表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

第五話 料理と風呂と、タツオ第二形態と。

その日。風呂にゆっくり浸かっていると、事件は起きた。

川近くの森の中に、招かれざる珍客がやって来たのだ。


サイレス。


俺は、全裸で湯船に浸かった状態で目が合った。

想定外の登場に言葉が出ない。


「こんな所で、何をしている」

サイレスは眼鏡を持ち上げて言った。


「え……サイレスさん?なんでここに」


マズい。学校にバレて、ここが禁止されたら。

——俺の生きがいが、なくなってしまう。


「君たちが模擬戦で優勝したと聞いて、

労いに寮に行ってみたら、不在。

聞き込みをしたところ、

二人でそそくさとどこかへ出掛けて行ったと言う。

仕方ないのでタツオくんの式を探知してみたら……

ここに着いた」


「探知……?」


「これだけ馬鹿でかい式力だったら、分かるさ。

紫と緑の応用だ。自然の力の前では、人は丸裸だ」


いや、俺は文字通り丸裸なんですけど。


「で、これは何だ?」


サイレスは風呂を指しながら言った。


「えーっと。体を温めるためのものです。

で、これは、体を洗うもの」


俺は風呂の横にあるシャワーを出しながら言った。

下には、それっぽいタイルを敷き詰めてある。


「ほう…君が考えたのか?それで、これはなんだ?」


サイレスは、風呂の横にある、木造りの建物に注目した。

バレたか。


そう、実は俺はコツコツと新たな施設を作っていた。

先週完成したばかりの、サウナである。


「蒸気で体を温める施設です。

……えーっと、入ってみます?」


一か八か、サウナを勧めてみた。


「ふむ。研究者としては、試してみなければいけないな」


まさか、乗ってきた。


サイレスは、躊躇いなく服を脱ぎ始める。

あっという間に全裸になる。


「ちょ、ちょっと!サウナでは、腰に布を巻くんです!」

俺はサイレスを制する。


「そうなのか。借りられるか?」


「ちょっと待ってください。今貸しますんで」


俺はそう言うと風呂を上がった。

ストックの布を貸し出す。


サウナは、今タツオが入っている。


「おい、タツオ、お客さんだ」

ドアを開け、タツオに声をかける。

長い髪が顔にかかり、表情は見えないが、返事は来た。

久しぶりにタツオの体を見るが、なんだか少し引き締まった気がする。


「りょーかい。蒸気追加しようか」

そういうと、タツオはサウナ室の隅にある石を熱する。

ピンポイントでの火力コントロールも、だいぶ慣れてきたようだ。


十分熱せられたその石に、俺は風呂の水をぶちまける。

一瞬で水蒸気に包まれ、部屋の温度が上がる。


サイレスはサウナ室に座り、その様子を見ている。

「ふむ……これは……」


タツオはサイレスと入れ替わりに出てくると、椅子に座って外気浴をしている。


サイレスは、二十分ほどで出てきた。

ほてった顔は、満足そうだ。


「……どうでした?」


「控えめに言って……素晴らしい。

学校には黙っておく。その代わり。

——私にもたまに使わせろ」


俺たちのスパの秘密が守られる代わりに、

お客さんが増えた。



珍客は続くものなのか、翌日。

模擬戦明けの休日を過ごしていると、

部屋をノックする音がした。

タツオはまだ寝ている。

ドアを開けるとそこにいたのは、寮の料理長、

ローディンだった。


「ユイト。頼みがある」

真剣な目だった。

「新たな食材が見つかりそうなんだ」


先日、二人で生姜焼きを作り上げたローディンとは、

奇妙な信頼関係が出来上がっていた。

ローディンは四十歳。親と子ほど離れているが、

友人と言える関係になっていた。


例の生姜焼きのレシピ指導中、様々な話を聞いた。

なんでもローディンは元々式者を目指してテオロッドにやってきたが、赤の八式止まり。

諦めて好きだった料理の道に足を踏み入れたそうだ。


しかし、テオロッドはまともな食材が少なく、

料理の幅にも限界がある。

夢を失い、新たな道にも限界を感じかけていた所に、

先日の生姜焼きの依頼があったとのこと。


自分で作った生姜焼きを味見すると、

ローディンは感動して、大げさじゃなく泣いていた。

「俺は、このためにテオロッドに来たのかもしれない」と。


依頼、料理人の魂に火がついたのか、

少ない食材をどうやって美味しく調理するか悪戦苦闘していた。

そして、俺もよく意見を求められていたが……

部屋までやってくるのは初めてだ。


「ローディン、今日は休みじゃ……」

俺は聞いた。


「ああ。お前らも休みだと思うが、すまない。

ここらで滅多に見かけない魔獣が現れたって話を聞いたんで、狩猟を依頼しに来たんだ」


ほう。俺も、過去ギルドで食材情報を集めまくった身だ。

新たな食材とは、聞き捨てならない。


「それは聞き捨てならないな。どんな魔獣だ?」


「俺も本物は見たことない。

ストーンバイソンと呼ばれる魔獣だ。

——特に、脂が旨いらしい」


その名前から類推するに……


牛か?


