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プロローグ

 俺――三枝一樹は人付き合いの苦手な、何処にでもいる社会人だ。

 人との距離感が上手く掴めず、面倒事だけは起こすまいと上っ面だけの対応ばかりしていたら見事にボッチとなった。あまり目立った行動をしなかったのと元々影が薄かったのもあり、空気化して苛められることはなかったのが救いといえば救いか。

 物作りに興味があり、体を動かす仕事に就きたかったので高校卒業後大学には行かず小さな建設系の会社に就職。やはり先輩や同僚との距離感が掴めず微妙に浮いた存在のまま五年務めて今に至る。


 趣味らしい趣味は特になく、しいて言えばネットサーフィンと職業柄か家を見て外観やその家の仕事の評価を頭の中でつける事くらいだ。

外へ遊びに行ったりしないのかって? ボッチで無趣味な人間が用もないのにわざわざ外出したりはしないのだ。

当然彼女なんていない、どころか休日に一緒にいる友人すらいないのだけれど。寂しいと思う時もあるが、楽でもあるからあまり気にしたこともない。


今日も今日とて現場を動き回る毎日。先輩の言うとおりに、あるいは自分一人で作業して。大きなミスをしないように、揉め事を起こさないように無難に仕事をこなしていく。

あー今日も仕事疲れたなぁ。そういや借りたDVDの返却日がそろそろか、まだ観てないし早く帰って観ないといかん――

                      ・

                      ・

「――スター、マスター、お怪我はありませんか?」


どこか事務的な、しかし少量の親しみのある響きの声で目が覚めた。

そこに転がっている猪に吹き飛ばされた衝撃で、軽く気絶していたようだ。気絶している間に夢みたいなものを見ていた気がするが。


「……あぁ、吹っ飛んだわりには大したことないみたいだ。すまないな、どんくさくて」


「いえ、マスターはこちらに来てまだ二週間しか経っていないのです。故郷とは環境が違うのですから、とっさに反応出来なくても仕方のないことです」


 森を探索中に猪を見つけたので『今日は肉が食えるなぁ』なんてのん気に考えて、仕留めてやろうと気付かれないように慎重に近づいたつもりだったのだが、向こうはとっくにこちらの存在に気が付いており、さらに気が立っていたのか雄叫びをあげながら突進してきたのである。

 そんな状況に反応出来るほど反射神経も良くなく、心構えも不十分だったので呆気なく追突されて宙を舞ったのだった。用心のために着込んでいたハーフプレートが無ければ、気絶どころではなくもっとひどい状態だっただろう。


「それにしても助かったよ、俺だけならまず間違いなく死んでいた」


「恐縮です。ですがあの程度の動物なら、マスターお一人で相手を出来るようになるのに左程時間は掛からないかと」


「そうだといいな。とりあえずコイツを片付けてから次の行動を決めようか」


「かしこまりました」


 彼女は丁寧にお辞儀をしてからナイフを取り出し、猪の血抜きと解体に取り掛かった。

 ここに来る前の俺は、動物の解体なんて動画で見たことのある程度だった。初めはやり方も分からず見ているだけで、しかも現代のもやしっ子な俺は見ているだけで気持ち悪くなっていたのだが、それも何回かすればそれなりに慣れるものである。

 さすがに任せっきりなのは居心地が悪いので手伝おうとするのだが『いえ、このような瑣事は(わたくし)が行います。マスターはご自身の技能向上と次の行動決定に時間をお使いください』と、にべもなかった。

                      ・

                      ・

 そもそも、何故俺がこんな所にいるのかというとだ、二週間前の自室でメールチェックをしていた時である。


 アドレスを渡す相手もいないので普段ならメルマガかスパムしかないのだが、削除を連打していると件名なしのメールが一通あった。

 アドレスにも心当たりがないし空メールが届くのも変である。気になったので開いてみると、本文もほぼ白紙だった。スクロールしていくと最大文字数ギリギリのところに文字列が一行だけ書かれていた。

 その一行は文字化けでもしているのか意味不明な文字の羅列だったのだが、何故か俺の頭の中では意味のある言葉に変換されていた。

――自分の世界が欲しくはないか?

 頭の中で言葉が浮かぶと同時に目の前が暗くなり、気が付くと白一色の部屋にいた。



読んでいただきありがとうございます。

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