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パートナー

 自分以外誰もいない世界に行く。

 そう聞かされていたから、てっきりボッチ一人旅的なことを想像していたのだが、どうやら同行者がいるらしい。


「パートナーがいるのか。それにしても設定ってなんだ?」


「あー、さすがにご主人様も世界を創りかえるなんて大仕事を、人間一人で達成するのは厳しいだろうと、サポート要員として最初に一人、パートナーをつける事にしたんですよ」


 

ああ、そんな神様にも一応常識の通じる部分はあったのか。

 まあ一人が二人になったところで、人間に出来ることなんてたかが知れているが、ボッチよりは段違いの効率が期待できるだろう。


「でー、設定というのはですね、パートナーをこちらで用意してもいいんですが、どうせなら核本人の好きなやつを同行させたほうが、何かと都合がいいだろうということで」


「それって知り合いを連れてくるってことか?」


「いえいえ。例えるなら、そうですね、ゲームでいうところのキャラクターエディットを行ってもらうんですよー」


「つまりは、素体とパーツを用意して、自分の好きなようにパートナーを創れと。それで設定か………神様、また面倒だってんで、こっちに押し付けたな」


「あははー、否定できませんねー」


 神様サイドがパートナーを用意したとしてもし、核とそりが合わなかった・想像と違っていた、なんてことになったら用意した意味がなくなるし、むしろ逆効果だ。

 それなら初めから核に好きなように設定させて、理想のパートナーを創造させたほうがいいだろう、てことだ。

 ………普通の人生もそんな風に出来たら、もっと生きやすいのだが、それが普通な世界はもはやディストピアだろうな。


「……なんだな。初めは神様だ世界だと言われていたからファンタジーを想像してたが、デバイスやらキャラエディットやら、SFの方だったな」


「過ぎた科学は魔法と同じだ、なんて言葉もあるくらいですから、SFとファンタジーの境界は意外とあやふやなのでは?」


「一般人からしたら、どっちも理解の外って意味ではそうかもな」


「ふぅ、さて、それじゃあ設定を始めましょうか」


 サーナは湯呑に残っていたお茶を飲みほし、手を叩いて休憩の終了を告げた。

 俺も饅頭を口に放り込むと、頷いて腰を上げた。


 さっと卓袱台以下を片付けると、縦長の水槽のような箱? とコンソールのようなものを出現させた。


「それでは、パートナー設定の説明を始めます。さっき話した通り方法はいたって簡単! 目の前のコンソールを操作して、多種多様なパーツ・精神・色や紋様を組み合わせて自分好みのパートナーを創りあげましょう! パートナーを構成する要素の種類は約五千種類、組み合わせは無限大! 美男美女にするもよし、屈強な大男にするもよし、はたまたランダムに組み合わせてキメラのような存在にするもよしです! 考えるのが面倒だという方向けにフォーマットもございます! はりきって、Let’s創造です!」


「………」


 某ゲームのキャッチコピーや某国の通販番組を髣髴とさせる語りだった。

 意外とこういう方面に思い入れがあるのか、こうやれと指示されているだけなのか、ここでツッコんだらさっきの繰り返しになりそうなので、出来るだけ平静を装いコンソールに向き合った。


「へぇ、一人っていうから人タイプだけなのかと思ったけど、動植物に機械、霊体なんてのもあるのか」


同行者に霊体ってどうなんだ? とも思ったが、中には物質化している相手が駄目な核もいるのだろう、なにしろこの世は広いのだ。


「それはもう! さらに、選択したいものがリストにない方向けに、自分でパーツを創りだすフリーエディットもございます!」


「さすがにそこまで拘れないよ。むしろ苦手な部類だからね」


 絵心、というかそれを形として上手く表現することが苦手な俺は、絵を描く・細かな造形を仕上げるということが下手だ。

 頭の中ではそれなりの物を浮かべられるのに、それを実際に描こう・作ろうとすると、これじゃない感溢れる仕上がりになってしまう。

 その点クリエイションは俺に合っているだろう。何しろ頭に思い浮かべるだけでいいのだから。


 素体のタイプは、人型(男・女)、獣人型(男・女)、四足動物型(オス・メス)、機械型(人型・作業型・移動型・複合型)、霊体型(人型男・人型女)があり、さらにタイプごとにバリエーションも充実していた。

 パーツも豊富で選ぶのにも制限はなく、人型の素体に機械型の腕を付ける・霊体型の上半身だけ獣人型の肉体(物質化)にするなど、キメラのよう、と言っていたように互換性も高かった。


