第3章05 この世界で、始めてブチキレタヨ
あれから、数日後
王位の意欲をなくした国王レスタ・ディスティーニは
引退(死んだからだけど)し、ティニアが王になった
もちろん、ティニアの兄も了承し、
国へ帰るとの連絡も受けた
私は、その3日後に近衛及び護衛騎士として騎士師団に入った
もちろん、光の民である事を隠して
『ハッ!ヤッァ!』
暇つぶしに私と、フェンリルで王城内の訓練場で手合わせをしていた
キィン
フェンリルは、投げナイフを交差させ私の剣を受け止める
私・・・シエラが得意とする抜刀術。居合いを極めている彼女にとっては
遊び半分、体力練成半分といったところだろう
この世界に来てから、身体的に脅威とも言えるほどの向上しているため
めったに屁たる事はない
本気でやったら、フェンリルでさえ赤子の手をひねるようなものだろう
「セィ!」
間合いを取った私に投げナイフが飛んでくる
何事もなかったように左へ体をひねりナイフを交わす
――ふぅ・・・
そろそろ、潮時かな
私は、間合いを開け瞳を閉じた
流れる空気、放たれる気、相手の鼓動・息継ぎすべてが耳に聞こえてくる
『・・・(さすが、主・・・隙がない・・・)』
全く隙がない彼女にどう攻撃しろと?と思うフェンリルに
(――どうしたの?フェンリル立ち止まらず、進みなさい)
シエラが追い討ちをかける
そのとき、相手が動いた。放たれるナイフが風を切りながら私に襲い掛かってくる
キィン
剣からの間合いに入ったナイフは地面に叩き落とされた
彼女は全く動いていないように見えた
しかし、フェンリルは見た
最小限の剣の道筋を選択し、そして近づくナイフを落としもとの体制に戻っただけの事・・・
フェンリルの体は、慣性の法則で動いてしまった体を制動する事が出来なかった
(『しまった!』)
(――いいんだよ、それで。それを、今後に生かせば)
そう言って、フェンリルの胴に剣の柄が突いた
カラン
持っていたナイフが手から離れる
「負けました・・・」
肩膝をついて負けを認めた
『いい腕よ、もっと精進すれば私もヤバいかもしれないわね・・・』
「お世辞はいいです・・・まだ未熟だと判りましたから」
『そう?もったいない・・・どうですか?団長さんも
この娘と、お手合わせしてみては?』
目を閉じ、後ろの方へ意識を向ける
「ほう、気づいていたか・・・私も、年を取ったかな・・・」
そこから出てくる男、この騎士師団の団長だ
名は・・・確か
「いえ、気配は完べきに消していましたが、微妙に魔力が出てましたから。
えーと、マチルダさん」
「マルチダだ!」
「あはは・・・」
「まぁいい・・・ちょっくらやてみるか」
訓練用の剣を取り出す
「あれ?真剣じゃないんですか?」
「女性に真剣なんて、しかも試合じゃないだろ?」
ムスっとするフェンリル
こんな表情をする彼女見たの始めてかも
(フェンリル・・?)
(『大丈夫です、殺しはしません』)
(ォィォィ)
試合をする体制にもって行く
「いつでもいいぞ」
ビュッと斜め下に剣を構える
「・・・・行きます」
シュッと投げナイフが飛ぶ
「クッ」
ナイフをよけるマルチダだが
「何!グハッ」
よけた先にはフェンリルが先回りをして構えていた
そして、蹴りだされた左足がマルチダの腹部を直撃する
3mほど飛び少量の吐血をする
「まだ始まって、10秒も経っていませんよ?」
「くそっ!まだだ!」
すぐに立ち上がり、間合いをつめ剣を繰り出す
フェンリルは、まるで子供と遊ぶようによけていく
しかし、表情はあのむすっとしたままだった
ふと、周りを見渡すと私の後ろの方では
王城の王員達の人だかりが出来ていた
(あちゃぁ・・・)
(――フェンリル、あまり目立つなよ。)
(『判りました・・・残念です、後少しで殺れたのに・・・』)
(何が残念なの〜っ!)
彼が切り上げた剣によって、フェンリルのナイフが中を舞い
その隙を突き、剣が彼女を襲った
「くっ」
(だ、大丈夫!?)
(『受けたように見せかけただけです・・・ダメージは在りません』)
(はぁ?)
