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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ
第一章

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第六話 実地訓練と、チームプレイと。

実地訓練当日。

俺とタツオは、集合場所に向かっていた。

すると、後ろから勢いよく走ってくる音がする。

振り返ると、ツインテールが揺れている。


「ユイト!久しぶりだべ!」

ミサキである。

ミサキは女子寮だし、紫の式者は一人しかいない。

ほぼ個人レッスンを受けていたため、あれから授業が一緒になることはなかった。


「久しぶりだな」


「ちゃんと訓練したか?んで、あのメガネはどこだべ?」


あ。そういえば、あれから一ヶ月くらい会っていない。

ミサキはタツオの第二形態とも呼べる姿を知らなかったのだった。


俺は、すぐ横にいる男を指差す。

言うまでもなくタツオである。


ただし、髪はさっぱりし、メガネはなくなり、痩せている。

ミサキは、「は?」と言った。

まだ一致しないようだ。


タツオが、

「今日はリーダー決定戦だからね」

と声を出すと、初めて事態を理解したのか、ミサキは悲鳴を上げた。


「う、嘘だべ!あのメガネが…こんな…」


なんだか、少し顔が赤い気がする。

俺たちは三人揃って集合場所の広場に向かった。


校舎前の広場に集められた生徒の数は、六人になっていた。

実地訓練まで残れたのは、俺たちフォーリナーと、模擬戦で戦ったブルーオーダーだけだった。

「……また、減ったな」

俺は小さく呟く。


式の世界の現実は厳しいものだ。

ある意味完全な実力社会。

才能に恵まれなかったもの、才能を伸ばせなかったもの、

順番に脱落していく。

残るのは、才能があり努力したものだけ。

ただ、ローディンのように式に見切りをつけ、

新たな生きがいを見つける人間もいる。

寂しいが、早い段階で判断することも必要なのかもしれない。


ブルーオーダーは、先に到着していた。

レインは、俺と目が合うと、軽く手を挙げる。

俺もそれに合わせて手を挙げた。

これから、おそらくまたチームでの戦いになるだろう。

余計な馴れ合いは必要ない。


しかし、どこか憎めないブルーオーダーの面々に、

親近感も湧いていた。


実地訓練をクリアすれば、あとは卒業試験。

この中の何人が無事に卒業できるのだろうか。


できれば、全員揃って卒業できるといいのだが。


教官が前に立つ。

「今日からの実地訓練は、ゲスト講師として高位式者を招いている。お二方、どうぞ」


すると、見知った顔が二つ、俺たちの前に並んだ。

一人は、サイレス=テオロッド。


式術研究所所長であり、俺のスパ友達でもある。

裸の付き合いだ。

しかし、式となれば話は別。

俺は研究所で見たあの怪物じみた万能さを思い出す。


こちらと目が合うと、心なしか口角を上げたように見えた。


もう一人は…天使だ。

イエナ=テオロッド。


天使の微笑みを携えて、軽く会釈をする。

顔を上げる時に俺と目が合い、小さく手を振った。


……やめてくれ、胸が苦しくなる。


ブルーオーダーの面々は、なんだかざわ付いている。

金髪の黄の式者、ノエルが言った。

「嘘だろ……!イエナ様だぞ」

「王族直々なんてすごいな……」 

緑の式者、フィルが答える。


リーダーのレインは、まるで憧れのアイドルと出会ったような顔でサイレスを見ている。


改めて、彼らが王族であることを思い出す。


「おはようございます。今日は、講師として精一杯頑張ります」

イエナが言った。


いつもと違い、今日は教官服を着ている。

柔らかい佇まいは残しつつも、立ち姿は完全に“試験官”だ。


サイレスは一言だけ、サイレスだ、と言った。

腕を組み、全体を見渡すその視線は、いつも以上に鋭い。


「本日の実地訓練は、派生色の習得と応用を目的とします」

イエナが続ける。


「派生色は、自然との結びつきが強い分、座学や演習場では限界があります。例えば緑は、植物の力なくして発動しません」


そう言うと、手をかざし、周りの木々からエネルギーを集める。手のひらに、緑の光球が生まれた。


それを、枯れた倒木にぶつける。

その光の中から、小さな芽が出てくる。


「見ての通り、緑の式は生命エネルギーそのもの。

