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昼ピーク戦争!

作者: 桃色 ぴんく。
掲載日:2015/05/22

 ここは、とあるセルフのうどん屋。

こじんまりとした店だが、昼ピークにはかなりの客数が訪れる。



『昼ピーク』

 それはお昼の時間帯の客数がぐーんと上がる時間帯のこと。この店では、11時半を過ぎたあたりから続々と客が押し寄せ、店の外まで長い行列が出来てしまう。大体13時前ぐらいまでそれが続くのだ。



 セルフのうどん屋なんて、どこでも似ている感じだが、一応説明を。

この店は、入口を入るとすぐに【注文口】があり、カウンター越しに、口頭で食べたいうどんを注文する。うどんを受け取ったら、横に進み、食べたい天ぷらがあればお皿に取り、その横のご飯ものコーナーで、食べたい物があれば取り、ドリンクコーナーを進めば、奥にレジがあり、そこで会計を済ませ、サービスコーナーでお茶や薬味やダシ、ソースなど必要な物を入れ、席に運んで食べ、食べ終わると、【返却口】のところへ、お盆を運んで終わり、というシステムだ。



 土日祝は、やはり忙しいが、この店は平日もかなりの繁盛ぶりなのだ。近くに工場などが多いせいか、お昼時は作業服姿のお客様で賑わっている。おかげさまで、同じチェーン店の中でも売り上げ3位以内をいつもキープしている。

 ちなみに、同じ業界の中でもクルーの数が少なく、土日祝は昼ピーク6人体制、平日は5人で乗り切っている。



 その5人の役割分担は、

第一部隊  「釜」 うどんの麺を茹でるポジション。

第二部隊  「センター&トッピング」 注文を聞き、うどんを仕上げるポジション。

第三部隊  「フライヤー」  天ぷらを揚げるポジション。

第四部隊  「レジ」  会計をするポジション。

第五部隊  「フレッシュ」 返却された食器などを洗うポジション。

 ※土日祝は、第二部隊がセンターとトッピング、各一人ずつになります。計6人。


 ちなみに、なぜ「部隊」なのかというと、昼ピーク、それは『押し寄せるお客様とクルーたちの壮絶な戦い』だからなのです。



 そして、今日も昼ピーク戦争が始まった!



「今日はそんなに客けえへんし、ちょっと少なめで麺繋ごうかな」

麺を繋ぐ、というのは、『この状態なら釜から麺をいつでも取り出せる』という時間を数個ある茹でカゴで繋げることだ。わかりやすく説明すれば、20分で麺が茹であがるとしたら、残り時間8分から釜揚げ・釜玉に使用可、とした場合、1つ目のカゴのうどんが20分経って茹で上がった時に、2つ目のカゴの残りタイマーが8分ぐらいになっている状態、というわけだ。それを3つ目のカゴへと繋ぐ。この店では、太麺(一般のうどんの麺)にカゴ3つ、細麺にカゴ1つを使って、麺を茹でている。


 そして、昼ピークが落ち着きかけて、「釜」担当のクルーが油断した隙に、悲劇がやってきた。1台のスクーターが店の前に停まった。乗っていたのはどうやら大学生のようだ。

「あ」

 その後、続々とスクーター、自転車などが店の前に停められていく。これは、時々ある現象。大学生の襲来だ。総勢30名前後はいるだろうか。

「釜玉の大!」「俺も」「あ、釜揚げ!」「釜玉の細麺!」

 釜玉も釜揚げも、釜で茹でている状態の麺を取り出す商品なわけで、こんなに一度に「釜・釜」言われたら・・・第一部隊撃沈。いつ、どれだけのお客様が来店するかは、日によって違うから予測できないのだ。多く見積もって麺を茹ですぎるとロスが出るので、とても難しい。



