個人の評価
お読みいただきありがとうございます。
【ユリルの評価】
純血種よりも動物混じりの方が労働力として質が高いので、仕事が彼らに取られがちになる。
役人や官吏が純血種にとって適職なのだが、縁故採用が多いのでなかなか就職できない。
グズグズと大学にいたら、戦神子様の教育係兼補佐を募集しているという話が来た。
政変のあと帝位につかれた今の皇帝は、有能な人材を登用していると聞く。
現に内務省に採用された動物混じりもいる。
純血種の中では自分の職場を取られることになりかねないので、批判的なものも多いと聞くが、皇帝は
『騒ぐ者は自分に能力がないと認めているだけだ。』
とおっしゃられたそうだ。
本来なら戦神子様の教育係ともなれば、有力貴族が戦神子を影響下におきたいがために、人を送って来るだろうから、ユリルの出番はない。
だが、今回募集ということは、皇帝は戦神子を政争から隔離するおつもりなのだろう。
ならば、一切後ろ盾のない自分が教育係になれる可能性は大きいはずだ。
そして、その予想通りになった。
艶やかな黒髪に黒曜石のような瞳。
均整のとれたプロポーション。
召喚された戦神子様はユリルより若かったが、物腰に落ち着きがあった。
神子様というよりは戦女神という方があっていると思った。
ところが、話してみるとイメージと違うのだ。
表情がコロコロと変わる。
黙っていると気品がありすぎて怖いくらいなのだが、御子様自身はご自分の容姿のことは、あまりきにしていないようだ。
失礼ながらそう言うと、
『この世界にくるまでは、平凡なOLだったので、急に扱いが変わっても順応できないです。それに自分の顔は普段自分で見られないですから、まだ実感湧いていないだけです。鏡を見るときは綺麗になってうれしいって、思っていますよ?』
と返された。
好奇心は旺盛な方でわからないことはすぐに聞いてこられるし、ご理解が早いので楽しい。
文字も覚えたいということなので、互いに文字を教え合い勉強することにした。
まだなさりたいことがたくさんあるようだが、体調が不安定な時はお辛そうだった。
侍女たちも最初のうちは身構えていたようだが、神子様の化粧道具や“ネット”とやらの“シロウトメイク”の“ドウガ”を見て打ち解けたようだ。
神子様のいらした世界は身分の差や人種差別の少ない世界だったらしく、動物混じりへの偏見も少なく、自然体なのが好感が持てる。
【侍女たちの評価】
〈レシュの場合〉
『あの、猫をみませんでしたか?真っ白なちょっと長毛がはいってる雑種猫なんですけど。』
大層綺麗な方だとおもったが、その言葉にレシュはカチンとくる。
“雑種”
純血種の人が自分たちを侮蔑する時に言う言葉だ。
そのあとも、神子様のお肌着を洗おうとしたらすごい剣幕でひったくられた。
何!私らなんぞにあらわれたくないってかっ!
こっちも意地になって引っ張っちゃったよ。
誤解だったね。
御子様はご自分の飼い猫のことを言っていたのよね。
肌着は向こうの品物なので大事にしたかっただけだったのよね。
御子様は優しくて分け隔てがない。
侍女や動物混じりを影で嘲る輩がいっぱいいる宮廷では、清涼剤だわ。
最初の出会いが最悪だったけど、今ではこの方の侍女になって良かったとほかの二人と話している。
〈クレイの場合〉
私は綺麗なものが好き。
綺麗な人も好き。
戦神子様のお姿を見たとき、胸が打ち抜かれたと思った。
なんて綺麗な人なんだろう。
月の住人?
静かな冬の湖の精?
侍女長に直談判してお側仕えに立候補した。
毎日見ていられるなんて幸せだったのに、笑いかけて下さり、名前を呼んでくださるなんて・・・・
しかもこの間神子様の化粧品を恐れ多くも使わしていただいた。
なんとメイクなるものもしていただいた。
柔らかい手で肌を触られ、顎を持ち上げられて・・・唇を・・・・
塗られて。
気絶しそうになりました。
神子様万歳。
〈セリーンの場合〉
御子様は優しくて好きだけど・・・
シロ様が苦手。
レシュもクレイもシロ様を平気で撫でるけど、もうあのサイズは猫とは呼べない。
御子様は寝ているシロ様をクッション代わりになさるほどだ。
大型犬並のサイズになっているのにまだ育っているなんて・・・
最近では城外まで行って獲物をとっているみたいなので、城下の人たちに、見かけても攻撃しないようにと触書が出たようだ。
どうか私が食物リストに乗りませんように・・・・
【侍女長の評価】
仕事終わりには必ず自分の持ち場を巡ることにしている。
昼間、仕事に追われて気づかず見過ごしていたことに気がつくからである。
今日もひとり明かりをもってめぐる。
この城の七不思議に数えられたこともあるし、
新米の侍女の肝試しに利用されたこともある。
今日は満月なので月明かりで廊下も明るい。
神子様の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、部屋の中から物音がした。
まだ起きておられるような早い時間ではあるので、音がするのはことさら不審ではないのだが、人一人が立てる音としては大きすぎた。
「・・・」
「・・・痛いよ~」
中から声と物が倒れるような音がする。
御子様に何か!
「神子様!」
ドアを開けるとそこには
猫のシロと床でボロボロになって取っ組み合いをしている御子様がいた。
「セエルさん?どうしたのですか?」
「神子様こそ何をしておられるのです?」
「私ですか?シロと遊んでいました。」
前足に抱えられている様子は今にも食べられそうな人間の図だ。
「大きくなっちゃって、遊ぶのも体当たりなのですが、いいストレス発散になるんです。」
「すとれすとやらが何かわかりませんが、淑女が股を開いて床に座るなど、考えられません!それに、何ですかそのカッコは!」
「寝巻きです。」
「いいえ!それはスカート下とブラウスです。下着姿ではしたないとは思われませんか!」
御子様は正座をして小さくなっている。
シロ様の方は我関せず。
「このカッコがくつろいで寝られるので。」
「侍女たちは何も言いませんでしたか?」
「わがままを通してさせてもらってます。あの~彼女たちは悪くありません。叱らないでください。」
「神子様はこの帝国の戦神子として、ほかの国に行かれることもあるのです。このようなことでは困ります。わかりました。明日よりユリル様に時間を頂いて、行儀作法の勉強に当てましょう。」