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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ
第二章

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第十八話 王の真意と、大地の恵みと。

再び謁見の間に通されたとき、空気は先ほどより重かった。

アルヴァルド王は玉座に座り、静かにこちらを見ている。


「レムナントのリーダー、ラグナに会いました」

俺は王に向かってそう告げた。


「そうか。……どう思った?」

王は頬杖をつきながら、言った。

王の問いは短い。

少しだけ迷い、それでも正直に言った。


「悪人には見えませんでした」

王は、苦く笑った。


「そうだろうな」

その一言に、諦めと理解が混ざっている。


イエナが一歩前へ出る。


「レムナントは、奴隷貿易の廃止を掲げていました。

……この国は、奴隷を輸出しているのですか?」


長い沈黙。

王は目を閉じた。


「……している」

玉座の間が静まり返る。

「察しているだろうが、ブレイヴェンには金がない。

山岳国家で農地は少ない。交易も細い。

国家としての外貨獲得手段は限られている」

王の声は、淡々としていた。


「貧民が増え、仕事がなくなり、税収が減る。

治安は悪化し、兵も雇えない。

その穴を埋めるために……犯罪者を売っている」

言い訳ではない、ただの現実。

だが、王は苦しそうな顔をしている。


「本当は……やめたいと思っているんじゃないですか?」

イエナの問いは、静かだった。


王は目を開く。

「……思っている」


「若い頃の私は、ラグナと同じ考えだった。

貧困をなくし、身分差を縮めると本気で信じていた」


王はゆっくり立ち上がる。


「だが、王位を継いで分かった。理想だけでは国は回らない」

王は、拳を握った。

拳がわずかに震えている。

「奴隷貿易を止めれば、さらに多くの民が飢える。

そうすれば……国はもう滅びに向かう」


俺は息を呑んだ。

ラグナは正しい。

だが、王も間違っていない。


「では、レムナントを止めたい理由は何ですか」

俺は聞いた。


「暴力という、手段だ」

王は即答した。


「ラグナの、レムナントの怒りは理解できる。

だが——暴力という手段はいけない。

これが正義になってしまえば、

国家間の暴力を……

戦争を正当化することになってしまう」


王が言っていることは、正しいように感じる。

王も、ラグナも、ブレイヴェンのことを真剣に考えている。


「レムナントの活動をこのまま見過ごせない。

だが、抑え込む力を、我々は持っていない。

このままでは連邦入りを選ばざるを得なくなる」


「……あなたの理想は、なんですか?」


俺の問いに、王は少し考える。

玉座の間に、王の本音が響いた。


「暴力も、貧困も、奴隷もない国だ。

人々が健やかに、平和に暮らせる国。

だが、それを実現する力も、経済力も、

今のブレイヴェンにはない」


力がない。

その言葉が、胸に刺さる。


だが——本当に、何もないのだろうか?


「俺たちに、少し時間をください」

気づけば、口にしていた。


王の目が鋭くなる。


「何の時間だ」


「まだ具体策はありません。

ですが……この国に本当に何もないのか。

それを、自分の目で確かめたい」


特に考えがあるわけじゃない。

でも、王とラグナの理想は、同じことを言っているようにも感じる。

何もせずに「どちらかを潰す」選択はしたくない。


王はしばらく俺を見つめていた。

やがて、低く言う。

「一週間待とう。

その間、私は連邦との交渉を引き延ばす」


時間は少ない。

だが、ゼロではない。

王は続けた。


「だが何も見つからなければ、私は現実を選ぶしかない。

その時は——」


「分かっています」


俺は頷いた。


王は最後に言った。

「理想を語るのは簡単だが、現実は……厳しいぞ」


その言葉は、重かった。




王宮を出ると、空は曇っていた。


「……どうするべ」


ミサキが聞く。

正直、何も思いついていない。


「まずは、歩こう」

俺は言った。


「この国に、本当に何もないのか。それを探す」


タツオがにやりと笑う。

「宝探しだね」


イエナは静かに頷いた。

「時間は限られています。効率的に回りましょう」


谷の街を見下ろす。


ここには、今、絶望がひしめいている。

だが、まだ掘られていない可能性もあるはずだ。


そう、自分に言い聞かせた。



ブレイヴェン探索は、想像以上に地味だった。


鉱山は小規模。

森林資源はあるが、輸送路が弱い。

農地は山間の細い盆地だけ。


「やっぱり、王が言ってた通り……厳しい国だね」


イエナが地図を見ながら言う。


川はある。

だが急流だ。

平地が少ない。


「でも、水はきれいだべ」

ミサキがしゃがみ込み、川の水をすくう。


透明だ。冷たい。


その時だった。

川沿いの岩陰に、妙な緑が見えた。


「……ん?」


俺は近づいた。


ギザギザの葉。太い茎。

湿った石の間に群生している。


これは…まさか。


「うそだろ……」


手が震える。

俺は、念の為、理系王、植物博士のタツオを呼ぶ。


「あ、わさびだ」

タツオが言った。


「わさび?」


イエナは聞き慣れない顔だ。


俺は岩の間から一本引き抜いた。

根を軽くこすり、匂いを嗅ぐ。


ツン、と鼻に抜ける刺激。


「本物だ……!」


俺は思わず叫んだ。

鼻を抜ける刺激に、涙が出た。

だがそれは辛さのせいじゃない。

可能性の匂いだった。


最初に浮かんだのは、寮の料理長、

ローディンの顔だった。


ローディン、やったぞ……!