 「うへー、勘弁して・・・」

 心の中で(というか、ちょっと小さな独り言を)つぶやいてるのは、第二部隊の「センター&トッピング」のクルーだった。先月から始まった、夏向けの冷たいおすすめうどんは、野菜やお肉などをふんだんに使ったメニューで、一つ作るにもトッピングに時間を要する。集団客や、初めて来店する客が来た場合、このおすすめメニューを選ぶ傾向が高く、このややこしいトッピングのうどんの注文が続くと、「ひいいいい」となるのだ。もう一つ、第二部隊にとって嫌なのが、同じうどんを連続で注文されると、そのうどんに必要な材料だけが、どんどん減っていく。折角、朝の仕込みであんなに用意したのに、もうないやん!!!ってなってしまうからだ。材料が足りなくなると、このピーク時に、接客をしながらの仕込みになるので、出来るだけそれを避けたいのに~。お客様のいじわる~~~。第二部隊も撃沈。



 「今、アナゴって言わないで・・・」

 第三部隊のフライヤーの担当クルーは、目の前の天ぷらを取って行くお客様にお願いするような感じで見ながら天ぷらを揚げていた。集団客が、次から次へとアナゴ天を取って行ったので、山積みにしてあったアナゴ天がラス1になっていた。急いでアナゴ天を揚げるが、揚げ時間がかかるので、ラス1のままで次のアナゴたちが揚がるまで、もってほしい!クルーはそう願っていた。 が・・・最後のアナゴ天をお皿に取られ、そのあとに並んでいた客が

「アナゴ天欲しいんやけど!」と声をかけてくる。

「はい。少しお時間よろしいですか?揚がりましたらお席までお届けいたします」この瞬間に、クルーは『ああ、間に合わなかった』と落胆してしまう。他にいろんな天ぷらあるのに、なんで同じのばっかに集中するのよ~。あとで持って行くの、面倒なんだからっ・・・第三部隊も撃沈。



 「お先に、大きい方から、5、6、7、8、9千円と・・・お後、320円のお返しとレシートでございます」

レジでもお客様の襲撃が起こっていた。レジに入っているつり銭の残り枚数を気にしながら、第四部隊のレジ担当クルーは焦っていた。

『今日、やたらと万札多い・・・』

 セルフのうどん屋なので、比較的価格は安い。男の人でも、普通に食べてもまぁ千円行くか行かないかぐらいなのに、次から次へと万札で会計・・・。

『千円札増えろ、増えろ。5千円でもいいから~』

 後3人ぐらい万札で出されたら、朝に用意したつり銭の千円札がやばいことになりそうだった。そうなると、金庫に両替に走らないといけないので、とても面倒なのだ。

 その後も万札が続き、最後の一人にも

「大きいのしかないの~、ごめんねぇ」と言われ、第四部隊もあえなく撃沈。隙を見て金庫に走らねば!



『わ、座敷の客が一斉に帰ろうとしてる!』

 こちらは第五部隊のフレッシュのポジション。食べた後の食器を返す返却台の中で、せっせと洗い物をしている。少し前に、どやどやとやってきた家族連れや、会社の仲間の集団などが、それぞれ座敷でうどんを食べ、同時に座敷を離れようとしている!そうなると、返された食器でたちまち返却台が埋まってしまうので、ここはクルーの食器を下げる腕の速さの見せどころなのだが・・・2つの座敷の客以外にも、テーブル客が数人、帰ろうと席を立つ。頑張ってもお盆を9枚しか置くスペースがない返却台に、次々返却され、クルーが必死で下げるが追いつかない。

「ごちそーさん、置くとこないよ~」

台が空くのを待ってくれるお客様もいるが、容赦なくお盆の上にお盆を乗せ、グラグラな危ない状態で置いていく客もいる。洗っても洗っても追いつかない!洗いたい!下げたい!ちょっと待って~~~!!!第五部隊も撃沈・・・。



 こうして今日も、昼ピーク戦争は、お客様にあえなく敗退してしまったクルーたち。

決して、クルーたちの能力が低いわけではない。

この緊迫するハラハラな戦いを経験しない日は「暇~」で終わるから、これでいいのだ。



 こんな昼ピーク戦争を、ここのうどん屋は、毎日、年中無休で行っております。




                ~昼ピーク戦争!(完)~



  

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても緊迫感があっておもしろい話でした。 売り上げが上がるのだからいいじゃないかと外野の声。 もう少し分散して来店してよと店員さん。 双方の思惑が噛み合わないところに笑いの種があるのでしょ…
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