…)


綴は頭の中で今日の予定を確認しながら、荷物を持って部屋を後にした。





「遅いよ!」


ダイニングではすでに配膳が済まされ、菜緒も着席していて綴を待っている状態だった。


「ゴメンゴメン」

「明日からはもっと早く来るように!」


待たされたことが不満だったのか、僅かにご立腹な菜緒。「どう機嫌をとったものか」と頭を悩ませていた綴だったが、しばらくして落ち着いた菜緒が自ら話題を変えてきた。


「今日からですよね、綴が通学するの」

「あ、うん、そうだよ」


突然別の話題を振られて一瞬戸惑った綴だったが、話をズラすチャンスとみてうまく合わせた。


「あの、ちょっと気になったんですけど、天學での綴ってどういった扱いなんでしょうか?」

「『入学手続き』に『入学要項』って書いた封筒がきてるし、普通に生徒なんじゃないかな」

「SIMSでプロとして働く局員がアカデミーに通うのって、なんか違和感ありますね」


おかずの卵焼きを口に運びながら、なんとも腑に落ちないといった顔をしている。


「実は僕もあまり詳しく聞いてないんだよ。編入試験は受けたけど、結果も自分が何階生になるのかも知らないし」

「…大丈夫なんですか?」


「心配です」と目で訴える菜緒に対して、綴はというと、


「たぶん大丈夫だよ、結局いってみないと始まらないし」


と、対して気にしていなかった。



食べ終わった食器を運んで後片付けに取り掛かる綴。とは言っても自分で洗う訳ではなく、やることはシンクの中にお皿を入れたら水を張り、オーラを使ってシンク内全体に魔術をかける。


「わざわざそんなことせずに自動食洗機使えばいいのに」

「あれは使いにくいんだ。それに何よりこっちの方が楽なんだよ」

「普通、逆なんでだけどなぁ。綴さん、才能を発揮させるベクトル間違ってるよ、絶対」


感心半分、呆れ半分な表情で素直な気持ちを口にする菜緒の言葉を、綴は特に言い返す訳でもなく聞き流した。


「よし、片付け終了。さぁ、いこっか」

「…はーい」


綴と菜緒は、カバンを手にして通学路へと向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ここは裏世界:新宿区。一般人【ノーマル】たちから隠された空間、【能力者】の世界。


遥か昔から能力者はノーマルに紛れて、密かに生きてきた。各国の幹部たちが能力者の存在に気づき始めたのが、産業革命が始まる少し前。各国の首脳と、能力者の各コミュニティーのリーダーたちが密かに会談を開き、能力者がノーマルに協力するという条約が結ばれた。


それに反対し、自分達に劣るノーマルに支配されるのを恐れた一部の能力者たち–––のちに『能力者至上主義』を掲げ、俗に『主義者』と呼ばれる人たち–––は、結集し力を合わせてノーマルを遠ざけようとした。その時は、ノーマルと歩み寄ることを目指した能力者たち–––『共存思想派』–––の努力により、被害は最小限で収まった(余談だが、この時にでたノーマルへの被害は、あまりの規模に自然災害として処理された)。しかし、これがきっかけでノーマルと能力者は必要最低限の協力関係を取るだけに留まった。


その最低限の一つが、戦力の派遣。能力者は、意外と頻繁に表と裏を行き来する。科学という文明が、能力者にとってとても魅力的だったからなのだが、それゆえに、ノーマルの社会にも能力者は普通に紛れている。

また、裏世界を中心に活動するのは能力者でけではない。生命の定義から外れた存在【イヴィル】。彼らもまた、表に現れて、良くも悪くも人類に影響を及ぼす。そして、そこでは能力者、イヴィルに関わる問題が少なからず発生する(例えば、能力者同士の喧嘩、主義者組織の干渉、イヴィルに取り憑かれた人が起こす事件、及びそれらの後処理など)。

それらの問題を対処するための戦力の派遣だ。日本地域におけるその組織が『特殊案件対策局Special item measures station(SIMS)』である。表において、SIMSは国家機関に属するとされているが、これは「表世界では国家の意思に従う」ことを意味する。


そして、ここ『天ノ宮學園』はSIMSに正式入隊することを夢見る若者の学び舎である。




「日本地域裏世界、能力者育成機関『天ノ宮學園』。生徒だけで日中の東京都心の人口に匹敵…相変わらずでかいなぁ…俗に言う学園都市とかいうやつだ」

「それにこの街で暮らす人は学生だけじゃないから人口はもっと多いんですよ。ちなみに面積は東京都の一・三倍。全てにおいて規模がでかいんです」


學園の規模の大きさに驚く綴にたいして、なぜか菜緒は自慢気だった。


「じゃあ僕は職員館に用があるから、また後でね」

「…え⁉︎…ま…いや、あの…」


目的地に向かおうとする綴を、何か言いたげな顔で菜緒は引き止めた。


「どうかした?」

「いや、えっと…ま、まだ綴さんは来たばかりですので、私が案内しますよ!」


想像以上に恥ずかしかったらしく、菜緒は耳まで真っ赤にさせながら必死に言葉を紡いだ。


「…?園内図は頭に入ってるけど。じゃあ、せっかくだしお願いしょうかな」


昨晩のうちに學園内のマップを頭に入れている綴としは、あまり菜緒に迷惑をかけたくなかったのだが、菜緒の様子から断っても意味がないと悟ると、素直に承諾した。

自分の提案を承諾してもらうと、菜緒の表情は一気に明るくなった。


「じゃあ菜緒、よろしく」

「はい!」






職員館手前、技術開発実験棟の前。


ドッカーン!


