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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ


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8/13

第七話 奇跡の訪れと、卒業試験と。

実地訓練後の休み。

俺は珍しく昼近くまで寝ていた。

寮に入ってから、平日は訓練と授業、

休日は食材探しや風呂やらサウナのDIYと、ろくに休んでいなかった。

起き上がると、大きく伸びをする。

タツオはまだ寝ている。まだしばらく起きないだろう。

痩せていびきがなくなり、寝息も穏やかだ。

整った寝顔を見ると、改めて本当にあの引きこもりか?

と疑わしくなる。


俺は起こさないようにそっと寮を出た。

今日は、買い物をしよう。


街に出ると、目抜き通りを散策する。


テオロッド到着後に何着か買ったきりで、

服の数が少ないのもあるが、

高校生らしくファッションにも多少はこだわりたい。


軽装だけでなく、冒険者らしい装備でも探してみようか。

そんなことを考えていると、後ろから肩を叩かれる。

振り向くと、そこには……


天使がいた。

イエナである。


「ユイトさん、何してるんですか?」


「イ、イエナ!いや、買い物をしようかと」


「そうなんですね。私も一緒にいいですか?」


……え?まさか。


これは…


デート回突入では……!?


「も、もちろん。えーと、装備とか売ってる場所知ってる?」


ドギマギである。でも、仕方ない。

お恥ずかしながらわたくし、

人生初デートになります。


俺は必死にマンガやドラマで見たデートシーンを思い返す。


「装備ですか。だったら、ハーラッド商会がいいですね。

騎士団御用達なんで。一緒に行きましょう」


と言うと、イエナは歩き出した。


街並みを歩き出すと、イエナは色んな店から声をかけられている。

「イエナちゃん、これ持っていきなよ!」

「ガルフにたまには顔出せって言っといて」


その一人ひとりに対し、イエナは笑顔で対応する。

街の人気者である。


そもそも、王族が、護衛もなく歩いていていいのだろうか、と思ったが、この国は民衆そのものがイエナの護衛になっているのだろう。


「イエナは、街に何しに来たの?」

俺は聞いた。


「散歩です。こうして、平和な街を歩くのが好きなんです」


そういうとイエナは街を見渡し、微笑んだ。

街は商店が賑わい、活気付いている。

確かに、良い雰囲気だ。


「特使って、どんな仕事なんだ?

聞いていいのか分からないけど」

俺は聞いた。


「テオロッドは、領土を広げようという考えはないんです。各国が健全に自治をしてくれれば、平和は保たれる、という思想で。でも、式術者は世界中にいるので、ちゃんと繋がっておくことを大切にしています。なので、定期的に各国を訪問して、情報交換や、式の指導をしています。

それが、特使の仕事です」


なるほど、それで彼女たちはミドルリッジにきていたのか。

積荷も多かったから、他国も回ってきたのかもしれない。


「なんか、大変そうだね」

俺は答える。


「色んな国を見て回るのは楽しいですよ。

ユイトさんも、向いていると思いますよ」


「え、俺?」


「人のこと、よく見てるじゃないですか。

得意なことも、苦手なことも。

そういう人は、きっと他国の人にも優しくできる人です」


そういうと、イエナはとびっきりの笑顔をくれた。


もう俺の心臓は暴れ狂っている。


目抜き通りの奥に、ハーラッド商会はあった。

他の店より一際大きい。

店に入ると、ずらっと武具、防具が並んでいる。

特に武器は剣、槍、斧などバリエーションも豊かだ。

なんか、楽器屋を思い出すな。


「結構、武具が多いんだな。

世界って、戦争でもしてるのか……?」

思わず俺がつぶやくと、

「戦争にはなってないですよ。

——今は、まだ」

イエナは意味深に返した。


「あ、あの辺りが防具ですね。どんな色がいいですか?」

そういうと、イエナは小走りで奥へ向かった。


俺は、いくつかを試着し、最終的に

胸当、鉢金を選んだ。

本格的な防具も試着もしてみたが、まるでロボットのようになってしまった。

——重い鎧を着て動けるテリーズはすごい。


ちゃんとタツオの分も買っているあたり、

俺は気づかいのできるやつだな、と自分で思う。


「イエナ、ありがとな」

店を出ると、イエナに礼を言った。


「いえいえ。似合ってますよ、それ」

後ろに手を回しながら、褒める。


俺は照れくさくなって、小さく頷いた。

「じゃあ、私はそろそろ王宮に戻りますね。

卒業試験、頑張ってくださいね!」


送るよ、と伝える間もなく、イエナは行ってしまった。


情けない。慣れている男なら、この後お茶でもどう?

