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第一話 割れた荒野と鈍の雨

「自然淘汰とは、有用でさえあれば如何に微細なものでも保存される原理である」――ダーウィン


        1


 ――取り敢えず、と。

 梯子を伝っての地下より脱出後、クレイは当ても無く荒野を彷徨っていた。

 元々右も左も、それどころか自身の出生すらも不明なのだから、今更無人の荒野を右往左往したところで困るものでは無いと自身へ言い聞かせながら。

 そうして直面したものは――、


「……突然変異体(ウンゲチューム)、か」


 突然変異体――それはこの世界において、古代(・・)に引き起こされたと朧気ながら伝えられている、戦争が終結した後に生まれ出でた異形の生命体であると言われている。

 世界が割れるほどに強大な戦勝の最終期、どこぞの者たちが放った放射性物質を存分に用いた兵器は、それはもう平気で数多くの人間を死へと追い遣ったらしい。

 更にそれは当時の生者の死滅だけに止まらず、そのような虐殺兵器による死を逃れた人間を含む動植物や土地に対しても、これ以上ないほどに非情な爪痕を残留させていったのである。

 放射性物質により引き起こされる被害の中で、特に目に見えるものが遺伝子異常と言う形で顕現したのである。早い話が、既存の常識では考えられないほどに変質して生を受けた奇形生物全般を指し示す。

 ただ――最早、今では当時の苛烈なる戦火の影響により、その手の学術的見解に関する資料や研究結果その他諸々の大部分が焼失してしまっているがために、結局何が何処まで本当なのかと言うことが正確に分かっているわけでは無い。

 現に、既定の生命体と言う概念には当て嵌らない機械という()が、創造者たちの手を離れて暴走するといった現象も日常茶飯事となっているのだから、もう訳が分からないと皆が皆容易く匙を投げたのである。

 故に現代を生きる人間は、たった今目の前に展開される荒廃した土地や凶暴化・巨大化して人を襲う突然変異体。原因不明な暴走行為を行う戦闘機械類を前にしても生きて往かねばなるまいということだけが、現在進行形で生を送る人間のとっての現実なのだ。

 ――それは兎も角、このままでは十二分に奴らと邂逅することになるであろうと踏んだクレイは、すぐさま行動に移すことにした。

 土と瓦礫、砂と石粒ばかりが散乱する荒野の中で、クレイは視線の先へと存在するものを認識して、小さく小さく呟く。

 全長は凡そ小型の輸送トラックのタイヤ一つ分ほどであろうか。

 それは毒々しいほどの紫色に全身を染められて、薄膜を張った肉の塊で所々が凸凹と隆起しており、その側部からは蜘蛛のような脚が数本生え蠢いている。

 肉の狭間より飛び出した一つの大きな目玉はぎょろりと辺りを見回しており、その下についている体格の割に大きな口よりは歪な歯が不揃いに生え零れて剥き出しとなっていた。

 ライヘヴァイン――豚の死骸と呼称される、不細工極まりない突然変異体の種であった。あの手の生命体は、一体何が楽しくて生きているのであろう――自身は彼ら(・・)では無いのだからわかるはずも無いだろう、とクレイは一人装弾確認済みの突撃銃(アサルトライフル)ヴァッサーフォゲルを構えるのだ。

 不鮮明な中においても、どうしてか明確な鮮明さを持つ知識を手繰り寄せながら、未だこちらに気が付いていないであろう相手を観察し――静かに、そして堂々とクレイは距離を詰めて往く。


「数は、一、二……三。あぁ、雑魚(・・)がたったの三体だ。何も――そう、何も問題は無い(・・)


 そうして、異形の者たちが接近して来たクレイに気が付き、此方へとその大振りな目玉を一斉に向けた瞬間――手元の銃器は、火を噴いていた。

 雷管に火が着き、ガンパウダーが燃焼し、高圧のガスが発生する。これで噴出したガスの放出により、小振りな爆発音が鳴り響いた。

 フルオートマチックではものの数秒で弾倉を空っぽにしてしまうがために、消費を抑えるべくの三点バーストが――咄嗟の事態に反応できない異形たち(ライヘヴァイン)は、その最小限且つ的確に過ぎる鉛の暴威に貫かれた歪な体躯より汚液を破裂させながら、容易く生命の沈黙に追い遣られていた。

 断末魔すら、荒野に溶けて逝く――。


「…………」


 引き金から指を外し、ヴァッサーフォゲルの構えを解きながら――クレイは、自問自答をしていた。

 この不自然なほどに(・・・・・・・)自然な銃器の取り回する疑問であろうか。

 されど結局、穴ぼこだらけの己の記憶では、現状で幾ら考えても捗ることが無いとクレイは思考を切り替えて、再び歩みを進めることにしたのであった。


        2


 ――あの後、数度の変異体との邂逅も難無く処理し、クレイは難無く荒野を進むことが出来ていた。

 そうして現在、クレイはとある街の入り口へと差し掛かっていたのである。

 『シュタット・ライデンシャフト』――入り口門上部に掛けられた看板には、そう書かれているようだ。この街の名前であろうか。残念なことに、クレイの中に該当する記憶は存在していなかった。

