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Teolod —異世界転移に巻き込まれた俺は、冒険する羽目になった—  作者: ヨダカカツキ


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第四話 模擬戦と、紫の少女と。

入学からひと月が経った。

生徒は少しずつ離脱し、同期は十五人に減っていた。

他の生徒との交流はあまりなかったが、

一人また一人と減っていくのは、少し寂しい気がした。

今日は、全科合同での模擬戦訓練が実施される。


教官からの掲示にはこう書いてあった。


全科合同模擬戦

注意事項:相手に怪我をさせる直接攻撃は禁止

(刃物・高熱・衝撃の直撃など)


要するに、“戦い方の授業”だ。


訓練場は学校の裏手、森と川に囲まれた広場だった。

周囲には岩と倒木が配置され、遮蔽物が多い。

模擬戦に適した場所がきちんと用意されている。


集合場所に着くと、すでに同期がぞろぞろ集まっている。

青、黄、緑。色んな色がいる。

髪の色だけで視界が賑やかだ。

その中に、彼女はいた。


紫のツインテール。

ミサキが腕を組んで、俺を見ている。


目が合った瞬間、俺の脳が「面倒」を確信した。

目を逸らすが、見逃してくれなかったようだ。


「おい」


案の定、ミサキはずかずか近づいてきた。


「この前のこと、忘れたとは言わせねえべ?」


「えーと、何のことだ?」


俺はとぼけた。

まともに向き合うと、疲れそうだ。


ミサキの眉が吊り上がる。


「いきなり出身地聞いてきた、あのメガネ!あいつはどこだべ!」


あいつ、と言いながら、視線が俺の背後に行く。

が、そこにタツオはいない。

今、タツオは用を足している。


面倒だが、ここは俺が受け止めておいたほうがいいか……


「悪かった。あいつ、デリカシーが十式レベルなんだ」


「意味わかんねえ例えやめろ!」


ミサキが叫ぶ。

周囲の視線が刺さる。俺も恥ずかしい。

こいつ、本当に十六歳か?

どう見ても精神年齢が十歳くらいに感じる。


俺は一歩引いて、言い直した。


「オッケー、ちゃんと謝る。この前は悪かった。

タツオは、人を“研究対象”みたいに見る癖がある。

俺から叱っておくよ」


ミサキは口を尖らせたまま、数秒黙った。

それから、小さく頷いた。


「…わかったべ」


「俺はユイト。ユイト=カタギリだ。よろしく」


「……よろしく、だべ」


お、雪解けか?と思った瞬間。


「お、いた」


背後から軽い声。

振り返ると、タツオが手を振りながらやって来た。

遅刻ギリギリ。なのに堂々としている。


「あ、この前のオウシュウの」


開口一番、また逆撫でする。


「……またそれだべ!」


ミサキが噛みつく。


俺は即座にタツオの前に割って入った。


「タツオ。とりあえず謝れ」


「え、何を?」


「デリカシーのなさを」


「自覚ないけど」


「自覚しろ」


タツオは一瞬だけ考えて、淡々と言った。


「全然悪意はないんだけど、気分を害したならごめん」


悪意がないのが一番厄介なんだよな。

俺は心の中でそう思った。


だが、ミサキの反応は意外だった。

ぷいっと顔を逸らして、


「……まぁ、いいべ。次変なこと言ったら許さねえけど」


とだけ言った。


——お。

こいつ、怒り続けるタイプじゃない。案外、話が早いかもしれない。


その時、教官の声が広場に響いた。


「静かにしろ。班を組む」


全員の視線が前へ集まる。

教官は木札を手に、淡々と続けた。


「今日から基礎訓練は“班単位”で回す。

三人一組で班を組み、役割分担を決めろ」


ざわり、と空気が動く。

チーム戦。相性が大切だ。


教官が言う。


「掲示にあった通り、相手に怪我をさせる直接攻撃は禁止。

周りの自然と式を利用し、他の班から旗を奪え」


戦略と、式の有効活用。

まさに実践訓練に近い。


班を作れ、と言う指示が出るや否や、

ミサキが俺たちの前に立つ。


「さ、組むべ」


まるで合意形成がなされているかのような物言いだ。


「おい、勝手に…」

俺が言い終わる前に、ミサキは言った?