犬、豚と来て、ついに来たか。

俺は、黙って頷いた。


「すぐに準備する」

そう言ってタツオを叩き起こした。



ギルドの掲示板の周りには、人だかりが出来ていた。

高報酬やレア度の高いクエストは争奪戦になることが多い。

珍しく、クエストボードを見るようにガルフが腕組みしながら立っていた。


「お前らも、あれ目当てか?」

そう言ってクエストボードを顎で指した。


討伐依頼

魔獣:ストーンバイソン

推奨ランク:B

備考:額部が岩石化。負傷者多数。

報酬:五万ソル


群がる冒険者たちは、負傷者多数の文言に尻込みしているようだ。


「行くぞ」

俺は、ためらいなく一歩前に出た。

人だかりを抜け、クエストボードに一直線。

羊皮紙を引っ剥がすと、それを持って受付に向かう。

俺は受付台に肘をついて、クエスト用紙を指で叩いた。


「これ、受けます」


受付の女性は、俺の登録証を見て眉をひそめる。

「Cランク……ですね。推奨はBですが……」


先日の護衛クエストで、俺はCに特進していた。


「知ってます」

俺は即答した。


「でも、俺たちはBランクの護衛クエストを無事に終えています」


受付が一瞬、言葉に詰まる。

周囲の冒険者たちの視線が集まった。


「それは……まあ……」


「実績は実績です」

俺は一歩も引かない。


数秒後、受付は小さくため息をつき、判を押した。


「緑の式者をお連れすることをお勧めします」


怪我の可能性が高い、ということだろう。

イエナの顔がよぎるが、彼女にも仕事がある。


背後で、タツオが小さく笑った。


「やると決めた時のユイトって、怖いよね」



俺たちは、ギルドを出ると念の為の回復薬を購入し、

目撃情報のあった渓谷に向かった。

危険なので待機を勧めたのだが、ローディンも着いてきた。

「いざとなったら俺の赤の式で燃やしてやるよ」


赤の八式のくせに、ローディンは鼻を鳴らした。

……期待しないでおこう。


渓谷に入ってすぐ、“それ”はいた。

数十メートル離れていても視認できる。


でかい。


想像していた牛の、二回りは大きい。

筋肉で盛り上がった肩。

額には、確かに岩のような盛り上がりがある。

一歩踏み出すたびに地面が低く唸る。


「旨そうだな」

俺は、恐怖より、どうやって調理するかを考えていた。

取らぬ狸のなんとやら。


「あのサイズなら可食部位多いぞ」

ローディンがごくりと唾を飲む。

同じようなことを考えているようだ。


「前みたいに、外側だけ燃やす?」

タツオは言った。


俺は振り返らずに答えた。


「いや。タツオ、ここは待機だ。

出来れば……生で調理したい」


俺は慎重に近寄っていく。


砂利を踏む音で、

ストーンバイソンがこちらに気づく。


低く、唸る。


次の瞬間。

巨体が突進してきた。


一トン近い質量。

正面から受ければひとたまりも無い。


だが、俺の脳内は食欲が恐怖をかき消していた。


冷静に、地面に意識を向ける。


俺とストーンバイソンの間の地面一帯を沼地にする。

青×茶の式。


ストーンバイソンの前脚が、

ぬかるんだ地面を踏み、体勢が崩れる。


そして、俺は考えていた技を試す。

イメージは完成している。


俺は“中”をイメージする。


血液。

筋肉。

臓器。


そこに満ちる水分。


壊す必要はない。

焼く必要もない。


——揺らす。


共鳴。


俺は両手を、ゆっくりと掲げた。


空気が、震えた。


次の瞬間、

ストーンバイソンの巨体が、内部から波打つ。


外傷はない。

だが、中が揺れる。


電子レンジにかけられた水のように、

見えない振動が全身を駆け巡る。


巨体が呻き、膝をつき、そのまま、崩れ落ちた。


地響き。


完全に昏倒している。


……ぶっつけ本番、成功だ。


「……倒したのか?」

ローディンが聞く。


「気絶してるだけだよ」

俺は答える。

「あとは、料理長、よろしく」


ローディンは頷くと、用意していたナイフとロープを持ってストーンバイソンの所へ向かった。


タツオが、俺のところにやってくると、目を輝かせて言った。いや、正確にはメガネが輝いたように見えた。


「今のどうやったの?」


「内部の水分を揺らした。電子レンジをイメージして。

思ったより上手くいったな」


タツオは少し考える素振りを見せてから、言った。

「レゾナンス・シェイクだな」


「なんだよ、それ」


「技の名前」


「いらねえだろ、名前なんて……」

俺は言った。必殺技みたいで、恥ずかしい。


「名前ないと、連携の時に困るよ。ユイトだって、フレアショットだ、とか指示出ししてくるじゃん」


うっ。確かに。


「……他の案はないのか?」

俺はタツオに聞く。


「ない」


俺は、レゾナンスシェイクという技を習得したようだ。



俺たちは、例の如くギルドで借りた台車にストーンバイソンの巨体を乗せて何とかギルドに運び込んだ。


その巨体を見て、冒険者たちから喝采が上がる。

が、俺が欲しいのは報酬でも賞賛でもなく、

肉だ。


手続きを済ませ、報酬を受け取ると、巨体を寮に移動させた。

俺は、腕組みをしながら考える。

問題は調理だ。

ローディン曰く、脂が多いので、焼いて塩を振れば十分旨そうとのことだが、何か違う気がする。


バリエーションが欲しい。

俺はタツオに聞く。

「牛肉に合う調味料はないか?」


タツオは答える。

「何でも合うと思うけど、ウチはワサビで食べたりしてたよ」


ワサビ……!!


