プロローグ
「俺は特別だ」
誰しもがそう信じて生きている。少し前までの俺もその一人だった。正義の味方になりたいなんて大それた夢を持った時代もあったさ。だが、現実はそうはいかない。夢を叶える人間なんてひと握りしかいない。その成功の裏で涙を飲む者は大勢いる。
人生は諦めが肝心だ。
幸いにして、俺は「その他多数」の側だと比較的早い段階に悟っていた。まぁ、生まれてこの方、一番になったことがないから当然の帰結ではあるがな。
俺の座右の銘は「汝自身を知れ」だ。身の程を知れよっていう意味なんだと、俺なりにデルフォイ神殿に刻まれたこの言葉を解釈して使っている。まぁ、好きなのはソクラテスじゃなくてニーチェなんだけどな。時代が違うじゃないかって?そこはいいだろ別に。ちゃんとソクラテスのことも尊敬してるからさ。
「お弁当はあたためますか?」
そんなわけで俺、三条翼は絶賛バイト中である。あいにく俺はバイトの最中にこんなことを考えることでしか、思想の自由の権利を行使する場面を思いつかない貧弱な脳みそしか持ってなくてな。毎日大学に通ってクソも面白くない講義を聞いて、帰ったらコンビニでバイト。シフトが入ってない日は家で惰眠を貪るのが唯一の幸福。はっきり言おう。さっきは教授の授業がつまらないと言ったが、それより数百倍つまらない毎日を俺は送っている。
お前は何のために生きているのかだって?
いいか、何のために生きているかなんて考えるだけ無駄だぞ。
俺たちは死ぬまでこの日常を繰り返すしかないんだ。
なぁ、いい加減お前も諦めろよ。あいつも、そこのあいつも、どっかのジャングルの中にある村で暮らしてるやつも、この広い宇宙のどこかにいるかもしれない宇宙人だって、みんな同じ運命なんだよ。
もっと楽に生きようぜ。
そして、俺は自分を戒めるように低く呟く。
「俺は特別なんかじゃない」