聖都
今までのように2話投稿というわけには行かなくなるかと思いますが、よろしくお願いします。
青い空を三叉の戈で切り取るかのように、起立した尖塔が3つ。
よく見ると表面に細緻な彫刻が掘られている。
ここは5大国の中でも、一番大きい国土を持つ、エステリオ王国中にはあるが治外法権である。地理的にも意味合い的にも中心に位置するマエール世界国教会の総本山である。
深い藍の長衣に身を包んだ男が静まり返る廊下を歩き、重厚な扉の前に立つとノックをする。
彼の名はガステル=ディーノ=ロ=コステリオ。
マエール世界国教のラールヴェル支部の大司教だ。
「お入りなさい。」
扉を開けると彼の目の前には、大きい厚みのある机向かってゆったりと座っている、顎に白いヒゲを蓄えた朱の長衣に身を包んだ初老の男がいた。
次の教皇候補と目されるマカナン=ディーノ=エ=マクリール枢機卿だ。
コステリオは、胸の前で腕をクロスさせてお辞儀をする。
「猊下にはご機嫌麗しく」
さらに続けようとするところを、そばに立っていた男が遮る。
コステリオと同じ藍の長衣を着ている。
「同士コステリオ殿。本題をどうぞ。」
コステリオは内心の舌打ちを隠す。
「はい。ラールヴェル帝国が戦神子と契約いたしました。」
「やっとか。あの若造め、待たせよる。」
「それで、戦神子の能力ははっきりしましたか?」
コステリオ大司教は問われて言いよどむ。
「それは・・・未だ確実ではありませんが私が思いまするにテイマーという可能性が大きいとおもわれます。」
「異世界から一緒に来た猫がキマイラを捕食し、能力を取り込んでいるとの話は聞いております。ただ、戦神子と離れて単独に行動しているのは、どうしたことでしょうか?」
側に立っている男の追求は続く。
「ユール。そう畳み込むな。戦神子の能力はどの国も明らかにしたがらないものよ。新しいテイマーの姿という線もある。」
「お言葉ありがとうございます。不肖コステリオ帝国でさらなる情報を得てご報告いたします。」
コステリオ大司教は再びお辞儀をする。
「頼んだぞ。」
そう言うとマクリール枢機卿は軽く手を振る。
立ち去れという合図だ。
「はい。では失礼致します。」
「ユール。」
コステリオが立ち去ると、マクリール枢機卿はユール=ディーノ=ロ=レイエン司教に声をかける。
「地図を。」
レイエン司祭は壁に地図を垂らす。
「これで五大国全てに戦神子が揃ったな。」
「やや、力の偏りがありますが大きな問題はないかと。」
「マッシュールから新しい戦神子を召喚する必要が来るかもしれないと言ってきておるな。」
コツコツと人差し指で机を叩く。
「はい。あそこの戦神子は『戦士』の能力ですが、そろそろ年齢的には下降してきてもおかしくないお年です。」
「よう知っておる。マッシュールの大司教をしたことがあるからの。あの男は見かけとは少々違うのだが、ウガリッドは見抜けんじゃろうな。」
「マッシュールが代替わりとなりますと、メドーとエステリオの力が強くなりすぎますか?」
「そうだのう。問題はメドーの戦神子じゃな。」
「野心家という噂がございます。」
「みはてぬ夢を見ているようじゃな。・・・ラールヴェルの戦神子の能力が今までのテイマーと格が違っているならそれもよしじゃ。テイマーでないならば、そろそろ目覚めてもらわねばなるまい。世界の安定のために。」
「どうなされますか?」
「エリドゥとマッッシュールの戦神子と合わせてやれ。神子の能力は神子が知っておるじゃろう。」
「エリドゥ帝国の戦神子はまだ子供ですが?」
「両方に益になるだろう。まさかエステリオのシンに会わすわけにはいかぬからな。」
「かしこましました。そのように取り計らいます。」