食べたことはないが、テレビで見たことはある。

是非とも試してみたい。


ワサビは渓流で育つと聞いたことがある。

俺は調理の準備をローディンに任せて、

ワサビ探しに飛び出した。

植物大臣タツオも当然強制同行だ。


しかし、川沿いを一時間程探索したが、式による呼び込みにも反応はなく、見つからない。


「ワサビは、この土地じゃ育たないのかもね。野生の物は希少って聞いたことあるし」

タツオが言った。


俺は落胆する。

仕方ない。今回は諦めよう……。


俺たちは寮に戻ると、ストーンバイソンのステーキを試食した。


旨い。旨すぎて涙が出る。


これにワサビをつけたら、どんな味がしたのだろう。


ワサビを見つけるまで肉を保存しておきたいが、当然この世界に冷蔵庫はない。

早めに食べるか、残りは干し肉にでもするしかない。

いつか、そのあたりも何とかしなければ。


実地訓練開始の日が近づいて来た。

こうやって書くと、全然訓練していなかったと思われるかもしれないが、やることはやっていた。


授業以外に、自主訓練も行っていた。

俺は各色のレベルを上げることにした。

タツオにイメージを聞きながら、赤の式を鍛える。


掌に集めた式力を、火に変える。

最初はライターくらいの火しか出なかったが、

ガスコンロくらいの火力は出せるようになった。

何式相当かは知らないが、十分な進歩だ。

見よう見まねで赤の基礎をここまで持ってきた俺を、誰か褒めてほしい。


現状、俺が使えるのは青、茶、赤。

今後、紫はミサキ、黄はサイレス、緑はイエナに教わっていければ、全色使えるようになるかもしれない。


タツオは引き続き制御の訓練を続けていた。


感覚的だが、自然の力を借りて発動する式術は、

イメージの力が重要な気がする。

論理より、感覚。

考えるなら、感じろ、と言ったのは誰だったっけ。


完全理系脳のタツオはその辺りの機微が弱そうなので、俺はまず茶の式を教えることにした。

茶は赤の派生色だし、タツオも使えるようになるかもしれない。


まずは、土を集める。

それを水で濡らす。

タツオは青は全く発動出来ないので、ここまでは俺のパートだ。


その後、その土を手の上で器をイメージする。

タツオは苦戦していたが、慣れてくるとなんとなく形を作れるようになってきた。

その後、赤の熱で土を焼き、固める。

火力調整がタツオの課題だ。


俺は数々の作品作りの中で、かなりコツを掴んだ。

市販しても良いレベルの仕上がりになっている。


タツオは、子供が作った歪な陶器のようになっている。

少し焼きすぎて、ひび割れているが、なんとか作品になった。


「もはや陶芸教室だな」

俺は呟いた。


俺は式の多様化を、タツオは制御と調整を。

それぞれの課題にきちんと向き合っていた。


風呂やメシのことだけ考えていたわけではない。




俺たちの個人訓練は続いた。

その日は、タツオの高出力コントロールを訓練するため、学校の滝に来ていた。ここなら、最悪火事にはならない。


タツオがフレアバーストの出力を最大まで高めていると、


——パキン。


「……あ」


突然、タツオの眼鏡が、砕けた。

火力の影響か?

長く伸びた髪も、少し焼けている。


タツオは壊れたメガネを外す。

「あれ?視力良くなってるかも。見える」


なんでいままで気づかなかったんだよ。

タツオらしいが。


その夜。寮に帰ると、ローディンからナイフを借りた。

さすがに金属の生成は出来ない。


タツオの燃えてしまった髪を切るつもりだったが、

せっかくならこのボサボサの髪を整えたいと思い始めた。


「せっかくだし、切ってやるよ。ていうか、お前髪の色、

真っ赤になったな……」


気がつけばタツオの髪は真っ赤に染まっていた。

式の発動数と関係あるのか?

俺は、元より真っ白だが……


何はともあれ、散髪である。

手先は器用な方だ。やってみよう。

俺の心の奥の美容師が目覚めた。


ナイフ一本での散髪は大変だったが、大分スッキリした。


タツオのぼさぼさだった髪がさっぱりし、顔立ちが露わになる。


毎日一緒にいるから気づかなかったが、やはり、コイツ、引き締まっている。

最早ポッチャリの要素はない。


メガネを外し、髪を切ったその姿は、まるでアイドルのような美少年だった。


おいおい。勘弁してくれ。

火力最強、運動神経抜群、そして美少年とくれば、

主人公属性が強すぎる。


認めないぞ。

この物語の主人公は俺だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