「うーん、種類が多すぎて悩むなぁ。サーナ、なにかおススメとかないか?」


「そうですね、カズキさんがどんな風に活動したいかで決めていけば、大まかな方向性が固まると思いますよ」


 例えば誰かとふれあいたいなら人・獣人・霊体型。力仕事や事業レベルのことをしたいなら機械型。荷物を運んだり長距離移動を繰り返すなら四足動物・機械移動型、といった具合だ。

 サーナが具体的な案を提示しなかったのは、あくまでこちらの自主性に任せているからのだろう。


「俺がやりたいこと、か……」


 俺はボッチ歴が長く、若干対人恐怖症じみているので他人とのふれあいはあまり求めていない。

 建設系の仕事に就いているが、人のいない世界に家やビルを建てる意味もない。人のいない建物ほど寂しく、もの悲しいものは少ない。

 半引きこもりな状態だった俺に旅に出たいという気持ちは少なく、継続的に長距離移動をする意欲も湧かない。


「……はは、なんか軒並みダメだな」


 深く考えているとドつぼに嵌まってしまうので、無難に人型ベースでいくことにした。

 いくらボッチであろうと、孤独で居たいかと言われると答えは否だ。人並みに人恋しくなることだってある。


「長期間男と二人ってのは、さすがに勘弁だな。かといって女と二人ってのも、うーん」


 悩んだが、女素体にした。男だったら気疲れはしないだろうが、長期間となると話は別だ。

それに、俺の嗜好はノーマルである。どの口がと言われるかもしれないが、普通に恋愛だってしてみたいのだ。いや、この場合は関係ないが。


 それからパーツを選んでいく。イメージはヴィクトリア朝のメイド風にした。

 浅はかではあるが、秘かに憧れていたのだ………旦那様とか。

 といってもいやらしい方面ではない。メイド喫茶のようななんちゃってではなく、職業としてのメイドさんに、一度でいいから様づけで呼ばれてみたい。と考えたことのある人は少なくないはずだ、そうであってほしい。


 髪はプラチナブロンドで腰まである長さを頭で纏める。瞳は碧で肌は白。体型はバランスよく、どこか一部が突出しないように。身長は俺より少し低いくらいの百六十五センチ。精神は従者然としているが自分の意思を強く持ち、俺の言動にハッキリと意見できるようにする。

 恋愛感情なども設定できたが、こんな形で決めるのは違う気がするのでスルーした。


「こんなところか……やりすぎたか?」


 俺に不釣り合いなくらい美人にしてしまった感はあるが、どうせ設定するならクオリティが高い方がいいのだ。後悔はしていない。


「ほうほう、これがカズキさんの理想の女性ですかー」


「……モテない男のささやかな願望だ、笑わば笑え」


「笑いませんよー。それに男性が女性をデザインするケースは多いみたいですから、別に変じゃありませんよ」


 女性をデザインとは非難が来そうなフレーズだが、事実なので言い返せない。

 ドン引かれなかっただけマシと諦めるしかない。


「あとは名前だけですね。それを入力して最終決定を押したら設定は完了です。完了後の修正はできないので、気になる部分があるなら今のうちにやってください」


 修正など始めてしまったらキリがないので止めておく。今でも十二分なくらいだ。

 地名の名付けのときも思ったが、俺に名付けのセンスはあまりない方だ。突拍子もないものは出ないが、気の利く洒落たやつも浮かばない。


「あー、んー、はぁ……」


 何も浮かばない。適当に決めていいわけがないし、かといってその適当すら浮かばないとは。自分の語彙の少なさに呆れるばかりだ。


「………フラ、いや…………リリー、リリアーヌ」


 悶々としているとふいに、自分が考えたにしては良さそうなものが浮かんだ。


 名前入力――リリアーヌ


 思考に変な横槍が入らぬうちに入力し、決定を押す。

 すると水槽とコンソールが空気に溶けるように消えていき、俺がエディットした彼女――リリアーヌがその場に降り立つ。


 数秒身じろぎ一つしなかったが、閉じていた瞼をゆっくりと開き、俺を確認すると頭を下げた。


(わたくし)を創造していただき有り難き幸せにございます私の創造主(マイ・マスター)。これよりこのリリアーヌ、創造主(マスター)に御仕えし侍ることをお許しいただきたく思います」



やっと登場してくれましたリリアーヌさん!


これで登場人物は勢ぞろいです。

……引き出しが少なくてすいません。

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