これとストーンバイソンの肉を合わせれば……

俺は涎を飲み込んだ。


「これは、調味料になる。

水のきれいな山奥でしか育たない」

俺は、イエナにそれを嗅がせる。

驚き、少し目に涙を浮かべる。


「けほっ……食べられるんですか?これ。

この国特有、ということですか?」


「少なくとも、栽培の条件はぴったりだ」


清流。冷水。山岳地帯。


ブレイヴェンそのものだ。


ああ、せっかくわさびがあるなら色んな料理に使いたい。


その時。


俺の脳内で、何かがつながる。

山。水。寒冷地。


——そば。


「わさびといえば、そばの実もさっきあったね」

タツオが言った。


「なんだと……?」

俺は聞き返す。


「三角の種。群生してた。あれ、たぶんそばだよ」

俺は両肩を掴んだ。


「どこだ」


「そんな詰め寄らないでよ」


タツオは苦笑しながら、案内を始めた。




そこから、少し離れた山の斜面。痩せた土地。

そこに、背の低い植物が群生していた。

小さな白い花。三角形の種。


俺はしゃがみ込み、指で触れた。


「……これが、そばなのか?」


タツオが言う。

「おじいちゃんの家、蕎麦屋だったから。

間違いないと思うよ」


俺は、天を見上げ、その恵みに感謝した。


「そばは、痩せた土地でも育つからね」

タツオが言った。


わさび。そば。


「……あとは、めんつゆが欲しい」

俺は呟く。


「醤油はハードル高そうだね」

タツオが言う。


「残念ながら、醤油を作る時間はなさそうだな……。

最低限、塩味は必要だな」


ブレイヴェンは海がない。

塩は高価だ。

だが、山岳地帯。


「塩泉なら、あるんじゃないか?」

俺は言った。


俺たちは、わさび、そばの実を確保すると、

探索を続けた。


川の上流。

湯気のような蒸気。

岩場に、わずかに白い結晶がこびりついている。


俺は指で触れ、舐めた。

「……しょっぱい」


やはり。

これを煮詰めれば、塩ができるはずだ。

今は、時間がない。

俺は、式の力で塩を精製する。

時短式力鍋、である。

右手に塩ができあがる。


イエナが目を見開く。


「温泉、入っていく?」

タツオが言った。

確かに。塩に夢中だったが、

ゆっくり温泉にも入りたい。


ん……?温泉?


俺は周囲を見渡した。


湧き出る温水。冷たい山風。絶景。


「これは……磨けば化けるな」


翌日から、俺たちは作業に取り掛かった。

イエナとミサキにはわさびとそばの実の収集を依頼し、

俺は温泉の造成をはじめる。


名付けて、〝スパリゾートブレイヴェン〟計画。


天然の源泉が点在するこの場所に、

岩を積み、湯の流れを調整する。

茶の式で作ったタイルを敷き詰め、洗い場を作る。


式術学校でのDIY経験が、存分に生かされていく。


タツオは、俺が作った石臼で、集まったそばの実をひいていく。


「粉は粗めの方がいいかな。割合どうしよう」

慣れた手つきで作業している。

色んなスキルが出てくるな、この男は。


粉ができる。

水と混ぜる。

こねる。

延ばす。

切る。


異世界そばが完成した。


スープは、川で釣った川魚の出汁と塩泉の塩。

わさびをすり下ろす。


いざ、実食タイム。


「……いけるか?」

俺たちは、せーの、で一口目を食べる。


タツオが目を見開く。


「……うまい」


ミサキも頷く。

わさびが沁みるのか、少し泣いている。


イエナは静かに頷く。


俺は言った。

「これを産業にしよう」


山岳清流蕎麦。

天然わさび。

塩泉温泉。


「食と観光。ブレイヴェンを〝観光立国〟にする」


「奴隷に頼らない、外貨獲得手段、ですね」

イエナが言った。


タツオが続ける。

「再現性ありそうだしね」


俺は川を見た。


何もない国なんかじゃない。

まだ、見つかっていないだけだ。


「王に、ラグナに提案しよう」


ブレイヴェン改革案。

彼らを説得し、

アルヴァルド王には奴隷貿易を、

ラグナには暴力を、強盗をやめさせる。


そのためには、フィオラの協力が必要だ。


俺は、残っていたそばをかきこんだ。


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