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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ


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エピソード・オブ・ミサキ

ミサキは、この国を好きだった。


雪は降るし、冬になれば雪かきが待っている。

老若男女が、生活導線を確保するために毎朝雪をかく。


——腰が痛いべ。


赤の高位式者でもいれば、一瞬で溶かすことはできるのだろうが、そんなに都合よくいない。

そもそも、ほとんどの人が青の式者か、

式術の発動しない〝無色〟の国だ。


寒いし、不便な国、だとは思う。


それでも、困った時には自然と誰かが手を差し伸べる。

見返りなんて考えず、当たり前のように助け合う。

そういう人の温かさは、他のどの国にも負けないと、ミサキは思っていた。


それに、食事も美味しい。

農業が発展しているこの国では、

野菜はもちろん、酪農の発展で肉も食べられる。

他の国では、小麦で作ったパンばかりと聞いたことがある。


それでも。


ミサキは、どうしても都会に憧れてしまった。


同世代の男たちは、毎日雪合戦をしたり、くだらないことで喧嘩をしたり。

それはそれで楽しいのだが、どうしても子供っぽく見えてしまう。


国や人々は好きだが、話が合わないのだ。


——いや、私が大人ぶってるだけかもしれないけど。


都会に行けば、もっと大人で、落ち着いていて、

できれば背が高くて、できれば声が低くて、

できれば私の話をちゃんと聞いてくれる——

そんなイケメンに出会えるかもしれない。


そんな妄想を繰り広げながら、

ミサキは悶々と日々を過ごしていた。



ミサキが、紫の式が発動したのは、三歳の時だった。

オウシュウでは、ほとんどの人間が青の式者として生まれる。

ミサキの両親も、兄弟も全員青。

親戚に何人か〝無色〟がいるくらいだ。


ミサキが生まれた時。

髪がわずかに紫がかっているのを見て、親戚一同は大騒ぎになったらしい。


この国では、時折、高い式力を持つ子供が生まれる。

決まって、その子供は青以外の式者だ。


そうした子供は「神童」と呼ばれ、

国の管理下で、特別な学校に入り、

英才教育を受けることになる。

費用はすべて国持ち。

国を代表する式者として、拒否権はほとんどない。


ミサキも、御多分に洩れず、その道を歩むことになった。

神童の中でも、成長速度が群を抜いていた。

褒められ、期待され、当然のように結果を求められる。


そんなミサキのもとに、留学の話が舞い込んだのは、

まさに渡りに船だった。


しかも、全寮制。


「行きます」


ミサキは、迷わず手を挙げた。


憧れの都市生活。

憧れの、都会の空気。

そして——まだ見ぬイケメン。


(私の圧倒的な式力に惹かれて、

 年上のイケメンが恋に落ちたりとか……)


そんなことを考えているあたり、

ミサキはまだ、十分に十六歳だった。


だが、この機会を逃す気はなかった。


ミサキは、一人、入学試験を受けるためにテオロッドへ向かった。


国直属の兵士による護衛。

用意された馬車。

揺れる車内は暖かく、毛布まである。


(……なにこれ、完全にVIPだべ)


窓の外を流れる雪景色を眺めながら、ミサキは少しだけ胸を張った。


(卒業したら、あいつらに何か買って帰ってやるべ)


