二人と・・・・一匹の夜
お読みいただきありがとうございます
落ち着かない・・・・
落ち着く・・・・・・
その間で気持ちが動く。
ガラス張りのお風呂に入っている影。
ティルルです。(期待しました?)
ダビデ像のように均整のとれた筋肉質。
服を着ている時にはもう少し細いと感じるのだが、着痩せするのだろう。
ムキムキではないが、腹筋も薄くではあるが割れていて細マッチョだ。
「落ち着かないが・・落ち着くか。」
思っていることを口に出してつぶやいてみる。
このガラス張りのお風呂は丸見えで本当に気恥ずかしく心もとないが、見ようによっては侵入者がひと目でわかる。
四方を壁で囲まれていては、襲撃者が襲ってくるのを察知しづらいし逃げ場もない。
気恥かしさを克服すれば、常に身辺に警戒をしていなくてはならない身にとっては、落ち着ける環境ではある。
「戦神子がそう思ってこれを作った・・・ということはないか。」
戦神子から居間・寝室へと考えが飛ぶ。
シロはまだ帰ってこないので、寝室にはサヤが一人でいる。
湯上りのサヤを見たときには、危うく抱き込みそうになった。
後れ毛を書き上げるだけにとどめておいたが、真っ赤に上気した肌をさらに赤く染めて、香油の香りが立ち上ってくるに至っては、その場を言い訳して立ち去るしかなかった。
『既成事実』を作ってしまえばいいと思っていたのが嘘のように踏み出せない。
「今晩か?」
そう呟いて湯船から立ち上がる。水の玉が伝い降りる。
落ち着かない。
「シロ、早く帰って来て。」
ドアで隔てられていればまだしも、衝立一枚でしかも10歩で互の寝床に至るというシチュエーションは、干物女に片足突っ込んでいた沙耶には、荷が重い。
外を見る。風が出てきたようだ。少し離れたところにある木々は黒く沈み込み、シロの白い姿は見えない。
雲は風に散らされて煌々と月が出ている。
「まだ帰ってこないのか?」
後ろから声をかけられて飛び上がる。
ナイトガウンを来たティルルが立っている。
「まだ帰ってない。どこまでいったんだろう。風がでてきたのに。」
「そうだな。冷え込んできたな。寒くないか?」
「暖炉がついているから大丈夫。これから執務?」
「いや。」
「その格好で寝るの?」
ティルルの服はラフな洋服そのものだ。
「いつもこの格好だ。何が起こるかわからないからな。習慣だ。」
「私も着替えようか?」
サヤは特別に作ってもらっているパジャマだ。とてもじゃないがネグリジェタイプを着て寝た日には、次の日の朝はあられもない格好で寝ていることになるので、持っていたスエットの参考に作ってもらったものだ。
ズボン式だが、裾は広がっており一見スカートに見える。足首に近いところに紐が通してあって引き縮めると上がってこない。
「サヤはいい。」
「中庭であった時もその服だったっけ。」
「『光あれ』の時か。」
「そう。なんかずっと昔のことみたい。」
クシッ
くしゃみだ。
「窓に張り付いているからだ。暖炉の火に当たれ。」
そう言うとティルルは自分のガウンをサヤにかける。
「だ、大丈夫。ティルルこそ湯冷めをするから着てて。」
逃げるように暖炉に向かう。
「そうか。ナイトキャップになにか飲むか?」
ティルルはバーカウンターに歩いていく。
「ううん。ありがとう。」
サヤは暖炉の前の椅子に座る。
ティルルがグラスを持ってサヤの脇の椅子に座った。
二人共無言で火を見ている。
落ち着く。
落ち着かない。
風はますます強くなり、木々のあいだを抜ける時に風鳴りを起こしていく。
「サヤ、もう寝ろ。シロが帰ってきたら、俺が窓を開けるから心配するな。」
「うん。でも・・・わかった。お休みなさい。」
「お休み。」
振り返らないティルルの耳に遠ざかっていくサヤの足音。
時々爆ぜる暖炉の音。
風の音。
一杯目を開け、次の一杯を継ごうとして立ち上がって後ろを向く。
「サヤ?どうした?」
「シロまだ?」
「まだだ。」
「そう。」
やけに小さい声で返すと寝床に帰っていく。
「どうした?」
「昔からこの風の音が苦手なの。特に寝るときに聞くのが。シロがいれば安心して眠れるのだけど。我慢して寝る。子供みたいでしょ?ごめんね。」
「一緒に寝るか?」
「は?」
「い、いや、ついているだけだ。」
「・・・ありがとう。そうだね、ティルルが側にいてくれるんだった。」
月に照らされた横顔が微笑む。
(理性など!)
手を伸ばして抱き寄せようとした時
(この、お前測ってやっているだろう!)
窓の外にシロがいた。
目がライトのように光る。
「お帰り。寒かったでしょう。」
スタスタと暖炉の前に来ると、ティルルの脇に座ってグルーミングを始める。
「冷たい。」
沙耶も戻ってきて、毛を撫で始める。
グルグルグルグル
「この音は好き。」
(おれは嫌いになりそうだ。)
いけ~行ってしまえ~