綴たちがそこを通り過ぎようとしたとき、棟の三階の窓がいきなり爆発した。

続いて、その窓から3つの影が飛び出した。


「キャッ‼︎もう、なんなのよ!」

「誰か出てきたけど…」


綴の指差す先では、ゴールデンレトリーバーサイズの明らかに普通でない鼠と、それと対峙する臨戦態勢を取った学生二人。


「何があったんですか?あれってラット?」

「あ、十拳次席!それが、生体波動調整術式の実験中に、ラットが暴走して…」

「菜緒ちゃん、手ぇ貸してぇ‼︎(泣)」


巨大ラットの突進を捌きながら、二人の生徒が事情を説明した。ラットに反射速度があまりにも速く、ギリギリでかわしている感じだ。


「うん!綴さんは職員館まで行って助けを呼んできてください!」

「え、大丈夫なの⁉︎僕が対処した方がよくない?」


急いでラットのところに向かう菜緒の背中に綴が声をかける。

それを聞いた他の生徒二人は「何出しゃばってんだ?」という顔をちらつかせたが、菜緒より綴の方が強いことを知らない彼らなら当然の反応かもしれない。

この学園において、菜緒はそれなりの実力者として知られている。


「綴さんはまだ学園にきたばかりじゃないですか!ここは私の言うこと聞いて‼︎」

「う〜ん…分かったよ。気をつけてね」


そう言うと綴は職員館目指して駆け出した。


ラットに背を向けて。


これに反応した巨大ラットは毛を逆立たせ、次の瞬間、綴の真後ろまで迫っていた。

とっさに振り返った綴だったが、彼ができたのはそこまで。そのまま後方数十メートル突き飛ばされた。


「…ッ!…なんて速度だ…」


予想外の速度による突進に驚愕を露にする綴だが、それで対応が遅れるということはない。飛ばされた先でバウンドすることもなく、全くの抵抗や衝撃を感じさせないなめらかな動作で、その場に着地した。


「綴さん…‼︎」

「あのラットは黄金色による肉体活性が施されているんです!」


生命がその身に宿すと言われる生体波動【オーラ】はその性質によって7色の種類に分けられる。月白色、真紅色、菖蒲色、紺碧色、黄金色、翡翠色、漆黒色。


今回ラットに施されているのは、黄金色による肉体活性。黄金色は光属性。今のラットの身体能力は非常に高くなっている。


「それにしても速すぎだよ!それに質量以上の衝撃だし…‼︎」

「あまり複雑な術式を使わない分、影響が強かったみたいなんだ」

「そんなことより菜緒ちゃん、あの人大丈夫なの⁉︎」


男子生徒を問い詰める菜緒を、女子生徒がなんとか制止する。


「え?ああ、綴さんなら大丈夫だよ。ほら…」


そう言って、視線を綴とラットに向けた。








(速い…。まぁ、大して問題ないけどこのままはよくないよなぁ…)


ラットの目の中では、淡い黄金色の光を帯びた身体とは不釣り合いの、赤い光が瞬いていた。


放置はよくないと思い、戦闘態勢に移行する綴。右手中指に着けた、銀の指輪に軽く触れる。


ラットは再び、綴めがけて突っ込んできた。

綴は、上に跳躍することでそれを躱す。そのことに気づいたラットも、綴を追いかける。しかし、既に上を取った綴に対して、ラットが敵うはずもない。


綴が腕を振り上げると、指輪が淡い光を帯びた。その手からは、所々白く煌めく菖蒲色の炎が現れる。


「遊びは終わりだよ。だから…もう、おやすみ!」


その、炎を模した光の塊を、綴はラットめがけて叩きつけた。








菜緒の視線の先では、極一般的なサイズに戻り地面で気絶しているラットを、綴が優しく抱き起こしていた。


「嘘…どうやって…⁉︎菜緒ちゃん、あの人何者?」

「えっと…今年から編入生だよ」


菜緒はどう説明しようか迷ったが、結局当たり障りのない回答をしておいた。


「君たち、何してるの⁉︎…ッ!何この状況…⁉︎」


少し遅れて、警備の職員が駆けつけてきた。


事情聴取に後始末…。このあとに待ち構えている出来事を思い出し、この場の一同の顔は、急に暗くなった。

ありがとうございました。そして、お疲れ様でした。説明文が長くて、いい意味で読み応えがあり悪い意味で疲れる作品だと、自覚しています(ー ー;)


ようやくバトルシーンが書けて良かったです。ただ、相手が小物過ぎたので、今後の敵キャラのレベルをしっかり考えて書こうと思います。


本文では説明仕切れない詳細設定もあるので、後書きの欄でちょいちょいと説明していこうと思います。


・波動【オーラ】

全生命体が宿す力で、ノーマルは感知できず能力者とイヴィルだけが感じ取ることができる。

月白色:天属性、精神的作用をもたらす。

真紅色:火属性、炎熱系統。

菖蒲色:闇属性、闇影系統。

紺碧色:水属性、水冷系統。

黄金色:光属性、聖明系統。

翡翠色:土属性、地気系統。

漆黒色:地系統、物理的作用をもたらす。


こんな感じです。月白色と漆黒色はちょっと特別な感じなんです。


見てわかる通り、ゴリゴリに凝った中二病チックな作品が書きたかったんですよ!


では次回もどうぞよろしく!

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