六人いる兄妹の顔を思い浮かべる。

文句を言いながらも、きっと喜ぶだろう。


テオロッドに到着したのは、入学試験の前日だった。

ミサキはまず、その人の多さに驚いた。

行き交う人々や行商人、馬車の貴族たち。

まるでオウシュウ中の人を集めたような賑やかさだ。


ミサキは、目を輝かせてそれらを見渡した。


これだけ人がいれば。


——運命の人も、いるかもしれない。


新たな出会いに胸をときめかせ、

その日はなかなか寝付けなかった。


翌日。入学試験の日。

同行してくれたオウシュウの護衛たちを見送ると、

ミサキは一人試験会場へ向かった。


留学生のミサキは、事実上試験免除ではあるが、

試験結果はオウシュウへも報告される。


絶対に、首席合格だべ。


ミサキは心に誓っていた。

国の費用を使い、国の送迎でここまでやってきた。

期待に応えなければいけない。


不純な動機で留学したものの、オウシュウという国に恩返しをしたいという気持ちに嘘はなかった。


まず、身体測定。


——私にとっての鬼門だべ。


幼い頃から式術に特化した教育を受けてきたミサキは、運動が苦手だった。

それでもなんとかこなし、平均レベルの点数を獲得した。


次は、式位測定。


これには、自信があった。

はじめて見る大きな測定装置に、ミサキは乗った。


主式 紫

副式 青


赤 九式

青 六式

黄 九式

緑 六式

紫 四式

茶 八式


結果は、もちろん合格。

希少な紫の式で、かつ青、緑も高いレベル。

教官たちも舌を巻いていた。


ふん、当たり前だべ。


しかし、その優越感は、直後消されることになる。


太ったメガネの、見るからにイケていない男が。


——赤の二式を叩き出した。


赤の、しかも二式…?


何かの間違いだべ?


その直後に測定装置に乗った男は、

測定不能となり、これまたざわついている。


やっぱり、装置の故障だべ。

でも、髪が…白?

染めてるんだべか。


ミサキはそう思った。

それから、なんとなくこの二人組に注目してしまっていた。


最後は、主式出力試験。


試験は、基本三色の赤、青、黄から行われた。

派生三色である、緑、茶、紫は後半。


ミサキは、ライバルとなる人物の見定めをすることにした。


まずは赤。

何人か、七式相当のやつはいるが、そこまで飛び抜けたやつはいない。

所詮学校か、と思っていると、先ほどの赤の二式の男が現れた。

隣の男に「タツオ」と呼ばれているメガネ。


——お手並み拝見、だべ。


すると。


タツオはとてつもない火球を放ち、

耐火防壁を——破壊した。


——は?なんだべ、それ。


ミサキは焦った。


あんな化け物みたいなやつが、同じ学年にいたら、

私の首席が危うい。


同じようなことを考えたのか、

それとも単に力不足を感じたのか。

赤の受験者たちの多くが、帰ってしまった。


ミサキは、都会の恐ろしさを肌で感じていた。



続いて、青の試験。


先ほど測定不能騒ぎを起こした男が、

滝壺に向かっている。


青い髪が滝の下に並ぶ中、一人だけ頭は真っ白。


なんだ、やっぱり、髪は色を染めてるのか。

そう思っていた。


この男も、そこそこ青を使えるようだが、

そこまで式力が強いわけではない。


むしろ、青の試験の中では、レインという長髪の男が気になった。恐らく…現時点で五式くらいの力はありそうだ。


滝の流れが真っ二つに割れるのなんて、見たことがない。


その後、各色の試験は続いたが、特に目ぼしいライバルは見つからなかった。


そして、いよいよ、私の出番。

見せ場だべ。


紫の試験は、森で行われた。

野生の動物を相手に、幻惑を実践する、というものだ。


私は鼻を鳴らして、試験に向かった。


——しかし。


「…なんで誰もいないんだべ!!」


試験にいたのは、試験監督ひとりと、ミサキだけだった。


「ああ。紫の受験者は、今回君一人だから」

試験監督は答えた。


「そこじゃねえべ…!なんで観客がいない!!」

ミサキは、怒りに震えながら言った。


「皆、自分の試験が終わったら、帰っちゃったみたいだね。

まぁ、別に他の人の試験を見る義務はないから。

じゃあ、はじめようか」

なんだか試験監督も若造だし…

私…舐められてねえか?


その後。

ミサキは森にいる動物を一瞬で幻惑させ、

試験監督を驚かせた。

怒りの力が、式力を増幅させていた。


「すごいね。君、三式に近いよ、もう。

首席合格かもよ?あ、でも、赤の二式がいたっけ」


試験監督の拍手が、虚しく響く。


結果は合格。


後日、赤の二式は要観察扱いとなったため、

ミサキは繰り上がりで首席となったと聞かされた。


——屈辱だべ…。


訓練して、必ず首席で卒業してやる。

ミサキは、心に誓った。












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