とか言えるのだろうが、完全な経験値不足である。


恋愛を式力で例えれば、俺は十式だろう。


むしろ、恋愛の学校に入りたい。

そう思った。




卒業試験は、式力の測定と、面接と聞いていた。

測定は詳細に、とのことで、式術研究所で行われる。

サイレスが、装置を準備している。


入学時での説明では、主式が五式以上で合格。

卒業すると、テオロッド式術学校から免許が支給されることになっている。

これを持っていれば、様々な仕事で優遇され、

とりあえず食べていくには困らないとのことだ。


主式がないと言われた俺は、クリアできているのだろうか….


「まずは、式力測定から行う」


教官の言葉に、場が引き締まる。

まずは、俺たちフォーリナーの三人から始まる。

ここをクリアしないと、面接に進めない。

緊張が走る。


誰から行くか、と思っていると、サイレスに手招きされる。

え?俺?


「ユイト、君の場合、また測定不能になる可能性がある。

少し設定を変えてあるから、先にやってくれ。

君が終わり次第、元に戻す」

サイレスが言った。


「設定?」


「主式を青と判定するように設定した。一番得意だろう?」


そう言って、サイレスはにやり、とする。


確かにサイレスは知っている。

俺が自在にシャワーを出したり、サウナの蒸気をコントロールしていることを。


俺は、装置に乗った。

三ヶ月間、色々な訓練をやって来た。

食材狩猟や、手間暇かけてDIYもやった。

タツオとも自主訓練をした。

きっと、大丈夫だ。


装置が反応し、メーターが上がる。

良かった。測定できている。


結果。


主式 青

副式 茶

赤 六式

青 四式

黄 八式

緑 六式

紫 六式

茶 四式


「おめでとう。合格だ。主式、副式ともに四式は、中々いない」

教官がそう言った。

サイレスは、俺と目が合うと、大きく頷いた。


鍛錬の日々が、きちんと成果に繋がったようだ。


俺は胸をなで下ろす。


「設定を戻した。次は、どっちだ?」

サイレスが聞くと、ミサキがずいっ、と前に出た。


自信たっぷりだ。

「五式なら、入学時から超えてたから、余裕だべ」


ミサキが乗ると装置が反応する。


主式 紫

副式 青


赤 七式

青 五式

黄 七式

緑 五式

紫 三式

茶 七式


教官たちが、ざわめく。

「さすが首席合格。三色で五式を越えるとは…

サイレス所長以来の記録じゃないか?」


サイレスが、壁に背をもたれながら眼鏡をくいっ、と上げた。


ミサキ、合格。


最後はタツオ。

主式はもうこの世界到着時から超えている。

赤の二式。

他の色はどうなったのか?

