<EP_015>アホの末路
クライアントの担当者は、私の失態に面食らいながらも、最後は笑って許してくれた。
私は戻ってきたT室長に真っ先に報告し、深く頭を下げた。
「まあ、やってしまったものは仕方ないよね」 室長は引きつった笑みを浮かべながらも、「君のこれまでの功績は誰もが認めているはずだ。そう悪いようにはならないよ」と、精一杯の慰めを口にしてくれた。
だが、担当者が許してくれても、組織の論理は別だった。
話は瞬く間に本社へと伝わり、社長の耳にまで届いた。
今回の企画は社長直轄の重要案件だったのだ。
私は再び施設長に呼び出され、企画広報の全業務からの離脱、外出禁止、そして外線対応の禁止を言い渡された。
それから一週間、私はただひたすらにシステムのパッチ当てだけに没頭した。
皮肉なことに、その甲斐あってシステムはようやく安定の兆しを見せ始めた。
そして、三度目の呼び出し。
そこで告げられたのは、「自主退職」という名の事実上の解雇だった。
その決定をT室長に伝えると、彼は心底申し訳なさそうに言った。
「……そうか。残念だよ。実は異動の時期になるたび、君をどこに配属するかで各部署が激しく争奪戦になっていたんだけどね」
T室長は少し悲しげな顔で教えてくれた。
聞けば、「全部署に顔が利き、現場を俯瞰できること」、そして何より「企画広報のT室長が決して手放さなかったこと」から、私はずっと同じ場所に留まり続けていたのだという。
かつては誇らしく思えたかもしれないその裏話も、今となってはどうでもいいことだった。
軽自動車は「三保の松原」と書かれた案内板に従って進む。
無料の駐車場に車を停め、外に出た。
松林の奥から、太平洋の潮騒が微かに聞こえてくる。
早朝の松原は静まり返り、来る途中の土産物屋はどこもシャッターを固く閉ざしていた。
歩く人の姿もほとんどない。
私は松林を抜け、砂浜へと降り立つ。
見上げれば、薄曇りの空の下、遠くに富士山が佇んでいた。
その姿は、あまりにも美しかった。
「……遠くから見ると、あんなに綺麗なんじゃなぁ」
ぽつりと漏らした言葉が、潮風に混じって消えていった。
しばらくの間、何も考えずに富士山を眺めていた。
それからゆっくりと車に戻る。 カーナビの目的地を自宅にしようとして、ふと思った。
どうせなら、もう少しだけ旅を続けよう。
今の私には、守らなければならない予定など何一つないのだから。
私は母に「少し旅をしてくる」とだけメールを送り、自宅ではなく「駿府城跡」を目的地にセットして、軽自動車のエンジンをかけた。
【アホの末路 年収300万広報マンのSE奮闘記 〜完〜】