 所々に大きな傷が目立ちながらも見るからに分厚く丈夫そうな鉄の門扉は開かれており、両サイドには簡素ながらも荒野からの来客(らいきゃく)を見張るための監視塔も一棟ずつ備わっていた。

 そのためか――門付近には見張りの類は立っておらず、クレイ以外の人間も自由に街へと出入りしているようであった。街の裏側までは判らぬが、変異体や暴走機械に野党対策により周りには高い防壁でぐるりと囲まれているようだ。

 例え車両(・・)であっても、横に数台は易々と通ることが出来るようにとの配慮の下で作られたのであろう道幅は広く、入り口門よりずっとずっと続いている。

 クレイが門より真っ直ぐと進み歩いているこの大通りと思わしき道の脇には、此処よりも細めの街路が幾つも伸びているが――流石にそこいらへ進むためには、車両のままでは通ることが出来ぬように地面より車両止めが設置されているが、身一つである今のクレイには関係の無いことである。

 こうして、何をするにもまずは己が指針を決めねばならぬ。そして荒野を歩いている途中に自身が無一文であることに気が付いたクレイは、金策も兼ねて狩奴事務局へと足を運んだ次第であった。

 此処では集落となったこのような街――各地域に存在する自治体より、荒事を専門とする狩奴(イェーガー)のような人種へと発行された仕事を受注し、日銭を稼ぐことが出来るのであった。

 ――その手の常識の類は忘れていなくて本当に良かったと、クレイは一人誰にも気づかれること無く心の内で安堵する。

 それはさて置き、仕事の内容は様々である。

 この街と他の街を行き来する行商人やらが、より安全に行動するための潜在的危険要因の除去作業――つまりは、凶暴化した変異体や暴走機械の排除である。

 それに加え、例え相手が人間であったとしても往き過ぎた(・・・・・)行為により地域の行政に目を付けられ、討伐報奨金が掛けられた野党などは賞金首として狙われる。奴等の首を此方へと持ってくることで、既定の金銭を受け取ることが出来るのだ。

 しかしながら、それらいずれの仕事にせよ――当然全て自己の責任に基づくものであり、死して屍を拾う者は無い世界である。死にかけた時点で金になりそうな身包みを剥がされ、荒野に打ち捨てられて化け物どもの糞に成り果てるだけである。

 無論、この場所に脚を踏み入れる者は誰しもがそれを覚悟しているものであり、クレイもまたそれを知った上での金策に赴いたのだ。

 現在、クレイの手持ちは拳銃一丁に突撃銃一丁。戦闘用のナイフ一本に加え、後は閃光弾と対人地雷が数個ずつである。銃の弾は背嚢の中に幾らかあるとは言え、この先のことも視野に入れるとお世辞にも潤沢とは言い難い。

 されどいくら自身の荷物を調べたところで紙幣の一枚も出て来ないのだから、現時点においてはこれ以上の補充も儘ならないのである。したがって、今日中に(・・・・)安定して金を稼ぐことが出来るようになるまでに、化物共を屠り去って一定以上の金を稼がねばならないのだ。

 でなければ、今夜の食事や宿すらも儘ならぬ有様であった。一食抜くことも野宿自体もそれほど困難では無いものの、例え街中であったとしても浮浪者じゃない土地勘も皆無な人間が寝そべっていては、強盗連中の良いカモである。

 己を害そうとする他者の命を奪うことに抵抗は無いが、その際に用いる銃弾もタダでは無い。極力リスクを排除するために、ナイフがあるとは言え接近戦は避けたいところであるし、返り討ちにして死体を漁ったところで強盗が何も持っていなければ総合的にはマイナスとなる。と言うか、道端で転がっている人間を漁る程度の強盗なぞ、金目の物など持っている筈も無いだろう。故に収入の安定性の面より、釣り(・・)も却下。

 故にやはり、事務局を通して真っ当な(・・・・)仕事に従事した方が賢明であると言えよう。少なくとも、事務所が狩奴に成功させた仕事に対しての金銭支払いの契約を履行しなかったという記憶は、クレイのなかでは皆無である。

 いずれにせよ、既に昼前となっていたためにクレイに残された本日のリミットは残り少ない。暗視対応のゴーグルもあるとは言え、電力残量も考え基本は局所的に用いるものであるとしているため、安全面から考えても月明かりのみに支配される夜の荒野を彷徨うつもりはクレイには無い。