俺の興味はそこ一点だった。


タツオ

主式 赤

副式 茶

赤 一式

青 十式

黄 十式

緑 十式

紫 十式

茶 八式


これまた、研究所内がざわつく。

「卒業測定で一式は、前代未聞じゃないか…?」

「しかも…零式の域に限りなく近い…」


零式。神話級と授業で聞いた。

確かに、メーターは一式を超え、最大値にかなり近づいている。


タツオ、合格。


無事、フォーリナーは全員合格することができた。

続いて、ブルーオーダーである。

模擬戦で争った中ではあるが、俺は彼らに親近感が湧いていた。


どうせなら、全員合格したい。


まずは、リーダーのレインが乗った。


主式 青

副式 緑

赤 七式

青 四式

黄 十式

緑 五式

紫 八式

茶 七式


これまた、かなり幅広い。

主式、副式ともに五式を超え、合格。


レインは、青い長髪を振ると、俺に向かって親指を立てた。

俺はそれに返す。


よし。あと二人。


ノエル。黄の、おかっぱが特徴的な男。

自信なさげに装置に乗る。


俺は、心の中で頼む。と祈った。


だが。


主式 黄

副式 紫

赤 十式

青 十式

黄 六式

緑 九式

紫 七式

茶 十式


ノエルは、届かなかった。

紫の式を見ると、森を抜ける時に活躍したのは彼だろう。

ゴーレム戦でも、雷を上手く使っていたというのに。


結果は、非情だ。


落胆するノエルの肩を、レインが小さく叩く。


続いては、フィル。

緑の式者。多分、森の中で仲間の回復をサポートしたに違いない。

疲労の浮かんだ顔を思い出す。


主式 緑

副式 茶

赤 十式

青 九式

黄 十式

緑 六式

紫 十式

茶 七式


不合格。


フィル。

ノエル。


二人が、五式に届かなかった。

あと一歩。


「落胆するな。卒業試験は、もう一度チャンスがある。

追試だ。一ヶ月後だが、受けるか?」


教官の言葉に、ノエルもフィルも頷いた。

唇を噛んでいる。


その瞬間、レインは二人の間に立ち、肩に手をおいた。


「二人が残るなら、俺も残る」


静かに、しかしはっきりと、レインが言った。


場がざわつく。


「レイン、君は条件を満たしている。面接に行けるんだぞ」


「分かっています。でも」


レインは一歩前に出た。


「俺たちはチームです。二人が残るなら、俺も残る。

それだけです」


それ以上、言葉はいらなかった。


フィルは目を見開き、

ノエルは何か言いかけて、結局黙って頭を下げた。


ブルーオーダーは、俺が思うより固い絆で結ばれているんだろう。


最後まで一緒に戦ったブルーオーダーが卒業できなかったのは残念だったが——卒業よりも大切なものを彼らは手に入れたのかもしれない。



「では、君たちは面接に進もう」

案内された応接室は静かだった。

俺たちは三人並んで、質問を受ける。

グループ面接方式なんだな、と思った。


俺は、タツオのほうをちらっと見る。

極めて心配だ。

何を言い出すのか、想像もつかない。


試験官は、聞きたいことは一つだけだ。

と言って、質問を投げかけた。


「式力を、何のために鍛え、何のために使うか。

正直に答えてほしい」

回答順は俺、ミサキ、タツオと決めていた。

少しでもタツオに考える時間を与えたい。


俺は答える。


「俺は式を鍛えて、白の式を知りたいと考えています。

できれば、式そのものの仕組みを知りたい。

もしそれができたら、式の正しい使い方を、人々に教えていきたいと考えています」


試験官の視線が鋭くなる。


「指導者に、なると?」


「はい。将来的には」


本音を言えば、元の世界には帰りたい。

だが、この世界にいる前提と考えた時、

俺は白の正体を知りたいし、人の役に立てるなら立ちたい。

そこに嘘はない。


少しの沈黙の後。


「分かった。次」


短く、それだけ告げられた。

次は、ミサキ。


「私は家族や、自分の国を守る力を身につけたいと思っています」

丁寧に、ミサキは言った。


「紫は、戦いを避けるための式だと思っています。

敵を止めることも、味方を逃すこともできる。

——平和な世界を作ること。それが私の目標です」


迷いのない声だった。


「分かった。では、最後」


最後は、タツオ。


「あらゆるものを燃やし尽くす、最強の赤になりたい。

それで、世界から、尊敬される存在になりたい」


……やってくれたな。


試験官たちは顔を見合わせている。

どうする?的な雰囲気である。


「……結果については、後日知らせる。今日はここでおしまいだ。ご苦労だった」


……タツオは、ダメな気がする。



後日。

俺たちは寮の掲示板を通じて結果を告げられた。


ユイト=カタギリ 合格

ミサキ=オイカワ 合格

タツオ=ヤマセ 研究所預かり


研究所預かり……?

よく読むと、タツオは研究所に来るようにサイレスから指示が書いてある。本人は、極めて不服そうだ。


「正直に答えたのに、なんでだよ」


その正直に問題があったのでは?

と俺は思った。


なんにせよ、サイレスに会わなければならない。

俺とミサキは免許証を受け取ると、

心配なのでタツオに同行することにした。

タツオはまだプンプンしている。


「やぁ。お揃いだな」

サイレスは、お茶を注ぎながら俺たちを迎えた。


「研究所預かり、って何ですか?」

俺は聞いた。


「まあ要するに、学校では預かりきれないということだ。

一式など、どの教官よりもランクが上だ。

それに」

サイレスは続ける。

「あの面接内容では、普通不合格だ」


「何で?世界最強を目指すのは男の夢でしょ」

タツオは言った。


「まぁ、分からなくもないが……面接の回答としてふさわしかないだろうな。

まあ、私としては免許を出していいと思っているので、預かることにした。

が、一つ条件がある」


「なに?」

タツオが聞いた。


「一つ、クエストをクリアしてほしい。かなり高難度だが、クリアすれば君の赤の一式の有用性を証明できる。

それを持って合格とする。どうだ?」


「やる。ギルドに行けばいいの?」


「いや。ちょっと特殊でな。依頼主は他国だ」


「他国……?」

俺は聞いた。


「アークネイヴァー、隣国だ」


アークネイヴァー。

学校の座学で聞いたことがある。

テオロッドの〝寛容なる隣人〟として建国されたその国は、元の世界でいうと東京都あたりに位置していた。

式術が発動しない人たちが中心に集まり、

各国と中央を繋ぐ役割を果たして来た。

ここ数十年で著しく文明が発展している、とのことだった。


「詳細は、依頼を受けた本人に聞いてくれ」


「……誰ですか?」


「レオニス=テオロッド。私の兄だ」


……テオロッド国王じゃねえか。


何だか、仰々しくなってきた。


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