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チュートリアル1

 サーナを二度も俯かせてしまったので、無理して場を盛り上げようとほとんどやったことのない一発芸や小話を続けたが、案の定だだすべり。

 さらに気まずい雰囲気になってしまったのだが、しょうがないですねという感じの表情で顔を上げてくれた。

 慣れない意趣返しなどするものではないと学習した。


「えー、それでは世界を創りかえる方法――クリエイションの基本を説明します」


 そういうとサーナは、卓袱台などを片付け、代わりに本・腕輪・ノートパソコン他さまざまな物を出現させた。共通しているのは、どれも携帯しやすいものということくらいか。


「まず、クリエイションとは世界のありとあらゆるものを素材として核の方の思った通りのものに創りかえる行為です。このクリエイションを行うには核の方の想像力と、こちらにあるデバイスたちが必要になります」


「これ全部そのデバイスなのか。やっぱり使えるのは一つだけ?」


「そうですね。この後で選んでもらいますけど、基本は一人につき一つです。それから、デバイスにはご主人様の御力で守護の術式が掛けられていますけど、デバイスを防具代わりにはしないでくださいね。衝撃でデバイスに異常が発生してしまうと、とんでもない事態になることもありますから」


 下手をして壊してしまうかもしれないから予備を、という訳にはいかないらしい。

 それにしても、防具代わりにするなということは、以前にそれをやったやつがいたということか。まあ壊れないようにしてあるから大丈夫だと思ったのだろうな。


「それって、誰かそれをやってヤバいことになったってこと?」


「わたしも直接は知りませんが、過去に籠手型のデバイスを使われていた方が防御に使われた際に、デバイスが暴走して周囲にあるものを手当たりしだいに創りかえていきまして、異常を察知したご主人様が止めるまでに世界の三分の一が意味不明なものになってしまった、ということがあったそうです」


 ………絶対に衝撃を加えないようにしよう。

 もっとも、そのような危機的状況に陥らないようにすればいいだけか。


「とはいえ、何かにぶつかったとか落とした程度でそのようなことにはならないと思いますから安心してください。ではデバイスを選んでいただいて、実際にクリエイションをやってみましょう」


 促されて、さまざまな形の中から選んでいく。形による機能の違いはないらしく、せいぜい個人の使い勝手と大きさくらいのものだという。

 その中から俺は腕時計のようなものを選んだ。さっきの話の籠手型と若干かぶるが、落とす心配が少ないのと、付けていても邪魔にならないのが選んだ理由だ。


「それでは、デバイスの側面にあるスイッチを押してください」


 言われたとおりに押すと、目の前に画面のようなものが浮かんできた。SFによくあるホログラムのタッチパネルみたいなものだ。

 画面には、『バリスゲージ』『ステータス』『クリエイション』『アイテムボックス』『マップ』『担当者へ連絡』『ヘルプ』という項目が出ていた。


「項目が表示されたと思いますので、その中の『クリエイション』を押したあと表示される『素材の選択』を押しください」


 言われたとおりに『素材の選択』を押すと、画面の中央に十字線が表示された。


「素材にしたいものに表示された十字線――カーソルを重ねたあと、画面を押すと素材として選択されます。本来なら、世界にあるものに重ねるのですがここにはありませんから、今回はわたしが用意したこの木材を素材としてください」


 そう言うと長さ一メートル・十センチ角の木材を四本取り出した。

 それらは透けているわけではないのだが、触れたら消えてしまいそうというか、注意していないと視界の外に行ってしまいそうというか、そんな存在感の薄さであった。


「この木材はカズキさんの担当してもらう世界から持ってきたものです。あちらの世界にあるものは全てが、このように存在が希薄な状態です。それらを創りかえ、安定した形にしていただくとバリスが回収できます。回収したバリスは『バリスゲージ』に自動で補充されますから、どれくらい補充されたか知りたい場合は『バリスゲージ』を参照してください」


