俺のしるし。
「もっしも~し、俺だけど」
「あぁ久しぶり」
「お前、今、彼氏いんの?いないなら会おうぜ」
「別にいいけど~」
いつも、半年に1回ほどのペースで気まぐれに連絡してくる彼。
彼は、私の『初めての人』だった。
15歳で彼と出会って、初対面のその日に、半ば強引に押し倒され、奪われたのだった。
確かに初めてだったけど、いわゆる出血をしなかった私に、彼は言った。
「なんだ、初めてじゃないのか」
私はこの言葉で深く傷つき、このままでは終われない、復讐したいと思ったのだった。
どうやって彼に復讐する?
襲われたことを警察に話す? ―親にも知られるし、悲しませちゃう。
誰かに頼んでボコボコにしてもらう? ―「ヤ」の友達いるけど、事件になるかも。
いろいろ考えた結果、私が出した答えは、
”彼を本気にさせてから、振る”だった。
この方法なら、誰の手も借りずに実行出来そうだった。
必ず、私を傷つけた彼を傷つけ返してやる!
それが15歳の私の彼への復讐劇の始まりだった。
それからの私は、彼好みの女の子になるため、頑張った。
キスをされても、何をされても、いつも耐えた。
ショートヘアが好きだというので、伸ばさずにいた。
彼が会いたがったらいつでも会いに行った。
「可愛いなぁ。お前の全部、俺のモノや」
彼はそう言って、毎回私の体の全身に、自分の”しるし”をつける。
胸元や、腰などは服に隠れて見えないが、
ショートヘアだから首筋はいつもキスマークが丸見えだった。
彼と会った日の帰りは、別れたらすぐに駅のトイレに走って
ファンデーションを塗りたくり、キスマークを目立たなくさせていた。
そんな日々が1年近く続いたある日、彼が言った。
「なぁ、俺が卒業したらさ、一緒に棲もうよ」
いつものように、私の全身に”しるし”を付けながら、彼が言った。
「お前とずっと一緒にいたい」
その言葉を聞いて、もういいかな、て私は思った。
この日を最後に、私は彼と別れた。
彼が傷ついたのか泣いたのかは知らないけど、自分の中で「もういいや」と思えたので、終わりにしたけど、結果1年近くかかってしまった。これは結構な誤算。本当はもっと早く終わらせたかった。
なぜなら、他に好きな人が出来ていたから。そっちの恋愛に早く全力で行きたかった。
その後、その好きな人と私は付き合うことになり、楽しい日々を送っていた。そんな時だった。
「もしも~し、俺だけど、今彼氏いんの?」
私が振った傷から立ち直ったのか、開き直ったように彼が電話してきたのだ。
「今?彼氏いるけど?なに?」
と、私が言えば、
「そか!オッケー、じゃ、また!」
と、あっさり電話を切り、半年後ぐらいにまたかかってくるのだった。
そして、うまいタイミングで私に彼氏がいない時期に電話が鳴ったら、私も「ちょっとぐらい相手してやろう」と思って久しぶりに彼と会ったりするのだった。
その度に彼は言う。
「なぁ~もっかい俺と付き合わないか?」
「え、無理」
「俺、お前がやっぱりいいんだけど」
「なんでよ」
「お前、最高に可愛いからな」
「あはは、ありがとね」
ここまで言われると悪い気はしないが、ヨリを戻すつもりはないので、またしばらく会うこともない。15歳で出会って、16歳で別れて、そして今はもう19歳。
その後も、半年ぐらいのペースで彼から電話が入る。もう、私は25歳、彼は27歳になっていた。私には18歳からは長い期間でずっと彼がいたので、彼とも随分長い間会っていなかった。
「髪、すごい伸びたね。まだ伸ばすの?」
「悪い?」
「俺はショートが好きだから。でも長いのも似合ってるな」
「そう?ありがと」
「でさ、最後に確認しとくけど・・・俺ら、結婚しないか?」
「なんで結婚になるわけ」
「俺、決めてるから。結婚するなら自分が処女抜きした女と、って」
「よく言うわ。出血しなかったからって『初めてじゃないのか』とか言ったくせに」
「そうだった?もう忘れた」
「私、あんたとは結婚しないから」
「そっか。じゃあもうこれで会うの最後な」
それ以来、彼からの電話はピタリとかかってこなくなった。彼の中で【10年間】と決めていたのかも知れない。半年に一回ほどのペースとはいえ、10年間もよく私に連絡してきたなぁ、と思うとちょっと感心してしまう。 最後のプロポーズも、本当は勇気を出して言ってくれたのかも知れない。いつもおどけたような軽い感じだったのが、めずらしく真面目な顔をしていたから。
今はもう、お互い40代。彼も理想の奥さん見つけて、幸せに暮らしてるかな。復讐だなんだとかって言ったけど、やっぱり最後は幸せになってもらいたい。いっぱいいっぱい”俺のしるし”をつけても文句言わない可愛い奥さんに出会えてますように。
~俺のしるし。(完)~