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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ
第一章

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第十二話 帰還と、それぞれの覚悟と。

テオロッドの城門が見えた瞬間、

胸の奥に溜まっていたものが、ようやく少しだけ緩んだ。


俺たちは、夜通し駆けた。

積荷がない分、想定より早く着くことができた。

それでも到着は昼を過ぎていた。


馬は、よく訓練されていたのだろう。

懸命に走ってくれた。

俺は、下馬すると、頑張ってくれた二頭の頭をなでた。


なんとか、帰ってくることができた。


だが、安堵している場合ではない。


俺たちは馬を降りるなり、王宮へと駆け込んだ。

事態を察していたのか、すでに王族は集まっていた。

王宮内も、いつもより慌ただしい気がする。


事情を説明するための前置きなど、必要なかった。


「すみません。アレクシオが……さらわれました」

俺は、王に告げた。

玉座の間に、重い沈黙が落ちる。


最初に言葉を発したのは、ガルフだった。


「……だから言ったんだ!」


怒号とともに、拳が石壁に叩きつけられる。

鈍い音が響き、兵たちが一斉に身構えた。


「子供たちを、行かせるべきじゃなかった」


怒りと後悔が混じった声。

大人としての叫びだった。


イエナは俯き、拳を強く握りしめている。

俺は、何も言えなかった。


——俺の責任だ。守れなかった。



「やめろ、ガルフ」


静かに、だがはっきりとした声が、その場を制した。


レオニス=テオロッド王だ。


「気持ちは分かる。だが、声を荒げても何も変わらない」


ガルフは歯を食いしばり、黙り込んだ。


レオニスはゆっくりと立ち上がり、俺に向かって言った。

「ユイト。君たちが気に病む必要はない」


その言葉に、俺は思わず顔を上げた。


「私は、アレクシオが君たちについていくことを予想していた。そして、この旅で、大きく成長することも、だ。

アレクシオの同行を、黙認していたのは、私だ」


一拍、間を置く。


「つまりこれは、私の責任だ」

王が、はっきりとそう言った。


誰もが息を呑む。


レオニスは続けた。

「君たちが戻る、少し前のことだ」


一通の書状が、侍従によって差し出される。

「アークネイヴァーから、書状が届いた」


早い。早すぎる。

——まるで、あらかじめ準備していたかのようだ。


レオニスが内容を読み上げる。

内容は、簡潔だった。

アレクシオの身柄は確保している。

身の安全は保証する。

要求に応じれば解放する。


「つまり」

レオニスは淡々と告げる。

「アレクシオは無事だ」


俺は、思わず息を吐いた。

胸の奥に張り付いていた重石が、

ほんの少しだけ軽くなる。


「アークネイヴァーの要求は、何ですか?」

俺は、そう聞いた。


レオニスは即答した。

「二つある」

指を一本、立てる。


「一つ。テオロッドが、アークネイヴァーの属国となること」


玉座の間が、ざわめいた。

さらに、もう一本。


「二つ。式術研究所、および式術学校が保有する――すべての研究情報を公開すること」


「…ふざけている」

ガルフが低く声を出す。

「そんな条件、飲めるわけがない。

それは……この国の根幹を差し出せと言っているのと同じだ」


その通りだ。


属国化。

式術情報の全面開示。


それはつまり、この式術国家の死を意味する。


俺は、静かに問いかけた。

「……宣戦布告、と受け取っていいんでしょうか」


レオニスは、まっすぐに俺を見た。

「ああ」

迷いのない表情。

「無論、この無理な要求に応じるつもりはない。だが——」

「アレクシオは、必ず取り返す」


力強い声だった。


「誤解しないでほしい。これは戦争ではない。

これは——正当防衛だ」

レオニスは、玉座の前に立ち上がった。


「アークネイヴァーのやり方は、

明確に諸国間の平和盟約に反している。ここで野放しにすれば、次に犠牲になるのは別の国だ」

一拍、置いて続ける。

「世界の平和は、確実に崩れる」


王は、俺たちに向き直った。

「君たちを巻き込んでしまって、すまなかった。

だが——改めて依頼したい」

王が、頭を下げた。


「アレクシオを——この国を、救ってくれないか」


その問いに、俺は一歩前へ出た。

「これは、国の問題だけじゃありません」


自分の声が、意外なほど落ち着いていることに気づく。


「俺の問題です。アレクシオを必ず取り返すと、イエナに約束しました」


イエナが、はっと顔を上げる。


「それに」

俺は続けた。


「仲間を守るのは、リーダーの仕事です」


一瞬、間を置いて。


「——やらせてください」


その瞬間。


——パチ、パチ、パチ。


拍手の音が、背後から響いた。


振り返る。


「しばらく見ないうちに、すっかり立派になったな」


そこに立っていたのは、テリーズだった。


イエナが、思わず駆け寄る。


