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第七話 鋼激に舞い、斬劇に眠れ

「馬鈴薯の方が柘榴よりも劣ったものであるなどとは、誰が良く断言できるであろう」――ミレー


        1


 ――古代文明の名残と言うには、そこは十分に形の残る建物であった。

 クレイは、隣に身元不明の傾奇者――ノエを乗せて、ドライエックビルディングへと赴いていた。ライデンシャフトよりこの場所まで掛かった時間は予測通りの一時間半ほど、未だ朝と形容するにも十分な時間帯であった。

 建物の周りやクエイたちへと同行する他の狩奴たちの姿は見えず、改めてこの三角ビルが荒野で稼ぐ荒くれ者たちにとっては旨みの少ない物件であることを知らしめられた。

 そうしてビルの入り口前にへと到着したクレイとノアは、目的先が屋内のために車両での踏破が不可能であるという残念な事実により、結局徒歩での探索を強いられることとなっていたのであった。


「折角、中古とは言え新たな車両を購入したのだから、そろそろ戦闘面でも試してみたかったのだがな……」

「ふむぅ……、クレイ殿のように車があると、やはり移動に掛かる時間や行動可能となる範囲も全然違ってくるというものでござるな」

「あぁ、そうだな。何より私のような狩奴(イェーガー)の本領は、このような戦闘車両を駆っての殲滅戦だろう。持ち得る力を全て発揮するのであれば、車両無しには語れないな」

「いやいや、何を仰る! 拙者、クレイ殿を観止めたときより――貴殿が一目で、強者であると理解した次第で候! それは少なくとも、そこいらで闇雲に力を振りかざしたり、一般の民に威張り散らすような者では無い……と言うことが解る程度には、拙者も人を見る目があると自負しているでござる」

「で、以前に誘った相手から、男女問わず襲われそうになったというのにか?」

「うぐぐぅ……」


 言葉に詰まるノエを放置して――軽装甲車より下車したクレイは、目前に(そび)える巨大な建造物を観察することにした。

 狩奴事務局で得られた事前情報では、正確な建造年月不明なこの奇怪な形状の建造物は、凡そ三十階ほどの高さを誇っているらしい。

 天を突くように、そして上層階へと向かうにつれて、徐々にフロアの面積が小さくなり――最終的に頂上部では、尖り()となる。それ故に、三角(・・)ビル。

 外面には所々窓が付いており、外からの日光を取り込むこと程度は出来るようになっているみたいであるが、正面入り口以外であるそのような場所より侵入することは恐らく不可能なのであろう。

 何故ならば、地に足を着けて生活をする人間には、其処まで辿り着く手段(・・・・・・・・・・)がまるで無いからである。

 空を舞うタイプの突然変異体や、鋼の翼を持った鳥類をモデルとしたであろう暴走機械ならば兎も角――言うまでも無く(・・・・・・)現代の人間には、自由に空を移動する方法が皆無なのであるから致し方あるまい。

 と――そのような線の無い夢想を繰り広げている暇があるのであれば、一にも二にも無く如何に効率的に此度の戦場を攻略するかを考えるべきであろうと結論付けたクレイは、緊張した面持ちでビルを見上げるノエへと一声掛けてから、建造物の入り口と思わしき開きっぱなしの扉へと歩みを進めた。


「――まぁ、良い。では往くぞノエ、準備は良いか」

「あっ! ちょ、ちょいとお待ち下され! クレイ殿ー!?」


 はっ、と不意にクレイより声を掛けられ、我に返ったかのように後より小走りでついて来るのであった。


        2


「――どうした、遠慮はするなよ? この私が、わざわざ貴様等に鉛弾をくれてやっているのだ……そぅら、お代わりだ!」


 クレイが軽装甲車同様に、これまた新調したばかりの突撃銃ツークフォーゲルより火を噴かせ、地蟲のように蠢く暴走機械へと鉛のシャワーを浴びせ掛ける。

 先日まで装備していたヴァッサーフォゲルよりも、より装弾数及び連射性に優れたこの銃器で、小型の機械を釘付けにしていた。

 それを受けた無機物たちは、タップダンスに飽き足らず――サンバにルンバにジルバと強制されて、実に足下も大忙しなことであろう。

 ただし、当然の如く襲い掛かる暴走機械相手に働いていたのは、クレイだけに非ず。


「参と陽の下に千切れ飛べ――繊月摩虎羅(せんげつまこら)!」


 そうしてノエは、クレイが足止めし表面の装甲を幾許か食い破り脆くなった相手をその手にした刃――曰く、太刀と云う(つるぎ)を用いて、一刀の下に断ち斬るのだ。

 ノエが腰に差す二本の刀の内――現在進行形で抜き身となって振るわれているのは、先に見た白雪の如き純白の鞘より抜き取られた白銀の刃であった。

 それは周囲を微塵も曇り無く映し出す鏡であると同時に、其処へと映った物を容赦無く切り裂き屠る苛烈なまでに華麗な煌めき。果たしてそれは美しさのあまり、(うつつ)の物であるのかと疑問を抱いてしまうほどの存在に感じられた。