「私以外に組んでくれる人がいるか?暴走赤やヘンテコ白と」


…いや、お前も口悪いな。

的を得ているが。

ある意味、俺たちは学校で浮いていた。

タツオの防火壁破壊で畏怖を。

俺の生活改善プログラムで異質感を。

むしろ、浮くべくして浮いている。


こうして話しかけてくれるだけで、ミサキは貴重な存在なのかもしれない。


俺は反論できなかった。


教官がこちらを見る。


「班、決まったか」


ミサキが即答した。


「決まったべ」


俺は、流れに身を任せることにした。



模擬戦のルールは単純だった。


一班につき一つの旗が配られ、

それぞれ陣地にそれを設置。

森の中に点在する五つの旗を奪い合う。

相手を倒すのではない。


守って、奪う。


チーム戦の基本だ。

旗を奪われた班は終了。

最後まで残った班の勝ちだ。


まずは教官から役割分担、チーム名、陣地の設定を決めるように指示を受ける。


「役割、決めるべ」


ミサキが言う。


「チーム名どうする?」

とタツオがワクワクしながら言うが、勝手に決めておけ!とミサキに一蹴される。


「俺は戦闘向きじゃないからな……」


「ユイト、土と水使えるべ?」


なんでそんなこと知ってるんだこいつ。


「まあ……」


「じゃあ、壁を作って旗を防衛。川の水を使って、相手の侵入を食い止める」



指示が明確である。

こいつ、リーダータイプなのか?


ミサキはタツオを見る。


「メガネは…直接攻撃は禁止だからな」


「わかってるよ。僕は式は使わないよ」


 タツオが珍しく真面目な声で言った。


「君、紫で幻惑、混乱が出来るでしょ?

