<番外編:会社とシステムのその後>
ここから先は、今でも交流が続くMやAさん、Kくんたちから風の便りに聞いた後日談である。
私が構築したあのシステムは、驚くべきことに、私が去ってから十年以上が経過した今もなお現役で使われているという。
あの場当たり的でデタラメなシステムが十年以上も命を繋いでいる事実に、開発者である私自身が一番驚いている。
不具合が出た際は「一度保存して再起動する」という、昭和の家電のような力技で対応しているらしい。
元々が「新人教育用」というプログラムなので、本来の用途として運用しているらしい。
一方、私に執拗な圧をかけてきたN室長は、Yちゃんが退職すると同時に、彼女を追うようにして会社を去ったそうだ。
Yちゃんはその後、元夫と復縁して即座に再離婚したという。
N室長は当然のように、フリーになった彼女が自分の元へ転がり込んでくると信じて疑わなかったらしいが、彼女はさっさと別の男を見つけて再婚。
N室長は深い失意のあまり、そのまま引きこもり生活に入ったという。
私の感想としては「なんで、お前のところに来ると思ったんじゃ?来るわけ無かろう」である。
私が去った後の企画広報部には、期待の新人社員が配属された。
しかし、周囲が「清水の代わり」という不可能な役割を期待しすぎたせいで、配属一週間で泣きが入ったという。
T室長のとりなしもあって、広報部員として働いてはいるらしい。
MやKくんからは、「お前の作った資料がないから、営業がしづらくてかなわん」と今でも愚痴をこぼされる。
本社から降りてくる無味乾燥な資料に、私が勝手にネットミームや煽り文句を付け加えていたのが、取引先との良いネタになっていたらしい。
さらに、社内報のコラムを楽しみにしていたファンもいたという。
イカの視力の良さや、愛宕百韻の歴史、野村克也氏の金言など、仕事と全く関係ない無駄知識の数々は、他社の営業マンからも「あれ、今月はないの?」と問い合わせが来るほどだった。
社内報を見て入社を決めたという新入社員が、更新の途絶えた誌面を前にションボリしていたという話を聞いた時は「世の中には変な人もいるもんじゃな」と苦笑いした。
そして、かつて私が本社で最も恐れていた「鉄の女」ことIさんが、支社のテコ入れのために本社から室長待遇で赴任してきた。
24時間365日「月月火水木金金」で働く彼女のパワフルさは、相変わらずだ。
彼女は自分の限界を他者の基準に据え、周囲にも同じ労働強度を強要する。
Iさんは私の本社時代の教育係であり、その仕事ぶりに私は面食らった。
本社の話を飲み会でする時は、たいてい彼女の「ついていけないパワフルさ」をネタにしたものだ。
本社上層部の覚えがめでたい彼女の暴走を止められる人間は、今の支社には一人もいない。
赴任早々、案の定、現場は完膚なきまでにかき乱されているらしい。
AさんやKくんから「清水さんの言っていた通り、地獄です……」と、うんざりした報告が届くたび、私は今の「自由」を深く噛み締める。
ちなみに同じ営業のMは持病が更に悪化したため、営業補助に回ることが多いらしく、Iさんの影響は少ないらしい。二人のうんざりした顔を私と一緒に笑っていた。
会社を辞めてから、もう十年が経つ。
先日、飲み会でAさんから「清水くん、今なら好条件で戻れるよ。戻ってこない?」と真顔で勧誘を受けたが、私はきっぱりと断った。
「いや、今の仕事の方が、ずっと楽しいから」
私は今、企画広報とは全く無関係な職種に就いている。派手さはないが、心穏やかに、自分のペースで働ける今の環境が気に入っている。
富士山の影は見えないが、私の空は、あの頃よりずっと広い。