 ――が、正直な処それは単純にクレイ個人の感想でしか無く、それ以上に疑問が湧き出て仕方ないことがあった。

 それは、あの太刀の材質とノエの腕についてである。

 前以って、ある程度クレイが機械たちの関節やカメラを破壊し装甲を削っているとは言え――あのようにバッサバッサと容易く、金属で構成された物質を切断することが出来るものなのであろうか。少なくとも、クレイの腕と手持ちのナイフでは不可能であろう。

 加えて、それほどの働きを繰り返しているにも拘らず、破損はおろか刃毀れの一つもしていないあの白銀の刃は何であろうか。強靭や材質や摩耗防止コーティングの詮を考えたとしても、あのような細身ではすぐに武器としての耐久限界が来てしまうに違いないはずにも拘らず、だ。

 更に言うならば、どれほど上等な武器を有していたとしても、それを行使する人間の腕がへっぽこではお話にならないのである。つまり、そんな未曽有の武器を振るうノエもまた、腕の立つどころでは無い者なのであろう。


「ほぅら、踊れ踊れぇ! 機械だろうと無機物だろうと、貴様らの逝く末は全く以って地獄の底に等しいものよ!」

「まだまだぁ! 遅れ遊ばせながら死に躊躇うことも許しはせぬぞ――十六夜波夷羅(いざよいはいら)!」


 ――過雷(からい)の如きクレイのばら撒く弾幕の後。

 ノエより放たれた斬撃は、残滓と成りて残響に溶け逝く。斬鉄染みたその所業は、幾許かの遅延を以って機械仕掛けの(はらわた)をブチ撒けさせている。


「弾丸装填、一番二番! 突撃(シュトルゥム)()散弾(シュロート)の二重奏だ――止めは頼むぞ、ノエ!」

「承知! 凍て付け(しば)れよ魂の果てまで――氷輪迷企羅(ひょうりんめきら)!」


 足止め以上の効力を優に発揮していた――クレイの虎落笛(もがり)にも等しい暴虐の爪痕に追従するように斬り付けられたノエよりの刃のダンスは、暴走機械へと残したその傷口へとまるで壊死(・・)させるかのように刻み付け、鉄と鋼の魂亡き骸へと変質させたのであった。

 銃と刃の多重奏。

 クレイが放ち、ノエが裂く。

 ()を噴く銃口、斬り散らす刀身。

 全く以って、これほど相性の良いものが存在しようか。

 順調に次ぐ順調、良好に依る良好。

 未だ疑問は尽きぬとも――それ程広くも無い通路の中であって、クレイとノエは互いの長所を生かしながら上手い事特性を最大限に活用することが出来ていた。

 ――このときは、そう遠くない未来に訪れる問題など当然のごとく、二人は知覚していなかったのであった。


        3


「……完全に、迷子でごさる」

「と言うか、どう見ても此処は行き止まりだな」

「おかしいな……絶対この先で合ってる(・・・・・・・・・)はずなのに……」

「おや? 地図を失ってしまった割には、随分と自信があるようだな(・・・・・・・・・)

「えっ! あっ、その……えっと、そ、そう! せ、拙者結構勘が良いのでござるよ!」

「――まぁ、良い。君がそういうなら、そう言うことにしておこうか」


 そうしてあからさまに安堵の様相を見せたノエはさて置き、クレイは何も無い正面の壁を見詰めていた。我武者羅に何とか進んで来たわけであるが、遂に完全な袋小路の行き止まりへと遭遇してしまったのである。

 兎にも角にも――こうして、現在へと至るのである。

 クレイが気が付いたときには、ノエが事務局にて建造物内の地図データを自身のPDAへと入れて貰っていたのであるが……どうやら戦闘か闘争の最中で、道すがら落として来たらしい。

 ちなみにその三角ビル内の地図データは、以前までに事務局が調査により得ていたデータらしく――どちらにせよ、途中までしか造られていなかったとのことであるが、その程度の事実では何の慰めにもならない。

 実際に――ノエがPDAを紛失してからは、クレイたちは闇雲に建物内を彷徨うことになっていたのだから。

 されどその割に、こうして此処まで来られたことは、運が良かっただけであるのか、はてさて……。

 加えてクレイの体感では、既に幾重もの階段を上り、それなりに上層階へと辿り着いているはずである。

 にも拘らず、次から次へと湧き出してくる暴走機械を破壊し、時には適度に足止めをして――そうして、完全無欠の絶壁。即ち、何処にも進む先が見当たらない行き止まり。


「取り敢えず、調べるだけ調べてみるか。最悪、ノエの探し物は見つからなくても――事務所よりの業務内容はこの建造物内の調査なのだから、此処で帰還しても問題はあるまい」