戦神子の召喚と契約の儀式を握っているマエール世界国教会の意向は、五大国の元首たちでさえ無視できるものではなかった。
「国教会は何を企んでいる。」
コステリオ大司教の代理人が持ってきた書面に目を通すなり、皇帝ティルルは眉を寄せる。
契約して、半年。
沙耶は領土内を文字通り駆けずり回っている。
国境以外の街への巡視だ。
ティルル個人としては行かなくてもと思うが、皇帝としては帝国内のモチベーションを上げるためには必要なことである。
本人も後宮で缶詰になっているよりいいらしい。
パソコンはもちろん置いて行かせている。
「何と書いてきているので有りますか?」
リガードに書状を渡す。
「マッシュール王国とエリドゥ帝国の戦神子をサヤに会わせる機会を作ったから連れて来いと言う話だ。」
「国境ではなく、マエールまで呼びつけるとは。」
「国教会では断れん。しかしサヤは無力の戦神子だ。マッシュールの“戦闘バカのスサノオ”やエリドゥの“無垢の残虐者”の中に放り出すわけにもいかん。国教会はサヤの能力をテイマーだと思っていないのか?」
「会わせることで能力の発現を促そうというのですか?」
「他国の戦神子のようであれとは言わないが、自分の身を守るだけの能力は発現してもらいたいところだが。」
他国の戦神子との顔合わせの連絡が、久しぶりに会ったティルル本人から聞いた。
「行く。行きます。」
図書室でティルルに借りた本を読んでから、ずっと会ってみたかったのだ。
同じ世界から来た人間として。
「いつですか?」
前のめりの沙耶にティルルは苦笑する。
「さすがに相手国の都合もあるからな。」
「マエール国教会ってこの五大国の真ん中にあるのですよね。向こうのバチカンみたいな扱いですよね。」
「観光に行くわけではない。」
浮かれ気味のサヤに不機嫌気味な様子。ただでさえあちこちで歩いて、後宮に(自分の側に・・・です)いないのだ。
沙耶はティルルがそんなことを思っていると理解していないが。
「わかってますって。魔法を使えるのは確かなんですから、うまく使うコツがあれば是非聞きたいとちゃんと思ってます。」
キマイラであれ殺すのは避けたい。
だが、いつまでも無能の戦神子として皆に守られて、自分の犠牲にするわけにはいかない、と思い始めている。
希望は初志のまま、回復師だ。
「そうしてもらいたいものだ。それと今日マエール国教会の大司教が挨拶に来る。この間のように転ぶなよ。」
「ティルル!しつこい。」
帝国の政務官たちに正式に引き合わされたときに、ドレスの裾を踏んづけて転びそうになった事を言っているのだ。
巡視に出ているときは、騎士服なのでドレスには一向に慣れない。
部屋に戻ると、ユリルが(ユリルも『さん』はとってくれというので)出迎えてくれる。
講義の合間に呼び出されたのだ。
文字は読めるようにはなったが、筆記の方は呪紋が効かない。
巡視の最中は講義を満足に受けられないのでまだまだだ。
一緒に受けているシオの上達が早いのが地味に悔しい。
「お早かったですね。お茶をご一緒なされたのではなかったのですか?」
「マエール国教会の大司教がこちらにいらっしゃるそうなので挨拶に出ろと言われたんです。」
「ラールヴェル帝国の支部の最高責任者でいらっしゃいます。そのお方が直々にこちらに出向かれるということは、よほどのことです。」
「へえ~。そうなんですか。日本人にはピンと来ません。マエール教?ってそんなに力があるんですか?」
ユリルがため息をつく。
「そこから、ご説明しなくてはいけないんですか。巡視の間何をお勉強しているんですか?」
「主に地方の特産とか、地方の名物料理とか、地方の建築物とか、挨拶とか、挨拶とか。」
きちんと仕事はしています。笑顔でにっこりが一番の仕事なんです。