使い過ぎれば自然に害を与えますが、正しく使えば新たな命を生み出すことも出来ます。大切なのは」


一瞬、言葉を切る。


「より深く、自然と一体化すること。はじめましょう」


イエナはゆっくりと、しかし芯の強い話し方で伝えた。

さすが王族、といったところか。

聴衆の興味を惹きつける話し方を心得ている。


俺たちは、学校を出発し、森に向かった。

訓練用に造られた構内の森ではなく、

まさに実地。フィールドワークである。


湿った土の匂い。木々のざわめき。

ここは、自然そのものだ。

到着すると、サイレスが手を掲げた。

紫色の光が手に集まり、

それを俺たちにぶつける。


全身に、違和感が走る。

息が浅い。体が重い。


「弱毒を付与した」

サイレスが言った。


「命の危険はありません。ただ、苦しければすぐに棄権してください。私が治癒します。皆様には、この状況から緑の式で回復をしていただきます」


俺はすぐにやってみる。

イエナのように集めるのは無理だが、

——直接木に触れれば何とかなりそうだ。

木に手を触れ、呼吸を合わせる。


少しずつ、体が、軽くなる。


ミサキも、問題なく回復している。

しかも、手のひらへエネルギーを集めている。

さすがは首席合格である。


ふと、タツオを見ると、地面に転がって震えていた。

まるで爆発に吹き飛ばされた地球人のような格好をしている。


「……無理」


顔色が悪い。

うん、ある意味想定通り。

俺は、イエナにやってもらったようにエネルギーを分け与えようとするが、上手く行かない。


「ミサキ、回復頼めるか?」

俺が聞くと、え、いや、私が?とか言いながら顔を赤らめてモジモジしている。なんだコイツ。


すると、イエナがやってくる。

「ユイトさん。イメージを変えれば、きっとできますよ。

あなたは何から力をもらいましたか?

その源になりきらないと、誰かに渡すことはできません。自然そのものになってください」


俺は、少し考える。


——木の力を、借りている。それを俺は受け取ることができた。つまり。


俺も木になればいい。


俺は目を閉じる。

根を張る。

水を吸い上げる。

葉を揺らす。


そして、その流れを——分ける。


「……来い」


タツオの肩に手を置く。


一瞬、何かが繋がった感覚があった。


タツオの顔色が、戻る。


「……え?」

タツオが目を見開く。


毒が、抜けていく。


イエナが、静かに微笑んだ。


「自己回復から、他者回復。緑の基礎を覚えましたね」


他の誰よりも、イエナに褒められることが何より嬉しい。

俺は、心の中で尻尾を振りまくっていた。


ブルーオーダーの面々も、フィルの緑の式で難なくクリアしたようだった。

チームで動いている以上、全員が出来なくても構わない、ということなのだろうか。



俺たちは、森をさらに奥へ進んで行った。

前は意気揚々としていたミサキは、俺たちの少し後ろを歩いてついてくる。

なんなら、緑は私の勝ちだな!やっぱりリーダーは私だべ!とか言いそうなものだが。

まだ顔を赤らめてモジモジしている。

まるで、恋する乙女だ。


ん……?


まさか。


そんなわけ、ないか。



奥に進むと、森の中はまだ昼だと言うのに、薄暗い。


「ここから先は魔獣の巣窟になります。

危険度は増しますが、今回は討伐禁止です。

撤退戦を想定し、見つからずに森を抜けることを目標にしてください。

もし怪我をしたら、すぐに救難信号を出してください」

イエナは言って、信号弾を配った。


岩と木に囲まれた、嫌な空間。

ミサキが一歩前に出る。

自分のステージと認識したのか、いつもの様子に戻っている。


「さ、私の出番だべ」


紫色の霧が、静かに広がる。

俺たちの範囲数メートルを取り囲む。

まるでバリアだ。


「これで、魔獣からは見えないはずだべ。

ただ、音を出したら認識される。絶対に音出すなよ」

ミサキは言った。


俺たちは、魔獣の巣を真っ直ぐに進む。

何度か、猛獣に出くわす。

グラスハウンドの群れ、

それを追いかけるサヴァンレオ。

コウモリのような魔獣。


全てが、まるで俺たちがいないかのように素通りしていく。

よし、このまま行けばクリアだ。

そう思った時。


タツオが大きなくしゃみをする。

途端、俺たちは魔獣にロックオンされた。

サヴァンレオは、声を上げ、俺たちの方に向かってくる。


まずい。討伐禁止である。防御するしかない。

俺は咄嗟に土の防壁を出そうとするが、

凄まじい速度で襲ってくる。


ーー間に合わない……!


