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天學編入9

今回は切りよく書いたら、意外と短くて、すぐにできました。


ではどうぞ!

 鋼毛狼達が一気に襲いかかる。

 みんなが心配そうに見守る中、綴は落ち着いた動作で、この戦いの間最初から持っていてずっと使っていなかった漆黒の刀に触れ、そして、誰にも聞こえないような声で何かを呟いた。


(行くよ、玉藻)

『いつでも良いぞ、坊や」

(天月流抜刀術三ノ型・疾風斬狐)


 途端に、その刀から一瞬にして黒い風が吹き荒れ、すぐに止んだ。


「これ…何が起こったの?」


 顔を守るように目を閉じ手を前に構えた事で視界を覆っていた生徒たちが目にしたのは、地面に崩れ落ちる鋼毛狼達と、その輪の中心で腰に差した刀の柄に手を添えている綴の姿だった。かろうじて分かるのは、綴が刀で斬ったということだけだった。

 同じく輪の中心にいる結達も、何が起こったのかわからず、唖然としていた。


「殺したのか」


 質問とも独り言とも取れる声で、映司が呟く。


「いえ、峰打です。実際にはイヴィルを浄化するためにオーラの霊剣で霊子線を斬ったんですが」


 全身の霊子線をズタズタにされたことで、鋼毛狼達はピクリとも動けずにいる。

 そもそも霊子線を圧縮しただけの、実態を持たない霊子の塊であるイヴィルは、自身の存在の維持・強化のために、宿主の霊子線に同化する。なので、宿主を殺さずにイヴィルを浄化するには、霊子線に干渉するしかないのだ。

 目の前の危険が去ったことによる安心感と、まだ何かくるのではないかという緊張感が入り混じった雰囲気が周囲を包む–––ここで完全に安心しきらないあたりはやはりプロを目指すアカデミーの学生といったところか–––中で、木をなぎ倒しながら一際大きな個体が、新たに森の奥から現れた。


「まだいたのか⁉︎」

「デカイですね」

「たぶん群の長」


 再び生徒たちは警戒態勢をとる。綴は、棒立ちだが隙がなく、濃密な殺気を放っていた。その殺気に当てられて、気分を悪くする生徒がいるほどだ。

 身構える生徒たちの前で、突然、鋼毛狼の長が悶え始めた。その獣の中から、何かが内側から肉を食い破ったかと思うと、空に飛び出した。


「なんだよあれ⁉︎」

「…龍?」

「あのサイズの狼の中にどうやって入ってたのよ」


 出雲だけ、少しずれた感想を口にしたが、それだけ

 出てきた何かは大きかった。

 その正体は、全長五百メートルはあろうかという巨大な蒼い龍。


「青龍の一族と言ったところでしょうか」

「馬鹿な⁉︎青龍の母体は国と一緒にビッグダウンの底に封印されてるはずだ」


 綴の推測を、間髪入れずに、ダニエルが否定する。

 青龍は、天學の西側の領土に生息していた幻獣で、当時そこは、三大コミュニティーと肩を並べる大型のコミュニティーが支配していた。しかし、主義者に加担したことで、数世紀前に三大コミュニティーの主力部隊によって、領地ごと地下深くに封印された。そのあとが、ビッグダウンである。その深さは計り知れず、崖の上からでは、底を見る言葉できない。