それでも、飲み水の濾過の方法を教えたり、輪作障害にならない作物の作付サイクルを教えたり(すいません。ググっての受け売りです。100%)仕事はしています。
ティルルも褒めてくれましたよ。
「そうですね。常識で、改めて説明するに及ばないことがお解りにならないんでしたね。」
あ、やべ、ユリルのスイッチがセエルさんに次いで入ってしまった。
ユリル先生の前に大小の影二つ。沙耶とシオだ。
「マエール国教会のある場所はご存知ですね。」
「中央です。」
「エステリオ王国の北西で五大国全てに接している場所にあります。」
はい、シオの勝ち。
「よろしい。」
「マエール国教会の役目は知っていますか?」
「「戦神子の召喚の儀式と契約の儀式を執り行うことです。」」
「その通りです。戦神子を召喚できないと、奈落との境が曖昧になり、国土にキマイラの侵入を増やすことになります。また、戦神子と契約の儀式を行わないと、生殖・・・コホン…子供を作ることが難しくなります。ひいては、国力の低下につながります。その為、国教会の役割は大きいものとなります。ここまでいいですか?」
「はい。」
「ユリル先生。」
「どうぞ、サヤ様。」
ふふん、とシオを見て
「ラールヴェル帝国は私の前の戦神子と5年も空白の期間があったと聞いているのですが、これは国教会が召喚しなかったということですか?」
「サヤ様にとっては辛い話になりますがよろしいですか?」
「・・・構いません。知らない方がいいとも思えません。」
「戦神子を召喚する際に、前の戦神子のご遺体が必要です。戦神子は異世界人です。同じ異世界人を呼ぶために同質のものを用意するという時に一番手近なものだからです。」
ユリルがこちらを見るが先を促す。
「戦神子がキマイラとの戦闘で身罷られ、遺体を奈落に飲まれた場合もございます。そうした場合ご遺体はございません。その場合はどうするのか。シオ、あなたは知っていますね。」
シオはチロリと沙耶を見て
「国教会から遺物を出していただきます。」
「その通りです。国教会も世界の安定を図るのが教義ですから、遺物は出します。しかし多額の対価が必要なのです。帝国は、言葉は乱暴ですが弑逆をしなければ、立ち行かなくなるところまで追い込まれていました。そして神子のご遺体はなかったのです。5年の間に私腹を肥やしていた貴族を粛清して、溜め込んでいた財を当てることでやっと遺物を用意することができたのです。」
ユリルがそれだけ戦神子の存在は貴重なのだと言っているようだ。
沙耶には『戦神子』という5人ほどしかいない人間に、この世界が右往左往することのほうが異常に思えた。
沙耶の世界では、人はたやすく代替えが効く存在だ。
沙耶一人いなくなっても、何も変わらない。
だが、この世界では違うのだ。
明らかに、沙耶の命は他の命より価値のあるものとしての役割が付与されている。
ソンナニ セオエナイ オモイ
「戦神子のご遺体が失われるということは、ままございます。その度に国教会は財政的に大きくなってゆき、いまでは国政に口を出せるほどになっています。」
「つまり、国教会の機嫌を損ねてはダメということですね。」
「そういうことになります。で、大司教様はいつこちらへ?」
「今日って言っていた。」
「それを早く言ってください!セエル侍女長!大変です!」
ユリルさんが飛び上がると慌てて、セエルさんを呼びに行った。
(まさか、マエール国教には違った礼儀作法が、あるって言わないで~)
それはなかった。
だが、大司教を出迎えるにはあまりな格好(いいと思うけどな)ということで昼間っからお風呂で磨き上げられます。
「大司教とて、殿方です。美しい女性をみれば好ましいと思われます。是非肩入れしていただかねば。」
(なるほど、そういう考え方もあるね。元手はかからんし、頑張りますか。)