「それでは、拙者は此方の壁を調べるでござる」


 折角此処まで進むことが出来たのだから、と――クレイとノエは当然の如く無機質でのっぺらぼうな行き止まりの壁を調べながら、言葉を交える。

 沈黙と壁を叩き擦る音だけが響く中、先に口を開いたのはクレイの方であった。


「ノエは腰に得物を日本差しているようだが、もう片方の白い鞘では無い側は抜かないのか?」

「……クレイ殿は、他人のことを良く見ているのでござるな」

「あぁ、本日限定とは言え、君は私のパートナーだからな。敵を知る前に、まずは味方の能力や戦力を把握しておいた方が連携も摂り易かろう? 無論、これは仕事自体にはあまり関係の無いことなのだから、何か事情があるのであれば無理に答えずとも構わないが」

「いや、其処まで深刻な話ではござらんよ」


 一旦、言葉を区切ったノエへと視線を向けたクレイの先では、件の蛇の這うが如き文様の鞘を上から軽く撫ぜていた。


「これは、拙者の未熟さの証である」

「未熟、ね……」

「この刀は、少々曰く憑きの一品なので御座る。力無き者が手にすれば、(たちま)ちその力に取り込まれて破滅を(もたら)す――なんて」

「破滅とは、中々穏やかでは無いな」

「あくまでこの刀が拙者へ譲渡される際()の……えっと、年長者より教えられた伝承なので、それが何処まで真なのかは結局解らぬのでござるよ」

「確かに、火の無い所に……では無いが、そういった逸話が残っているということは、少なからず過去に何か生じたためであろう」

「まぁ、そのようなわけで――万が一のことも考えて、拙者が自分自身が一人前になったと納得し認めることができるまでは、一応封印をしておこうという次第なのでござる」

「成程、中々面白い話を聞かせて貰った……そして面白いついでというわけでは無いが、私の方も良いモノを見つけたよ」


 クレイが調査をしていた壁の端、そしてその隅の隅の下部には――人差し指と中指がようやく入るほどの小さな窪みが存在していた。

 警戒を継続させながらもそちらへと指を差し込むと、其処には不自然なボタンを発見する。


「――道は無いのだ。当然、押すしかあるまい?」

「クレイ殿、何を……っ!?」


 かちり、と――。

 小さな音が簡素な空間に響いたと思ったら、その逆側の壁が音も無く緩やかに組変わり――其処へと新たな扉が、現れたのである。


「良かったな、道が開かれたぞ」

「……ちょっと吃驚(びっくり)したでござる。実行の前に、一声くらい掛けて……」

「掛けたではないか――押す直前に」

「そんな短時間では、心の準備も出来ないでござるっ」

「まぁ、結果良好であっただろう?」


 小さく抗議するノエへと軽く弁解しながら、クレイは扉へと足を進めることにした。


        *


 【|傾奇者《prachtig sonderling》】

 (かぶ)(かぶ)いて、世を流れ。

 (かぶ)(かし)いで、夜を乗りこなす。

 伊達と酔狂、心に忍ばせ――咲かせて魅せよう大輪爛漫を。

 古代に存在した武士という文化……を大幅に、そしてそんな流れを汲みながらもド派手に外れた者たちの総称である。

 最早、太古に存在した主君は無く。

 そうして彼らにルールも無く、彼らは彼らのルール(・・・)で動く。

 無頼で風来で自由気儘な流れ人、というのが基本的なスタンスであるのだが……どうやら此度の(ノエ)には、外観を除き些か当て嵌まらない点も多々存在しているような気がする。

 傾奇者の主な武器は、ノエが所有し行使するような太刀の他にも槍と言った長物を用いる。と言うか、戦う様が華麗では無いと――傾奇者が銃器を使うことは無い。

 同様に身に纏う防具の類も、外観の良さと如何に目立つかという派手さと華やかさに焦点を置くため、野暮ったい防弾・防刃ジャケットや隠密性の高い地味なスニーキングスーツなど以ての外!

 RIKISHIのような重厚な筋肉と脂肪の鎧など纏っていないにも拘らず、ヒラヒラ&キラキラの薄っい布地の衣装のみだ。

 成長に伴い会得するスキルは、どれもこれも一癖ある奇抜なモノばかり! ステータスの伸びの良さは、主に行動速度や回避能力が顕著である。

 車両……? ケッ! 華やかさの欠片も無い、野暮ったい鉄の箱なんかに乗れるかってんだ! 中に入ってしまったら、自慢の美形が台無しだろう?

 ……そのような訳で同様に、頭や顔を覆うような装備品も一切装備不可であるが悪しからず。見栄も張れずに、何がカブキか!

 傾くなら、傾き通せ。

 しかしながら――傾奇者は刃を用いて攻撃するとは言え、特別剣技や槍術に秀でているわけでは無い。

 当然、確固たる剣技(・・・・・・)を振るうなどまず有り得ないはずなのであるが、そうなるとこのノエという人物は一体……?

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