その隙に、僕は旗を獲りにいくよ」


意外だった。

タツオが自分から“火を撃つ”以外の役割を口にしたのは初めてだ。


ミサキも、ほんの一瞬だけ驚いた顔をした。

すぐに鼻で笑って言う。


「動けるのか?……その体で」


「まぁ、見ててよ」


タツオが淡々と言った。

しかし、よくよく聞いているとミサキも相当デリカシーがない気がするぞ。


役割が決まると、陣地決め。

タツオは、僕はチーム名決めて報告してくるね、と言って本部テントに向かった。


まともなチーム名になる気がしないが。


俺とミサキは話し合い、川の中洲を陣地にすることした。

敵からは丸見えの場所だが、一方、索敵の必要もない。


各班の作戦会議の時間が終わると、一度本部テントに集まる。


「それぞれのチーム名を旗に書いておいた。

これがつまり、チームの命となる。

各班、式を駆使して守り抜け」


タツオが旗を持ってくる。

旗には、英字でForeignerと書いてある。


「フォーリナー…?」

俺が聞くと、タツオが答える。


「僕たち全員、テオロッド出身じゃないでしょ。

外国人の集まり。ぴったりでしょ」


なるほど。思ったより悪くない。

タツオブラザーズとかにされると思っていた。


そんなやりとりをしていると、開始の合図が鳴った。


ミサキとタツオは二人で旗を奪いに向かう。

俺はあっという間に一人ぼっちになる。

心細いが、任された任務をこなそう。


まず、俺は土の式術で旗を囲う防壁を作った。

これで、簡単には奪われないはずだ。


——程なくして、陣地がバレバレなウチの旗を狙って、別の班が襲ってきた。


ある意味予想通りだが。

敵は、全部で四人いる。


俺は、水の式を発動させ、川の流れをコントロールした。

直接攻撃が禁止されているなら……

環境を変えてしまえばいい。


旗を奪いにやってくる敵は、

急に激流になった川に流されていく。

急流の流れるプール。

最強の堀の完成である。


四人は諦めたのか、別の陣地に向かった。

それから、遠くからぐわー、とか、やられたー、とかの声が聞こえてくるのを聞きながら、俺は立っていた。


……暇だ。


俺も攻撃担当にすればよかったかな、などと考えていると、タツオが旗を二本持って帰ってきた。


「敵は残り一班なんだけど、苦戦してる。

ブルーオーダーって言うチームで、ミサキの相性が悪い。

ユイト、総力戦で攻め込もう」


タツオに案内され、最後の班のところへ辿り着く。

こちらは、森と川の間に陣取っているようだ。

周囲の倒木を重ねて、砦のようにしている。

辺りは紫の霧が漂っている。

ミサキの幻惑だろうか。


ブルーオーダーは青の高位者がいるらしく、

水蒸気でその幻惑を打ち消している。

なるほど。

紫を相手には、こうやって戦うのか。

敵ながら勉強になる。


「ユイト、来たか。膠着状態だ。

このままじゃらちがあかないから、代わるべ」

そう言ってミサキは後ろに下がった。

俺たちの陣の方へ、少しずつ後退りする。

状況判断と切り替えが早い。


とはいえ、どうしたものか。


俺は、この状況の打破を考える。

敵は、二人が倒木砦の中。

一人が表に出て、ミサキの幻惑を打ち消している。

恐らく、ブルーオーダーのリーダーだろう。

専守防衛しつつ、隙を見ている形だ。


「ミサキ、中にいるやつの式色は分かるか?」

俺は聞いた。


「一人は緑。木を自在に操っている。もう一人は、黄。

さっき、川を使って電流を流してきた」


ふむ。緑が防御担当、青と黄が状況に応じて入れ替わるシステムかな。

とりあえず、あの倒木砦を何とかしないとどうにもならない。


「タツオ。あの倒木、燃やせるか?」


「怪我させたらアウトなんじゃないの?」

タツオは、火力調整に自信がないのか、そう言った。


「直接は危険がある。だから、飛び火レベルでいい。

じわじわと燃える形で。最悪、向こうには緑がいるし、回復も出来るだろう」


「りょーかい。これくらいかな…」


タツオは、倒木砦の手前に、弱めのフレアショットを放った。倒木に火が移り、燃え始める。

幻惑を打ち消していた青の式者は振り返り、消火を始める。


「ミサキ、幻惑を出してくれ」


幻惑の打ち消しと、消火。

両立は出来ないだろう。

青の式者は狼狽えて、中の仲間に救援を呼びかける。

「ノエル、雷で応戦してくれ!」

「無理だ、水を伝って俺らが感電する!」


紫の幻惑が、砦を包む。

今だ。


「タツオ、旗を」

俺が言うと、想像以上のスピードでタツオは駆け出した。

……速い。


そう言えば、身体測定でも驚きの結果を出していた。

人は見かけによらないものである。


ブルーオーダーの面々は、幻惑の中を突っ走るタツオを捉えられず、侵入を許す。


タツオが旗を掲げながら帰ってくる。


俺とミサキは目を合わせ、ハイタッチをする。


「優勝は、三班。役割分担が機能したな。良い連携だった」

教官からの賛辞を得て、模擬戦は終了した。


終了後、最後に戦ったブルーオーダーのメンバーがやって来た。

頼んでもいないのに、自己紹介をはじめる。

話しかけてきたのは、青の式者だ。


「レイン=アルヴァスだ。君は、ユイト=カタギリだな」

雷はノエル、緑はフィル、と名乗った。


レインという男は青の授業で何度か見たことがあるが、

話したことはない。

肩まである青の長髪をなびかせ、握手を求められた。


「完全にやられたよ。こちらは攻め手に欠けていた。

——次の実地訓練でまた会おう」


レインはそう言うと、颯爽と去っていった。

……なんだかキザな男だな。


どうやら、ライバル視されたようだ。


簡単な表彰を終えると、

ミサキは満足そうな顔をして、両手を腰に当てている。


「お前ら、よくやったべ。ユイトの守りと機転、タツオの足と炎。合格点だべ」


その偉そうな物言いに笑いそうになったが、

俺はこらえて、ミサキを持ち上げるように言った。


「ありがとうございます。

リーダーも、指示が的確でしたよ」


「リ、リーダー!?私がリーダーでいいんだべか!?」

想像以上に嬉しそうである。


「えー、僕がリーダーじゃないの?」

タツオは不服そうにしている。


精神年齢小学生の小競り合いである。


「オーケー、じゃあ、次の班活動の時に活躍した方をリーダーにしよう」


俺が言うと、二人は睨み合いながら、

負けないべ、などと言い合っている。


……扱いやすくて助かるな。


模擬戦の片付けを終えると、教官が全体に言った。


「一ヶ月後から、卒業に向けた実地訓練に入る。

派生色、緑、紫、茶の訓練だ。

また同じ班で行う。それまで、鍛錬しておくように」


寮への帰り道。

ミサキが俺たちの真ん中を歩きながら言った。


「お前ら、ちゃんと訓練するべよ。特にタツオ。

あんた、赤以外、からきしダメだべ」


確かに、今度の試練はタツオが一番相性悪そうだ。

タツオは、不満そうな顔をして言った。

「まあ、次回リーダーの座は頂くから。お楽しみに」


二人はまた言い争いを始める。


もういいや。放っておこう。

俺は、それを見ながら、過ごし方を考えていた。

一ヶ月。長いようで、短い。

俺も大分出来ることは増えたが、タツオやミサキと比べると今ひとつパンチが弱い。

何か、武器となるものを見つけなければ。


とりあえず、今日は疲れた。

寮に帰ったら、秘密の風呂場に行ってゆっくりしよう。


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