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担当者

 その白い部屋は八畳くらいの正方形に天井高は四メートルほどの広さ。

 窓や扉はなく光源もなかったが明るく、白一色なので目が痛くなるくらいだった。

 自室でメールを読んでいたら突然こんな場所に居たのだから、初めは混乱して部屋の中をうろうろしていた。

 体感で十分程そうしていると少し落ち着いてきた。うろうろしている時に壁を叩いてみたり飛び跳ねたりしていたのだが、何かの建物の中とかプレハブ小屋とかいう感じではなかった。

 なんというか、手応えが無いのだ。薄い壁を叩いた時の周りに響く感じも、分厚いコンクリートを叩いた時の硬い反発感も、地面を踏みしめた時の安定感も、何も。音は鳴るのだが、すぅーっと抜けていくというか消えていく感じだった。

 

 普段腕時計などしないので付けてなく、ポケットに入っていたスマホも何故か無くなっていたので時間が分からなく、今どのくらい経ったのかは完全に体感だった。

 俺以外には誰も、というか何も無かったので何をどうして良いか分からず、しばらく頭を抱えてどうしようと悩んでいた。


 三時間は過ぎたろうか。いや、もしかしたら三十分も経って無いかもしれないが、俺がいる部屋の隅の反対側に光の粒が集まっていた。

 何事かと目を凝らしていると、だんだん光が強くなっていき途端に弾けた、思わず目をつむって顔を逸らした。

 光が収まったようなので視線を戻すと、そこには女の子が一人立っていた。

 背は百四十センチくらい、髪は金髪で長さはセミロング。服はファンタジーなどで妖精が着ているような貫頭衣だ。

 不思議な登場だったが、俺以外の人に会えて少しホッとしていた。

 いくらボッチ歴が長くとも、こんな訳の分からない状況と場所に一人で長時間放置されて耐えられるほど、俺の精神は図太くない。

 涙目になるのを堪えながら女の子に話しかけようとすると、先に声をかけられた。


「おはようこんにちはこんばんは? ともかくはじめまして! いきなりこんな、なーんもない場所に連れてこられてビックリした? した?」


 いきなりハイテンションで挨拶をされて、話しかけようとした体が硬直してしまった。

 我に返って挨拶を返そうとした時にふと、女の子の発言に引っかかる場所があることに気が付く。


「どしたのどしたの? 一人でさびしくて心細くて不安だった? ごめんねー、ご主人様がいたずら好きで。あ、わたしの名前はサーナ、よろしくね!」


 女の子――サーナが続けて発した言葉にまたしても無視できないものがあった。


「あ、あぁ、俺の名前は三枝一樹、こちらこそよろしく。それよりも、ご主人様とか連れてこられたって、どういうこと?」


 そう、その言葉通りなら、その『ご主人様』とやらが俺をここに放置した張本人ということである。

 そういえば、さっきまで混乱して気が付かなかったが、あの変なメールがこの状況の原因で、差出人もその『ご主人様』だろう。


「あー、やっぱりまた何も説明なしに連れてきちゃったんだ。えと、じゃあ改めて説明するね。まず、カズキさんをここに連れてきたわたしのご主人様は、カズキさんの世界とは別の世界の神様なの」


「か、神様!?」


「そう神様です。それでこの場所は、別の世界から来た人が初めに訪れる中継地点というかスタート地点というか、まあそんなところ」


 その別世界の神様とやらが余所から人を連れてくるときに、初めに放りこむ場所がここだという。さながらエントランスいや、その前のポーチといったところだろう。


「えーとつまり、その神様とやらは俺以外にもこんなことをしていて、それで連れてきた人間に何かさせようとしていると。で、ここはその何かの為の準備をする場所なのか?」


「カズキさんは話が早くて助かりますねー、普通ならもっと狼狽えたり怒鳴ったりするんですけど。そうです、ご主人様はある目的のためにあちこちから人を連れてきています。ちなみにこの部屋について補足しますと、ご主人様が連れてきた人たちの反応を見て楽しむ意図もありますよ」


「まあライトノベルやネット小説を暇つぶしで読んでると、似たような設定はわりとあるからな。自分がその立場になるとは思わなかったけど。にしても、反応を見るために説明なしなのか……性質が悪いな」


「あははー……まぁ、すいません」


 サーナは申し訳なさそうに、しゅんとなってしまった。

 悪いのはその神様であってサーナではないのだが、やはり主人の悪癖は自分にも責任があると思っているのだろうか?


「いや、過ぎたことだしもういいよ。それよりその目的って具体的には何するの? あと拒否権とかってあるよね?」


「すいません、拒否権はないんです。目的を達成してから元の世界に帰るかどうかを選べますので、それまで辛抱していただけたらなー、と。もし帰られる場合は時間と肉体、場合によっては記憶もこちらに来る前の状態に戻しますのでご安心ください。必要なら報酬も用意しますよ」


「やっぱりか。まあお約束だし、相手が性質悪い神様だから仕方ないか」


「目的については、事の発端から説明しなければいけませんから少々長くなりますけど、その前に休憩しますか?」


「長くなるなら一息つきたいな、さっきまでの心労とかもあるし。喉が渇いたんだけど飲み物とかってないのかな?」


「そうですね、じゃあお茶とお菓子を出しますね。何かリクエストってあります?」


「この際なんでもいいよ。あぁ、お茶請けは和菓子……って分かる? あるならそんな感じのがいいな」


 紅茶に洋菓子っていうのも洒落ていて良いけれどやはり日本人なら、落ち着きたいときは緑茶と和菓子が一番だ(個人的な感想です)。


「わかりました。これでもいろんな世界の知識を詰め込まれているので、よほどマニアックなものでない限りは対応できますよ」


 そういってサーナが軽く手を振ると、目の前に卓袱台と座椅子、お茶の入った急須と和菓子を盛ってある籠が現れた。神様の配下なのに、和菓子がスーパーで見かける市販品だったのが意外といえば意外だが。あまり高級和菓子を出されても味など分からないだろうから良いか。


「便利だなぁ、さすがは神様の配下ってところか。それと、さっきから気になってた事があるんだが、聞いてもいいかい?」


「配下なんてそんな、大げさですよー。わたしはご主人様に作られた物のような存在ですから、あまり気にしないでください。あと、聞きたいことってなんですか?」


「物って、そんなに自分を卑下しなくてもいいと思うけど、まあこれは俺がどうこう言うようなことじゃないか。じゃあ率直に聞くけど」


 予想外な返しに軽く引いてしまったが、他人の家(別世界?)の事情なので深くは追求せず、自分の興味を優先した。


「はい、なんでしょう?」


「サーナさん、最初に出てきた時の印象と今の印象がだいぶ違うんだけど、最初のテンションはなんだったの?」


 最初は『なんてはっちゃけた感じの子なんだろう、うまく話せるだろうか?』なんて考えていたのだが、こうやって話してみると、気さくで思いやりのある話しやすい子だった。

 正直、最初の印象の違和感が半端ない。


「あ、あー、あれは、ですね」


「あれは?」


 口ごもって視線を逸らした後、少し頬を赤らめて恥ずかしそうに答えてくれた。


「別の世界から来た人の担当者は初めてでして、その、緊張していたといいますか。無理やり気分を盛り上げてそのまま乗り切ろうとした結果、思った以上にノリノリな感じになった次第で……はい」


 そのまま顔を伏せてしまったのを見て、微笑ましいなと思った。

 あ、俺はロリコンではないぞ。断じて違う!


物語のほとんどに登場しますが、サーナはヒロインではありません。

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