 説明を聞きながら出された木材を選択する。早くしないと、この場からも頭の中からも消えてしまう気がしたからである。

 すると『続けて選択しますか? はい/いいえ』と表示されたので、『いいえ』を押す。

 続けて『レシピを選択しますか? はい/いいえ』と表示された。レシピなんてまだ持っていないので、これも『いいえ』を押す。

 次に表示されたのが『創りたいものを想像してください』というものだった。


「そこまで表示されたら、あとは創りたいものを頭の中で強く想像するだけですね。カズキさんの思うとおりにやってみてください」


 ぱっと思い浮かぶものがなかったので、目の前にある木材をそのまま頭で思い浮かべる。

 すると木材に光が集まっていき、さっきよりも存在感を感じられるものになった。


「そのままの形で実行したんですか、やりますね。これならあとで自由に利用できますから。普通はイスやテーブルのようなものを創る方が多いらしいですよ、まあそれでもいいと言えばいいんですけどね」


 単に何も思い浮かばなかっただけなのだが、何故か称賛されているので得意げなふりをしておく。人間、正直だけではやっていけないのである。


「一度クリエイションしたものはレシピとして登録されますから、同じものを創りたいときはレシピと素材を集めるだけでクリエイションが実行できます。イメージする手間が省けるということですね。ただ、品質もレシピ登録時で固定されますから、高品質のものを創る際はレシピを使用せずに実行してください。それで前回の品質を上回ればレシピが更新されます」


 同じものが大量に欲しいときはレシピを、良いものを創りたければ想像で、ということだ。

『レシピ一覧』で確認したら、『木(角材)』というものが増えていた。品質の表示はないから最後に創った時の品質を覚えていないといけない可能性があるな。


「あと、クリエイション実行の際にいくつか注意が必要なのですが、一つは素材の量より創りたいものの量が多いもの・大きいものは創ることができません。逆に素材の量が多い場合は創ったものが素材の量の分だけ大きくなります。こっちの場合は、想像するときに一個ではなく複数個を頭の中で思い描くことで回避できます。ですがその分難易度が上がるので、精度を求める時はなるべく対比を一対一にしてください」


「わかった。他には?」


「二つ目は想像力です。クリエイションでは想像したものがそのまま出来上がりますから、中途半端なイメージで実行すると中途半端なものが出来上がります。逆に正確・緻密に想像することができれば、他に類を見ない逸品にすることも可能です。そして、この品質はバリスにも影響します。品質が高ければ高いほど多く、低ければ低いほど少なります」


 慣れるまでは簡単なものから想像した方がいいな。失敗して低レベルなものになるのなら、適当なやつで試すのもアリか。


「三つ目は素材の種類です。想像で自由に創りかえる、とはいっても木から石は取れないように、木が素材なら木で出来たもの、石が素材なら石で出来たものでないとクリエイションは実行できません。その代り、同じ木でもスギやナラなどの種類違いは、想像力でカバーすれば実行可能ですので、上手くすれば道端に落ちている石ころから宝石やレアメタルに創りかえることも可能ですよ」


「マジか! あー、でもそれも難易度が上がるから慣れてからの方がいいか」


「ですね。ようは何事とも正確緻密に、落ち着いて行うことが大事、ということです」


 ここで石から宝石やレアメタルが出来るわけないと思っている人に説明すると、宝石は鉱物が一定以上の圧力で圧縮されて出来上がるもので、同じ鉱物でも加える圧力の違いで別の物になる。例を挙げるなら鉛筆の芯とダイアモンドとかだ。また、含まれる不純物の違いで別の物にもなる。こちらの例はルビーとサファイア、エメラルドとアクアマリンだ。

 レアメタル――金属も同様で、金属はそのものの状態で採取されるのではなく、鉄なら鉄鉱石、銅なら銅鉱石、アルミならボーキサイトなどの鉱石として採取される。それらを溶鉱炉で溶かすなどの処理をして不純物を出来るだけ取り除けば、晴れて単独の金属として利用できるのだ。

