一夜明けて
お読みいただきありがとうございます。
朝になってもお嬢様ベッドだった。
シロはいなかった。
朝日が窓から差し込んでいる。
晴れているようだ。
のろのろと起きるとパウダールームに行って顔を洗う。
目の下にクマができて、美人度が2割がた落ちている。
(せっかく、美人になったってのに)
「お目覚めでしたら、お声をかけてください。」
昨日の侍女(一号ではない)が入ってくる。
「目がはれぼったくなっておられますね。あとで蒸しタオルをお持ちします。」
「ありがとうございます。」
「わたくし共にお礼は無用です。お世話するように付けられておりますので。」
(セエルさんと同じことをやっぱり言うのね。)
「ではお願いします。」
「お着替えをお持ちいたします。」
「昨日の洋服で構いません。ちょっとしか着てなかったし汚れていませんから。」
「とんでもない!」
(もし中世の貴族がこんな暮らしをしていたのなら、大変だったろうな。)
朝から他人が側にいて、つきっきりで世話を焼かれる。
トイレしか一人になれない。
出るものも出なくなるって・・・・
それに自分でチャチャッとできることを、人にしてもらうのは居心地が悪い。
カーテンを開けて外を見ようとすると、止められる。
頼むより自分で開ける方が早くない?
景色はよかった。
まさにドイツの世界遺産の城のような美しさだ。
やっぱり異世界なのね。
はあ~とため息をつく。
パソコンを充電して、スマホを開く。
やっぱりつながっている。
ネット小説のページを開くときちんと更新されている。
(続きが読める!)
それだけで、気分があがる。
安上がりな私。
トン
ベランダの方で音がしたので、見るとシロが帰ってきた。
(馴染んでるよ~。・・・どうやったらそこから出入り出来る訳?)
「シロ、なんか大きくなってない?」
「ナオ~ン。」
頭をゴンゴン擦り付けてくる。
なでなで、カリカリ。
「大きくなっていますよね?」
控えている侍女三号さんに同意を求める。
「私にはわかりませんが」
「大きくなっているような気がするけどなぁ」
抱き上げる。
重い。
シロも異世界に来たせいで変化しているのだろうか?
「あの、猫を看てくれるお医者さんっていますか」
「獣医でございますね。はい居ります。お呼びいたしますか?」
「お願いします。」
「はい、かしこまりました。」
獣医さんが来る前にリカードさん(妄想ではなかったので、さん付で呼ぶことにしました)がやって来た。
顔を見て思い出した。
夢だと思ってかな~りとんでもない口を叩いたような。
「昨日はいろいろ失礼なことを行って申し訳ありませんでした。」
最敬礼で謝る。
脇の下が嫌な汗で湿る。
「いえ、お気になさることではございません。取り乱したり、泣き喚く方が普通で、神子様は随分と腹立ちも理性的でございました。」
改めて分析しないで欲しい。
「ご加減はいかがですかな。」
目が腫れぼったいのがバレたのか。
あくまでリカードさんは穏やかに
「まだ、この世界に馴染んでいる最中ですのでご無理をなさらず、ゆるりとこの世界のことを学んで行って頂ければよろしいかと。」
確かにすぐ眠くなる。そう言うとそういうものだそうですとリカードさんは答える。
「御子様の相談役とお世話をする専任の侍女を引き合わせましょう。」
向こうの実年齢と同じくらいの年のグリーンの目が綺麗な女性が紹介される。
「ユリル=ディーナ=アイリスと申します。お力になれることを喜ばしく思います。ユリルとお呼びくださいませ。」
唇の下のほくろが色気があって、コケテッシュな美人だ。
「わからないことはアイリスにお聞きください。才媛と評判の女性です。」
「ライオリアス様、持ち上げられては後で恥をかきます。」
少し赤くなって言い返す姿は何とも言えない。
(波長はあうのかな)
異世界まで来て人にあわせて生きるのは嫌だなあ、と思う。
せめて、媚びないで意志を通してみたい。
「何もわからないので、あかちゃんに教えるように一からお願いします。」
ちゃんと言っておかないと呆れられても困るものね。
「お世話をさせていただく三人の侍女です。」
セエルさんが並んでいる侍女さんたちを端から紹介していく。
「レシュに、クレイ、セリーンです。」
「「「よろしくお願いたします。」」」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「神子様。」
リカードが渋面を作る。
「神子様のご身分は、私を含めて上の方です。呼び捨てなさってください。」
「この世界のことを何も知りません。今は皆さんに教えてもらう立場です。いわばみなさんは私の先生です。生徒の私は敬語をはなさなければなりません。それができないのなら、丁寧な言葉をもって感謝とさせてもらうつもりです。」
「軽く見られます。」
「こういった場所では改めます。今はそうさせてください。」
リカードさんは諦めたようだ。
「公の場では改めていただきます。」
「はい。」
リカードさん、召喚した張本人じゃなかったのね。
やっと置かれている立場がわかってきましたね