 一応クレイが抉り出してきた、道中で処理した豚の死骸(ライヘヴァイン)の素材数個では、当然大した金額にもならなかった。吐き出した弾代が精々である。

 こうした荒野で無数に蠢く変異体の討伐は、基本的に核や資源となる身体の指定部位さえ提出すれば報酬は滞りなく支払われる。狩奴たちが気にすべきは、変異体の分布と増殖による討伐(かいとり)価格の変動であろうか。

 あとは名前持ち(オルデン)と呼称される、特に人間へと被害を出した凶悪な変異体や暴走機械も、討伐時には賞金首同様に報奨金が支払われるというシステムになっている。

 普通と言っては何だが――荒野をうろついている特別指定されていない暴走機械に関しては、ぶっ壊してバラし、特定のパーツを専門店に持っていけば、状態次第であるものの大抵そちらで買い取ってもらうことが出来る。

 暴走機械に関しては、一応の生命体である突然変異体のような異形と違い無機質なのだから産めや増やせやが成り立たないと思われがちだが、どうしたものが自己増殖をしたりガラクタをくみ上げて仲間を生み出したり――酷い場所では、廃工場や物資を生み出すための生産プラントを乗っ取り、まるで女王蟻のように増える種も存在が確認されている。それ故に、変異体同様に暴走機械類の殲滅も何時まで経ってもイタチごっこなのである。

 そうして幾許かの小銭を得て、現在の相場を確認したクレイは、本日の食い扶持を稼ぐべく再び荒野へと繰り出す。

 街の外へ出て数分もせぬ内に、ナイフと拳銃程度しか持たぬチンピラに三名に囲まれ恐喝を受けることとなるが――これまた当然、無難に処理することに成功した。

 人数的に優位があると思ったためであろうか――ヘラヘラと無警戒に近づいてくる者たちの眉間へと、クレイは流れるように腰元のホルスターより抜き取ったシュペヒトを向け、即座に三度引き金を引いた。このように、いつ何処で何が起こるか解らないのだ……安全装置は当の昔に解除しており、初弾も装填してあるのだ。

 声を上げる間も無く、崩れ落ちる名も知らぬ者たち。嗚呼、真にこの世は弱肉強食。常なる強者など、何処にも存在しないのだ。

 そして勿論、クレイは動かぬ骸の懐へと手を突っ込み、武器と金目の物は回収しておく。案の定、大した物など所持してはいなかったが――。

 ナイフもクレイのベスティエより低品質で、各々の拳銃もスラムの露店で売っているような粗悪品である。内一つは、一目で判るほどに銃身が歪んでいた。これを突き付けられるよりも、引き金を引く方がよっぽど恐ろしいのではなかろうか。

 ――全く以って、荒廃した世界には似つかわしくないほどに頭上で煌めくお天道様の下、平常運転な午後が始まった。


        *


 ☞ ステータス が 更新されました 。


┏【 status 】━


 【name】クレイ

 【role】狩奴(イェーガー)


┣【 equipment 】━


 【weaponⅠ】シュペヒトKt2[拳銃]<実弾>

 【weaponⅡ】ヴァッサーフォゲルMd[突撃銃]<実弾>

 【weaponⅢ】ベスティエ[ナイフ]<近接・斬撃>

 【head】オリーブ色のヘルメット<耐弾>

 【arm】なし

 【bodyⅠ】オリーブ色の迷彩服<隠密↑>

 【bodyⅡ】防弾チョッキ・プレート無し<耐熱・耐弾>

 【leg】既製品のコンバットブーツ<悪路走行↑>

 【kitⅠ】暗視ゴーグル<夜間視野確保>

 【kitⅡ】防護耳栓<音響、音波無効>


┣【 tool 】━


 ・閃光弾(スタングレネード)×2

  → 範囲内対象に音響に依るダメージ+確率で盲目付与。

 ・指向性対人地雷(クレイモア)

  → 接触した対象に実弾+衝撃でダメージ+成功時に出血付与。

 New!・戦利品のコンバットナイフ

  → 低品質で手入れも不十分、実践に用いるには不安が残る。

 New!・粗悪品の拳銃×3

  → 実用には危険が伴う。さっさとジャンク屋にでも売り払うが吉。


┣【 vehicle 】━


  無し


┣【 skill 】━


 【❍ヴァクストゥム】成長・学習速度に多大なボーナス。

 【❍バリエンテ】恐怖無効

 【❍クア・エンダリヒ】非戦闘中、徐々に体力と損傷が回復。

 New!【❍アオゲ・ミラン】銃撃命中率にボーナス。

 New!【❍アインゲ・シュプル】白兵戦での回避率にボーナス。


┗━

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