そう思った瞬間、ミサキはサヴァンレオに向かって紫の光を放った。

サヴァンレオは、まるで酔っ払ったようにその場をうろうろし、やがて倒れた。


「ミサキ、何したんだ?討伐は禁止って……」

俺は言った。


「寝てるだけだべ。幻惑だけじゃ戦えないことが分かったから、新たに修行した技だ」


眠りの式。紫は様々なバフ、デバフの性質があると知っていたが、そんなものもあるのか。


式術は奥が深い。


「ミサキ、やるね」

タツオが言う。

二人の目が合った瞬間、ミサキは目を逸らし、

当たり前だべ!と言った。

ほんのり、また顔が赤くなった気がする。


うん、これはもう……


俺の仮説は、確信に近づく。

恋する男には、恋する乙女の気持ちがよく分かるのだ。


しかし……


「タツオだぞ……?」

俺は聞こえないように呟いた。


森を抜けると、視界が拓けた。

広野に出たようだ。


イエナとサイレスが待っていた。

二人とも、息一つ切れていない。

俺たちはブルーオーダーの到着を待った。

紫の式者はいなかったが、大丈夫なのだろうか。

イエナがここにいるという事は、救難信号は出ていないということだと思うが。


少し待つと、ブルーオーダーが森から出てきた。

怪我をしている様子はない。

ただ、緑の式者、フィルが疲れているように見える。

道中、回復が必要なシーンがあったのかもしれない。


俺は、レインに向かって親指を立てる。

レインは、それを見ると、白い歯を見せながら親指を立てた。

多くの言葉を交わしたわけではないが、距離は縮まっているように感じる。

ここまで来たら全員で卒業したい、と改めて思った。


全員揃うと、最後の実地訓練の説明が始まった。

最後は、茶の式。

俺の得意分野だが、どんなお題目なのだろう。


サイレスが前に出る。


「今から、実戦をしてもらう。相手は、私の式で作ったゴーレム。土に、たっぷりと式力を込めた自慢の作品だ。

討伐するか、降参するか、二つに一つだ。

危険を感じたら、こちらで破壊する」


ゴーレムを作る。そんなことができるのか。

何の色を使えば無機物の操縦などできるのだろうか。

後でサイレスに聞いてみよう。


サイレスに言われて気がついたが、広場に土で作られた人形が二体並んでいる。

五メートルくらいはあるだろうか。

何もここまで大きくしなくてもいいのに。


土人形とは言え、動き出すと圧が強い。

誰ともなく、俺たちは陣を取った。

前衛タツオ、横に俺とミサキ。


「まず、やってみるか。タツオ、フレアバーストだ」


数々の敵を屠ってきた技である。

ここまで見せ場のないタツオは、頷くと力を込める。

火球はみるみるうちに膨れ上がる。

今まで見たことないほど大きい。

ゴーレムを全て包み込むほどのサイズになったその火球は、タツオから放たれると爆音と共にゴーレムに直撃した。


しかし。ゴーレムは無傷だった。

少し焦げたような気がするが、形を保ったままこちらに向かって動いている。


マジか。俺たちの最大火力が。

すると、タツオが言った。

「ユイト、レゾナンスシェイクだ!」

なんだか少し笑っている。

指示を出したかったのか、技の名前を気に入ってるか、両方なのかは分からない。


俺は、ストーンバイソンで試したばかりの技を発動する。

体の中を揺らす。

しかし。


イメージが、湧かない。

ゴーレムの体の中は、全部土である。

水分も少なく、全く揺らせるイメージがない。


せっかくの新技も効き目なし。


状況を察したミサキは、幻惑を試みる。

「ダメだ……!土のバケモノに、幻惑は効かねえべ……!」


あれ。打つ手なし…?

