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私の可愛い人

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/05/21


半年前。


夫の奏多(かなた)(24)がいきなり紙に書いて渡してきた。


「声が出ない?」


こくりと頷く。


すぐに病院に連れて行ったけど、夫の声はもう戻ることはないと告げられた。


自宅に帰って来ると夫は再度紙に文字を書いた。


"離婚するなら早い方がいい"


そんな夫を私は抱き締めた。


「ばかね、こんな時くらい素直に甘えてよ。

私はあなたの妻なんだから。」


夫はその時、泣いていたと思う。



そして一年後。


友人1「別れて新しい旦那見つけたら?」

友人2「まだ若いうちにさ、まだ子どももいないし。

美衣子(みいこ)(26)が苦労するの辛いよ。」

友人1「そうね、遺伝するかもしれない。」

 


一年前の奏多と同じこと言ってる。


"俺は子どもを作る気はない、遺伝したら可哀想だ。

だから君はもっといい男を探して欲しい。"

 


「うん、ありがと。でも、大丈夫。私は子どもいなくても奏多がいたらそれでいいの。」


友人1「そっかぁ・・・。じゃあさ、私にできることあったら言ってよ?協力するからさ。」

友人2「うんうん。まぁ、美衣子のことだから何があっても言わなそうだけどね。」


「ふふ、そうね。」


仕事はリモートで、会話は夫だけは文字入力でやっている。

声が出せない以外は真面目で仕事熱心な夫なので

首になったらと心配していたけど理解のある会社で本当に良かった。


仕事以外で出かける時はいつも一緒だ。

 

初対面の人と話す時はちょっと困る。

少し前、事情を話す前に言われた言葉。

喫茶店のお客たちにこんな風に言われたっけ。

 

「旦那さん、寡黙な方なのね。」

「珍しいわね。奥さん、三歩後ろを歩く人みたい。」


そう思わせてしまうのは私の内気な性格と、

夫の見た目も関係している気がする。


夫は背が高くて筋肉質、目は一重で吊り目、肌は白いけど短髪で立っていると少々威圧感がある。


確かに元々寡黙だった。

それに拍車がかかるように喉の病気で声が出ない。


夜になる。


間接照明で本を読む美衣子の隣で奏多が何度も姿勢を変えている。


「あら?奏多今日は眠れないの?」


こくりと頷く。


三歩後ろを歩いているのは夫の方だ。


二人用のベッドでくっついて横になる。

背中をトントンしてあげれば奏多は自然と眠りにつく。


可愛い人。

私の、私だけの可愛い人。おやすみ。

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