第6章06 ふぅん、そうなら〜♪
『シェン!おい!シェン!!』
抱きかかえながら、呼びかける
魔族に宿られていたのだから心の負担は大きいはず
香苗はすぐに、魔術で身体機能を確認した
「・・・体は大丈夫だね・・・あとは・・・」
心の問題・・・原因は・・・
ちらっと見る
シエラね・・・
はぁ・・・と溜息をつく
未だに涙ぐみながらシェン!と呼び続けているシエラが
何か可哀そう・・・
あとは・・・この子がどのぐらいの心の強さを持っているか
それによっては、意識が戻らずに・・・って事もありえる
どうしたものか・・・と、悩んでいると
『香苗!シェンをどうにかしてやれないか!おまえの魔術なら』
香苗は首を横に振る
「・・・だめよ・・・魔術でも万能ではないの・・・もちろん、法術も
人の心を揺さぶる事は出来ても・・・回復や復活なんて・・・
出来ない・・・私達が出来る事は、彼女の心に呼びかけるしかない」
それは、医者が手遅れですと言っているようなものだった
施しようがない・・・どうあがいても・・・あとは、本人しだい
『シェン・・・私が悪かった・・・おまえを残して・・・帰った
すまなかった・・・許してくれなんて言わない!だが・・・
おまえだけは・・・おまえだけは失いたくないんだっ!』
シェンを抱きかかえ、涙を浮かばしながら叫んだ
その涙が、シェンの頬に滴り落ちる
「・・・うっ・・・」
う・・・うそっ!
そんな速く回復するなんて・・・古文書に記してあるものだって
最低でも1年・・・いや、下手すると・・・意識が戻らない事だって
あるのに・・・
目を見開いて驚く香苗
『シェン!私だ!シエラだ!!わかるかっ!』
「・・・シエラ・・・サマ・・・」
『シェン!シェェン!』
なき崩れて、そして彼女を強く抱きしめる
「シエラ・・・様、何で・・泣いて・・いる、のですか・・・」
弱弱しい声で言うシェン
『な・・・なんでもない・・・なんでもないんだっ・・・
ただ・・・言わせてくれ・・・私が悪かった・・・私が・・・私が』
「・・・大丈夫ですよ・・・シエラ様・・・少し・・・休ませてください」
せっかく見開いた瞳が閉じて行く
『あぁ・・・ユックリ休め・・・でも、ちゃんと起きるんだぞ』
「・・・はい・・・」
そして、彼女は闇の中へと落ちて行った
その後、香苗の体を使ってシエラはシェンを付っきりで看病した
香苗曰く、「私の体なんだから休ませてよね!」
と言ってはいるのだが・・・「すまん、これだけは譲れない」
そう言い返してくるから・・・どうしようもない・・・
セリスもやっと起きてきて、聖法で身も心も休まる法術をかけてくれた
「・・・んっ・・・あれ・・・ここは・・・」
シェンが気づき目を開ける
体が動かないのか、首だけを横にずらすと
ベッドの端で寝息を立てながら寝ている香苗がいた
「・・・誰だろう・・・この人」
そして、また上に向き呟く
「某は・・・死んだのかな?」
『・・・バカッ・・・おまえが死ぬはずないだろう』
その声に驚いた、ずっと・・・ずっと聞きたかった声
「・・・せ・・・シエラ様・・・なのですか?では・・・やはり
ここは・・・」
『安心しろ・・・現世だ、おまえは、悪い夢を見ていただけだ』
「・・・はい・・そんな気がします・・・セレネ様を襲う・・・
夢を・・・」
そう言いながら、起き上がろうとする彼女を制止させ
もう一度寝かせる
実際、心を操られていたのだから・・・夢とさせれば夢なのだろう
心に隙が有ったから魅入られてしまっただけの事・・・
『いい、寝ていろ。今食事を持ってこさせる』
「・・・すみません・・・」
『あぁ、お前のためならなんでもするさ』
やっぱりシエラ様だと・・・その時彼女はおもった
「ありがとうございます・・・」
この世界には御粥と言うものはない
穀物を煮込んだものを味付けしたものだ
病みあがりの体にはこれがいいだろうとマリーが言っていた
「・・・おいしい・・・」
ウッっと泣いてしまう彼女
まだ、心のどこかに傷を負っているのだろう
それが癒えさせることは・・・人間にも魔族でも出来ないこと
もちろん、神でも・・・
時間がそれを癒してくれるだろう・・・そう願うだけだった
『感情と言うものがある・・・それは、生きているもの全てにある
ものだ・・・だから、悲しんだり笑ったり喜んだり楽しかったり
それは自然の成り行きなんだ・・・だから・・・思う存分泣け』
「うっ・・・うぅぅ・・・・」
押し殺した彼女なりの泣き方なのだろう
それを慰めるように、シエラは彼女の頭を優しくなでるのだった
その後、シェンの回復は驚愕するほど順調だった
そして・・・
『シェン・・・ちょっといいか』
急にシェンを呼び出すシエラ
「はい・・・シエラ様」
そして、庭に出ると脚を止め
『香苗・・・ちょっと分離してくれ・・・』
香苗は察しが着いた・・・彼女なりの落し前ってものを
つけるのだろうと
「『我に宿りし、聖なる魂よ、現世に戻り、舞い上がれ、そして!具現せよ!』」
そして、シエラと香苗が分離すると
それを見ていたシェンも驚いていた
『おまえに話さないといけないことがある・・・』
シェンが来た時の事を全て話した
驚きも隠せないのか、なにやら心当たりがあるのかそんな顔だった
「・・・某は・・・とんでもない事を・・・」
『いや・・・私が悪いのだ・・・私の所為で、おまえに心の隙を
与えてしまった・・・このとおりだ・・・すまなかった』
頭を下げ謝る
「いえっ!シエラ様!そんな・・・頭を上げてください!」
『いや・・・私なりの・・・けじめがつかない・・・』
そして、その頭を上げ真剣な眼差しで言い放った
『シェン!・・・私を殴れ!』
「えっ!」
『・・・頼む・・・殴ってくれ・・・それで、気がすむなら安い事だ』
「で・・・ですがっ!」
その答えを遮るように香苗が言った
「殴ってやりな・・・彼女なりの落し前なんだよ・・・あんたを
そこまで追いやった自分が許せないの・・・だから・・・さ
おもいっきり殴ってやりな!」
香苗の方に向き、そして、シエラの方を向いた
「・・・わかりました・・・失礼します・・・」
その瞬間、風が巻き起こったともったら
シエラが6メートルほど吹っ飛んだ
『グッ・・・ッ』
うあぁ・・・おもっきり殴ったね・・・いったそぉ・・・
そして、彼女が歩み寄ってくる
「・・・シエラ様・・・私も殴ってください・・・」
『それは出来ん・・・私が悪いのだ・・・』
「いえ・・・私は、貴女との忠誠をを破りました・・・
私なりの落し前をつけてください・・・」
シェンがシエラの手を取り立ち上がらせる
『・・・そうか・・・なら』
グッと目を瞑るシェン
しかし、おもっていた衝撃は来なかった・・・
その代わり、ポカリッと頭を叩くシエラがいた
「え?・・・」
調子抜けしたシェンが、腰を抜かし座り込む
『おまえにはこのぐらいの罰で十分だ・・・』
「せ・・・シエラ様・・・」
さぁて・・・これからどうするんだろ・・・
なんだか、王道な展開だし・・・
そんな風に横から眺めていた香苗だった
・・・家族・・・増えそうだな・・・