俺たちの得意技オンパレードが、ことごとく不発に終わる。


ふと、横で別のゴーレムと戦うブルーオーダーを見る。


緑のフィルが倒木を操り、防壁を作る。

その後ろから、レインが水の式でゴーレムを濡らしている。

そこに、ノエルが雷を打ち込んでいる。


少しずつだが、ゴーレムの動きが鈍ってきている。


素晴らしい連携だ。


「チームフォーリナー、集合!」

俺は声を出す。


タツオとミサキが駆け寄ってくる。


「作戦会議だ。使えるものを全部使おう。

タツオ、お前は一回火力を忘れて、

——ゴーレムの足止めをしろ。

茶の式で、あいつの足場を荒らせ。

ミサキ、お前青の式は使えるか?」


ミサキは小さく頷く。


「入学時は八式だったけど、今はもう少しいけるはずだべ」


「よし。なら、全力で水を出してくれ」


俺は、作戦を伝えた。


タツオは、苦戦しながらもゴーレムの足場の土を荒らしている。途中、フレアバーストを地面に撃って地面を爆破したりしていたが、足止め出来ればいいのでまぁいいだろう。


足を止めたゴーレムに、ミサキが水を浴びせる。


よし。

ここからは俺の出番だ。


ゴーレムを、陶器と捉える。

言ってしまえば、大きな土の塊だ。


俺は目を閉じて集中し、ゴーレムを混ぜ合わせる。

こねる。形を整える。

いい感じだ。


だんだんと、頭の中が陶芸モードになってくる。


湯呑みは作り飽きたから、コーヒーカップにしようか。


取手を作るのが大変だな……


模様は掘るべきか……


俺はいつの間にか別の世界に入り込んでいたようだ。

不意に肩を叩かれて、ハッとする。


「あれ、焼いた方がいい?」

タツオが言って、指をさす。


さっきまでゴーレムだったものは、大きなコーヒーカップになっていた。



「前代未聞だな」

そう言ってサイレスは笑った。

「ゴーレムを作り直すなんてのは、今まで見たことないぞ」


俺は、目の前のコーヒーカップを見返す。

我ながら、良い出来栄えだ。


せっかくだから、とタツオが火を入れ、焼成している。


程なくして、戦闘を続けていたブルーオーダーたちの方から、何かが崩れる音がした。

ゴーレムが、バラバラになっている。

お見事。

まさにチームプレイというものを、俺は彼らから学んだ。


しかし、疲れた。

式力と、脳の使いすぎで、頭が痛い。

俺は、その場に座り込み、頭を押さえた。


すると、イエナが近づいてきて、俺にヒーリングをかけ始めた。

「ユイトさん、お疲れ様です。頭が痛いんですよね?すぐ顔に出るから、分かりますよ」

そう言って微笑みを浮かべる。


顔に、出る。

だとすれば、俺の心の中も顔に出ているのだろうか。

それは、マズイ。

俺はポーカーフェイスを意識し、ありがとう、とだけ言った。


向こうから、ブルーオーダーの面々がやってくる。


「フォーリナー諸君。素晴らしい戦いだったな。共に試練を乗り越えたことを讃え合おうではないか」

レインは、そう言って拍手を始める。


言い回しも仕草もキザだが、なぜか憎めない。

俺は小さく笑うと、レインに合わせて拍手をした。


今回は、勉強させてもらった。

式力も、単体ではなく組み合わせることで巨大な敵にも立ち向かえることを教えてもらった。



実地訓練後は、休日を挟んで卒業試験。

長いようで短い学校生活も、終わりが近づいている。


サイレスは、訓練の締めの言葉を終えると、俺に近づいてきて耳打ちした。


「今日、サウナに行くからな」


すっかり常連である。

俺も汗を流すつもりだったので、またすぐに会うことになるだろう。


ちなみに、俺が作ったゴーレムコーヒーカップはそのままオブジェとして残されることになった。

後年、広場の名前がコーヒーカップ広場になったのは、俺がコーヒーを普及させた後の話。


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