或る少女の回想-Ⅰ
うんざりするくらいに、世界は刺激に溢れている。
瞼を開ければ光の世界が目に飛び込んでくる。呼吸をすれば、大気が鼻腔を貫く。手のひらに落ちる雨粒は、私の皮膚を震わせる。
私は、誰でもない。だけど、私は、どうしようもなく「わたし」なんだ。
それは、私だけが感じることのできる、五感が示してくれる。
これだけが、生きているという証明。私という存在の、証左。
そういった事実だけが、こんな世界の中にも私が在るのだと唯一思い知らせてくれる。
でも、私を「わたし」として見てくれる人は、誰一人としていない。
いや、この言い方は少し違うのかもしれない。
私は、世界の中にいて──外にいる人間なのだ。
矛盾しているように思うだろうか。
でも、私という空虚な存在は、確かにここにいるのだ。誰にも認識されることなく。
例えるならば、私は透明人間だ。
これからも、そしてこの先も、透明な存在のまま生き続けるのだ。
「ただ空虚なだけの人生に、何の意味があるのだろう」
……そう思ったことは、もう数えきれない。
それでも、どんなに空っぽでも、意味がなくたって、私は生きていく。そう決めたんだ。
これは、私自身の戦いでもあるのだ。「わたし」という存在を賭けた、たったひとりの戦争。
踏み出した足を止めることは、もうない。