 つまり、宝石も金属も広く見れば石と同じということだ。もちろん元素的には違うものだが、クリエイションの説明からすると、モノとしての形・存在としての意味が一番重要な部分なのだろう。元素などを言い出せば、海水からアルミニウムを取り出すことも可能だからな。

どちらにしろ、肝心なことはイメージできるかどうかだ。あやふやなイメージでは成功しないだろう。


「四つ目はバリスです。クリエイションは素材がご主人様の創られた世界のものなら、どんなものでも利用できるのですが、素材自体のバリスが多いと利用できない場合があります」


「それはどういうことだ? そもそも、世界全体のバリスが少ないからクリエイション出来るんだろ?」


「はい、ですがそれも核の方がバリスを補充するまでの話です。バリスを世界に補充するごとに活力が戻ってくるので必然、素材にもバリスが補充されます。そしてこのクリエイションはバリスが少ないこと・世界の性質を前提として機能するので、世界にバリスが充実していくにつれて、クリエイションを実行する為の能力値の基準が高くなっていきます。この能力値のことを、ここでは『レベル』と呼んでいます。『レベル』は『ステータス』の項目で確認できるので、あとで確認してみてください」


「つまりは、レベル上げをしないと途中から何も出来なくなるってことか。レベルはどうやって上げるんだ?」


「方法は二つあります。基本はクリエイションを実行した際に経験値を得られるので、それが規定値に達したらレベルを上げることができます。その際にボーナスが得られるので、それを利用して自身を鍛えることもできます。もう一つは、バリスを消費して上げる方法です」


「それは、『バリスゲージ』から好きな量を経験値の代わりとして使用できるってことか?」


「その通りです。これの利点は早くレベルを上げられるということ、基準レベルの高い素材をクリエイションで利用可能になることです。ですが欠点もあり、まずバリス補充の完了が遠のくことです。バリスゲージの中身は核の方のバリスであると同時に世界のバリスでもありますから。それに付随して世界全体からもバリスが失われます。これにはクリエイションで創ったものにも作用しますのでご注意ください」


 ある程度溜まってからでないと出来ないが、これを利用したら質の高い素材を使えるようになる、その代りに核としての期間が長くなると。

 行き詰ったときの緊急策として使えるが、限度を見誤ると振り出しに戻るかもしれない。諸刃の剣というやつだな。


「そういえばさっき、クリエイションに使えるのは神様が創った世界のものだけ、みたいなことを言ってたけど、クリエイションで創ったものは素材として利用できないのか?」


 もしそうなら、定期的に移動生活をしないとクリエイション出来なくなるからである。


「いえ、クリエイションで創ったものも、元はご主人様が創られたものですから利用できます。ただ、それらは元々世界にあるものに比べてバリスが多いですから、レベルが基準に届いてないと素材として利用できないですけど」


 そう言われてさっきの木材にカーソルを重ねてみると『レベル13』と赤文字で表示された。どうやらレベルが十三以上でないとこの木材は使えないらしい。

 ちなみに今の俺のレベルは二である………意外と高品質なものが出来ていたらしい。


「そりゃ良かった。別にこの木材みたいな素材でなくとも、完成品でもクリエイションに使えるんだろ?」


「はい、できますよ。さっき言った注意点に引っかからない限りは」


 これで使わない・いらなくなった完成品の山で頭を悩ます必要はなくなったわけだ。

 だが、注意事項に照らすと完成品は一回一回素材に還元しないと使えそうもないな。使い道がなくなるよりはましだが。


「一応これでクリエイションの基本は以上になりますが、ここまでで何か分からないところはありますか?」


「……いや、今んとこないな」


「では、これでクリエイションの説明は終了します。応用や裏技的なものもあるかもしれませんから、いろいろ工夫してみてくださいね」


文がくどくてすいません。


※宝石説明の部分を修正しました。

 不純物とはゴミのことではなく、別種の成分ということです。

 数少ない読者の皆様、申し訳ありませんでした。

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