「確かにそうだ。そもそも、こいつはイヴィルだろ?」


 目の前の青い龍の胴体は向こう側がかすかに透けており、実態ではない。つまり、映司が言うように、こいつはイヴィルだ。


「でも、明らかに青龍をかたどっているということは、人造ですね」

「作られたイヴィルってこと?」


 結が、解せないといった表情を浮かべる。このように話していながらも、全員、視線は目の前の的に向けている。


「人造精霊はご存知ですか?」

「知ってる」

「あれは、霊子線だけでできているイヴィルの構造を元に開発された技術なんですよ」

「なるほど、つまり、霊子線さえ再現できれば…」

「…イヴィルを作り出すことも簡単ってわけね」


 ダニエルの言葉を引き継いで、出雲が話をまとめる。相手が何かわかったが、全員の表情は相変わらず厳しいままだ。


『ピンポンピンポン、大セェーカーイ‼︎』


 突然、若い男の声が鳴り響いた。声の発生源は目の前の青い龍。


『コレの正体にここまで早くたどり着いたいやつは久しぶりだなぁ』


 龍から声が出ているのは確かだが、どうも耳で聞いている気がしない。音、つまり空気の振動ではなく、空中を漂う残留霊子の振動によって、精神に直接話しかけているようだ。


『さすがはツヅリン、頭いいね。キレッキレだね』

「この声…その呼び方…お前、マサキなのか?」


 綴は、昔毎日のように呼ばれたあだ名を耳にして、声の主が誰なのかを理解した。


『またまた大セェーカーイ!すごいすごい』


 マサキはどうやら楽しんでいるようだ。


『感動の再会だけど、それはまた今度ね。今回は「エデン」の使者として、世界を三大コミュニティーが治める現体制に対して、宣戦布告する』

「「何だと…‼︎」」


 その場の全員が驚愕を露にする。マサキの発言にはそれだけの効力があった。


「何故お前が、生きている⁉︎…どうしてお前が、エデンの名を買っているんだ‼︎答えろ、マサキ‼︎」


 綴は激しい剣幕でまくし立てるが、それを知ってか知らずか、はたまた見ているのな見ていないのか、マサキは綴を無視して言葉を続ける。


『本来なら、鋼毛狼の中で成熟した青龍の子供達が、暴れる手はずだったんだけど、こいつしか残ってないからなー。今日は帰るよ。それからね、ツヅリン』


 そこでマサキは言葉を切った。彼の口調はまるで、ゲームの司会でもやっているかのようだ。

 その時、背後の壁の内側から、爆音と地鳴り、そして不特定多数の人々の悲鳴が飛んできた。


『言い忘れていたけど、東に青龍(こいつ)が来たってことは、他がどうなってるか、ツヅリンならわかるよね』

「貴様…‼︎」

『じゃあねツヅリン。またいつの日か』


 そう言い残して、青龍は姿を消した。どこかに隠れている様子はなく、完全に気配が消えている。


「大変だよ、綴くん!東西南北のここ以外の三方から幻獣種の大群が攻め込んで来てる!」


 警備隊の通信回線から情報を引っ張ってきた結が、珍しく焦っている。それだけ、事態が深刻なのだろう。

 ここで綴に話を振ったのは、「警備隊の出動命令がかかっているから、一緒に行かないと」という意味だろう。

 正直に言えば、マサキのことについていろいろと考えたいというのが綴の本音だったが、残念ながら現実はそれを許さない。


「…菜緒、無事?」

『綴さん!』


 まず先に、菜緒の無事を確認する。


『私は無事だけど、なんか壁の方が大変なことになってるみたい!』

「いい、職員の指示に従って、無茶はするな」

『…うん、わかった。綴さんも気をつけてください』


 かなり取り乱していたが、綴の声を聞いたことで、落ち着きを取り戻す。

 通信端末をしまうと、彼はみんなのところへ合流した。


 綴たち第六階級Aクラスのメンバーは、急いで壁の中へ向かった。




 ◆




 事態は、綴たちの予想をはるかに上回るほど深刻だった。

 もっとも人口が多い中心区域には届いていないものの、かなり深いところまで被害が広がっていた。


「結、どこに向かうかの指示は出てる?」

「えっ、ううん、出てない」

「じゃあ、一番近い南から当たろ」


 敬語が取れていることに驚いて、結は綴の質問に答えるのに一拍の間ができた。他の何人かも気付いて驚いていたが、本人だけは無意識のようだ。

 彼はすぐに南の方に走り出した。


 綴たちが到着すると、そこでは全身を朱い炎の羽で覆われた怪鳥が暴れていた。


「フェニックス?」

「いや、この場合は朱雀だろ」

「何か違うの?」

「確かにどっちも同種の系統だけど、東に青龍が来ている場合は、南がフェニックスと朱雀じゃあ大きく変わってくるだよ。青龍や朱雀には、奴らが守護する方角(ホーム)がある。これに、西の白虎と北の玄武が揃えば、四神の陣の完成だ」

「やけに詳しいわね、エージ。あんたが、結に何かを教えるところなんて初めて見たわ」

「お前ら、口じゃなくて体動かせ!」


 三人が呑気に会話していると、前方からダニエルの怒鳴り声が飛んできた。


「ダン、離れて!…水よ捕らえろシーフェル・スィナティケイズ!」


 結が呪文を唱えると、炎の怪鳥たちが、たちまち何処からともなく現れた青く輝く水に包まれ、それは巨大な水球となった。


「水場でもないのにこれほどの水檻を作るとは、さすがだな」

「感心てる暇ないよ、ダン!結、そのままでよろしく!」

「分かってる」


 結の横まで来た出雲は、指輪に霊子を集中させ、魔術を発動する。すると、目の前に激しく放電する拳大の光の玉が出現し、水檻の中の朱雀めがけて稲妻がほとばしる。

 雷撃を食らった怪鳥たちは、水檻の中でただの霊子に戻り、塵のように崩れて消えた。


「次はっと、もう終わってるのか」


 他の敵を探してあたりを見回すと、既に、綴が先ほどと同じように、黒い風よのうな斬撃で全てのイヴィルを霊子に返していた。




 ◆




 今回の襲撃は、主力である九、八階生のほとんどが外部の課題任務に出ていたために時間がかかったが、教師と警備隊、そして居合わせた生徒たちの尽力によって、その日のうちに侵入した全てのイヴィルを浄化していた。

 そして次の日、生徒会、学生警備隊、序列第百位までの生徒たちが、緊急対策会議として、大講堂に召集された。

 また、百人を超える多くの犠牲が出たことで、数日間、天學は暗い雰囲気に包まれた。

はい!短かったですね!申し訳ありませんm(_ _)m


今回は、魔術の発動について少し説明を…


まず、魔術について

魔術は、霊子から取り出したエネルギーであるオーラに意味を与え、術式を組み上げることで、対象に作用する、というものです。


発動方法にはいくつか種類があります。


詠唱発動

術式を意識の中で組み立てるとき、それはイメージとして処理されます。意味が与えられたオーラの塊である術式に、具体的な形は存在せず、発動する術者の意味づけ、つまり、感覚で全てが左右されます。なので、自身の言葉(呪文)に置き換えて唱えることで、スムーズに組み立てることができます。ただし、言葉(意味)が足りないと十分に、効果が発揮されないことがあります。


デバイス操作

術式を保存、封印することができるのがデバイスです。イメージである術式を頭の中だけで、完璧に組み上げるのは難しい。情報量が多過ぎて、細部まで覚えていられないのです。そこでデバイスの出番です。術式の組み上げた(意味づけの済んだ)部分から順に、一時的にデバイスに保存し、全て組み上げた術式をデバイスから対象に向かって発動します。そうすることで不足なく魔術を発動できます。

また、複雑な術式の場合は、特定の術式そのものをデバイスに封印し、必要なときにオーラを流し込み術式を発動することもできます。しかし、封印デバイスは一つの術式しか封印できず、また、封印された特定の魔術のみしか発動できないので、非常に汎用性にかけます。霊装が、封印デバイスの一例です。



次回から新編を開始します。

今後もよろしく!

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