表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

(4)

 俺達は町のはずれでヒッチハイクをし、トラックの荷台に乗せてもらった。空はどこまでも青く、日差しはいよいよ強くなってきた。

 セシルは腕を抱え、少し不安そうに荷台に詰まれた荷物を眺めている。

「なあ、その傷は腕輪の痕か?」

 セシルはこちらを振り向き、弱弱しく笑みを浮かべた。

「そうです。今、僕は十七歳ですから、七年間つけていたことになりますね」 

 それは、人間に飼育されているモンスターの証しだ。ハンターに区別してもらうと同時に、ペットにとっては、自分は主人の持ち物として生きるという無言の圧力でもある。

 もちろん、その止め具は身体の奥に深く食い込んでいる為、飼い主にしか取り外すことは出来ない。

 ガタガタと揺れる荷台から見える景色は広々とした草原で、たまに人家が見えるくらいだ。

 レイはさっきからずっと目を瞑ったままだ。風を受けた長い髪が時おりさらさらと音を立てる。どうやら眠っているらしい。

 セシルは彼の顔をじっと見ていたが、やがて小さな声で「綺麗な方ですね」と呟いた。

「まあ、な」

 頼むからもうそれ以上は何も聞かないでくれよ。

「お二人はどういう関係なんですか?」

 やっぱりな。

「友人だ。もう長いこと一緒に住んでるから家族みたいなもんだな。でも俺達はストレートなんで肉体関係はない」

「そうなんですか」

 意外そうな顔をするセシル。まったく皆同じ反応をしやがる。

 俺はバックパックからリンゴとサバイバルナイフを取り出して、半分に切った。

「ほら、食えよ」

「ありがとうございます」

 セシルは嬉しそうにリンゴを受け取ると齧り始めた。

 確かに彼は世間知らずだ。あの村へ連れて行かなければ路頭に迷い、ハンターに狩られるか売春で暮らしていくしかないだろう。


 数時間後、森の入り口に差し掛かったところで車から降りた。木々の間を風が通り抜け、鳥の鳴き声が聞こえる。

 レイを先頭にしてセシルを挟む形で森を抜ける道を歩きながら時計を見るとそろそろ十二時だった。

「あの……何処へ向かっているんですか?」

 小声でセシルが問いかけてくる。さすがに不安になってきたのだろう。そういえば彼には何も言ってなかった。

「あのな」

 俺が教えようと思った時だ。レイが突然振り返って、俺に鋭い視線を送ってきたので、思わず口を噤んだ。

「悪いね、セシル。まだ教えるわけには行かないんだ」

 レイの表情は硬い。それに先ほどから感じる違和感。

「おい、レイ。地図を見せてくれねえか?」

 レイは黙って地図を渡してきた。これは……? 明らかにこの森は別の森だ。それに進んでいる方向も違う。

「おい、これ……」

「判ってる。今は何も聞くな」

 レイは突然立ち止まった。

「デビィ、感じないか?」

 はっとした。いつの間にかハンターの匂いがしている。夕べと同じ匂いだ。

「あ、あの、どうしたんですか?」

 不安げな顔でセシルが聞いてくる。

 道の周囲には鬱蒼と木が生い茂っている。俺達はバックパックを下ろし、神経を研ぎ澄ませた。

「気をつけろ、デビィ! もう近くまで来ている」


その時だ。木々の間からレイに向かって何十本もの鋭い紐のようなものが襲い掛かった。レイは反射的に身をよけたが今度は別の方向から矢のように飛んできた紐が何本もレイの身体に突き刺さり、そのまま背後にあった木に突き刺さった。

 レイは苦痛に顔を歪める。それは蔦だった。この攻撃には覚えがある。以前は薔薇の枝だった。

「くそ!」

 俺はレイの身体から蔦を引き抜こうとしたがびくともしない。それどころか、その蔦はずるずると彼の身体にめり込んでいき、今度は彼の胸を突き破って先端が飛び出し、再び彼の身体に食い込む。まるで蔦で身体を縫われているようだった。

 苦痛に耐え切れなくなったレイの悲鳴が響き渡る。滴り落ちる血が地面を真っ赤に染めていく。

「どうだ? 木に縫い付けられる気分は?」

 振り向くとそこには見覚えのある迷彩服姿のハンターが立っていた。濃いブラウンの縮れ髪に黒い狡猾な目。植物遣いのガルシア。植物を自在に操り、狩りをする最悪のハンターだ。

「これはこれは。よく見ればレイ・ブラッドウッドじゃねえか。お仲間も一緒か。久しぶりだな。あの時はよくも恥をかかせてくれたな!」

「貴様!」

 俺はハンターに飛びかかろうとしたが、その瞬間、鋼のように硬い蔦に後ろから身体を貫かれた。激痛が全身を駆け抜け、その場に膝をつき、座り込んでしまった。

「おやおや、あんた達には学習能力ってものがねえんだな。あの時の痛みは覚えているだろう?」

 レイはガルシアを青く光り始めた目で睨みつけている。

「お前だったのか。確かに覚えのある匂いだったが」

「まだ口が利けるのか。たいしたもんだな。だが、それは毒蔦だ。前の薔薇みたいに引き千切ることは出来ないぜ?」

 この男の言うことは本当らしい。何だか全身が痺れて動かなくなってきた。しかしおかしい。毒蔦の毒はそんなに強くないはずだ。それにモンスターには効かないはず。

 だがレイも同じ状態のようだ。何かを言おうとしているが口が開かない。

「けっ、ハンターキラーだか何だか知らねえが、こうなっちまったらみじめなもんだな。おい、あんたにも死んでもらうぜ。まあ、あんたの場合には殺しても金にはなんねえけどな!」

 くそ、こんな男に殺されたくはない。どうにかならないだろうか。そういえばセシルは何処へ行ったんだ? まさかあいつがハンターの手引きを?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