わざとらしく、膝を突く
周りの野次馬は、恰もその結末になると思ったのだろう
人だかりは散っていった
「どういうつもりだ・・・」
彼女は立ち上がり、無表情で言う
「目立つな、と主からの御命令ですので、失礼します」
「おい、待て。名は?」
「フェンリル、主『セレネ』様に仕えるもの」
「フェンリルか・・・覚えておく」
髪を後ろへ払い私の方へ歩み寄ってくる
「おつかれ、フェンリル」
「いえ、疲れていません」
愛そう無く言う
「怒ってる?私が止めた事」
「いえ・・・怒っていません・・・と言ったら嘘になります・・・
正直、怒ってます・・・」
「あはは・・・ごめんね」
「いえ、止めてくださらなかったら、きっとあの男は1ヶ月安静状態だったでしょう」
(と・・・止めてよかった・・・)
少しほっとする
”パリーン”
ハッとする私、ティニアにプレゼントしたネックレスの宝石が・・・
割れた!?
(フェンリル!)
私が、瞬間移動魔術でティニアの場所に行こうとしたときには
フェンリルはいなかった
(『ティニアを発見、怪我をしています。至急来てください』)
そして、現場に着くとティニアの夥しい血痕が床を覆っていた
「ティニア!」
そこには、得体の知れない姿の生命体がいた
(な・・・なに?!)
――王様の成れの果てね・・・魔の蜜を呑んだのね・・・莫迦な事を
(魔の蜜?)
――魔の蜜、魔物から得られるといわれる一種の麻薬よ、それを大量に呑むと魔物へと変化してしまう。こうなったら、もうどうしようもないわ
(まさか・・あいつが・・ティニアに・・)
腕を切られ出血しているティニアに駆けつけ治療魔法を使い傷をふさいだ
私の奥底から、怒りがこみ上げて来る
そう、2人の怒りが
(シエラ、止めても無駄よ・・・こいつだけは・・・)
――えぇ、私も・・・あいつだけは・・・
【殺す!】
香苗とシエラがシンクロする
増大する魔力に封印が耐えられず
ガラスの割れたような音が、部屋の中に響いた
黒いガラスの様な物が髪から滑り落ち、そして光の粒子となって消えていく
七色に輝く髪は、無重力のように浮く
そして、黒い瞳は黄金に輝く
怒りの眼差しでモンスターに振り向く
「あんた・・・覚悟はいいね・・・と言っても、自我も無いか・・・」
剣を鞘から抜く
その剣は、普段と違い黄金の剣のように輝いていた
魔物は後ろへ後ろへと後づさる
恐れるように・・・目の前にいるセレネを
「元ディスニー国王レスタ・ディスティーニ・・・
あの世で、裁きを受けろ!」
香苗の魔力とシエラの剣術により増大した剣筋が魔物へと向かっていく
猛烈な風と光の道筋が空間を横切る
『ぐぎやぁぁぁぁぁぁあああああああ』
放たれた光の道しるべは、徐々に収縮していった
光が無くなったと同時に、髪や瞳が封印される
王レスタであったモンスターの姿はそこには無かった
残されたのは放たれた魔力による縦に切られた大きな穴
そして、私達
一瞬の出来事だった
本当に
【セレネ・・・さん】
心の中で聞こえる・・・いや、耳から聞こえた
「うぅん・・寝ちゃったのか・・・ティニア!」
ティニアが気づいていた事に気づいた香苗は彼の手を握った
「だいじょうぶ?痛いところない?」
「え・・・あ、はい・・・なんとも、父は!?父はどうなりました!」
目を落としながら、真実を話した
「そうでしたか・・・父が・・・」
「ごめんね・・・私、貴方の父親・・・救えなかった・・・
私の所為よ・・・私がでしゃばったまねをしたから・・・」
うつむきながら、呟いた
「いいんです、きっとこういう風になったのは判っていました」
「でも!私は、貴方の親を殺したのと同然なのよ!」
「いいんです、セレネさんが傍にいてくれれば・・・それで・・・」
涙を流しながら、ティニアを見る
なんで、どうして?私がでしゃばったから、私があんな事言わなかったら
王位を失脚させるような事を言わなかったら
どうして・・・どうしてよ・・・
「なんでよ・・・なんでそんな優しいのよ・・・私を憎んでいいのよ
恨んでいいのよ」
「恨めませんよ・・・セレネさん。貴女は正しい事をしただけです
僕を救ってくれました、それ以外必要在りません」
「どうしてよ・・・」
「僕、そんなセレネさん見たくありません。いつも、明るい笑ったセレネさんを見たいんです。だから、そんな顔しないでください・・・」
目から流れた雫を指で取った
「もう、私近衛騎士なんて・・できない・・」
「そんな事ありません、唯一僕の信じあえる近衛騎士であってください
いつまでも・・・ね、お願いですから」
「うぅ・・・てぃにあぁあぁあああああ〜」
私は、ティニアの懐で泣き叫んだ
こんな風に泣いたの、これで2回目・・・
私って、弱い人間なの・・・そう、強くない・・・強がってるだけの人間