「テリーズ……!」


テリーズは、イエナの頭を軽く撫で、そのまま抱きしめた。

相変わらず、迷いのない仕草だ。


「無事でよかった」

そう一言だけ、優しく言う。


そして、俺を見る。


「ユイト。アレクシオ奪還作戦。

——私も参戦する」


その場の空気が、一気に引き締まった。


「さあ」

テリーズは、口角を上げた。


「作戦会議だ」




回答猶予は、七日間。

アークネイヴァーからの書面には、そう明記されていた。

それまでに回答がなければ——。

交渉は決裂。

アレクシオの身柄も、どうなるか分からない。

奪還作戦に残された時間は少ない。


俺たちは、そのまま王宮の会議室へ通された。


長い楕円形の机。

そこに集まったのは、奪還作戦の実働メンバーである

俺、タツオ、イエナ、ミサキ。

そして、新たに加わったテリーズ。


そして、国家側の人間として

レオニス王、サイレス、ガルフ。


張り詰めた空気の中、最初に口を開いたのはレオニスだった。王は、タツオに向かって書状を差し出した。

「まず、約束していたタツオの免許だ。ドラゴン討伐の活躍は、イエナから報告を受けた。改めて礼を言う」


「免許は、後でいいよ。

アレクシオを取り戻してからで」

タツオはそう言った。


レオニスは、少し微笑むと、ありがとう、と言った。

その後、表情を戻すと、俺の方を向いた。

「ユイト。考えはあるか?」


全員の視線が、俺に集まる。

俺は一度、深く息を吸ってから話し始めた。


「最優先は、アレクシオの居場所を正確に把握することです」


頷く者が多い。

当然だ。居場所が分からなければ、救出も何もない。


「そのために必要なのは、探知の力です」

俺はミサキを見る。


「ミサキ。前回、アークネイヴァーで張っていた探知網を応用して、特定の式者——アレクシオを探すことはできるか?」


ミサキは、少し考えてから首を横に振った。


「……正直、今のままじゃ無理だと思うべ。

私の探知は、“範囲内に何かがいるか”を捉えるものだ。

誰か一人を、遠距離で特定するのは難しい」


想定通りの答えだった。


俺は視線をサイレスに移す。


「サイレスさん。以前、あなたはタツオを式力で追跡していました。あれを、ミサキに教えることはできますか?」


一瞬、室内が静まった。


「紫の術の応用ですよね?」

俺は続ける。


サイレスは、少しだけ目を見開き——ゆっくりと頷いた。


「よく分かったな。その通りだ。あれは、紫と緑の合わせ技だ」


ミサキが、はっと顔を上げる。


「紫で〝状況〟を捉え、緑で“生命反応”を補足する。

両方を重ねることで、位置探知は可能だ。

ある程度近づかないといけないがな」


サイレスは、淡々と説明した。

「理論は難しくない。だが、制御は繊細だ」


俺は、ミサキを見る。


「ミサキ、できるか?

——できなければ、サイレスさんに同行をお願いするしかない。でも、王宮にも防衛戦力は必要だ。理想は、ミサキが習得することだ」


一瞬の沈黙。


ミサキは、ふっと口角を上げた。


「任せとくべ。首席、なめんなよ」


その言葉に、場の空気がわずかに緩む。


「他には?」

テリーズが腕を組んだまま、低く聞いた。


俺は頷く。


「理想は、交戦せずに奪還することです。ですが、アークネイヴァーも、俺たちの動きは想定しているでしょう」


視線を巡らせる。


「戦闘になる可能性は高い。その場合、どんな敵が来るかを想定しておく必要があります」


俺は、あの光景を思い出しながら言った。


「まず……アレクシオを攫った、白と黒の髪の女」


室内が、ざわつく。


「白黒……?」

サイレスが、眉をひそめた。


「まさか、灰の式者か」

小さく、だがはっきりとした声だった。


「瞬間しか見ていませんが、見たことのない髪でした。

その女は、俺が認識した直後、一瞬でアレクシオの背後にいました。高速移動……いや」

俺は続ける。

「瞬間移動に近い式を使える可能性があります」


「白に続いて、灰か。

——文献上でしか見たことのない式者が、続々と現れるな」

サイレスは言った。


「最初に俺たちを襲った“影”も、恐らく彼女が出したものです。分身、あるいは思念体のような存在」


サイレスは、低く唸った。

「……文献にあった灰の式者の記述と符合する」


「サイレスさん。後で、灰の式について調べてもらえませんか?他にもまだ見ぬ式術を使ってくるかもしれません」

サイレスは頷く。俺は続けた。


「死角からの不意打ちの危険がある以上、

俺たちの防御力の強化は必須です」

俺は、イエナを見た。

「イエナ。自動回復や、自動防御の式はあるか?」


イエナは、少し困ったように首を横に振る。

「少なくとも……私は使ったことがありません。

回復は、基本的に都度発動が必要です」


俺は、再びサイレスを見る。

「式術は、自然の力を借りるもの。

回復は、自然の力を緑で集め、誰かにそれを与えるもの。

つまり、式者は、媒介者だ。

自然、媒介者、回復対象。

それらを全部繋いでしまえば——

自動回復は可能じゃないですか?」


サイレスは、笑う。

「面白いことを考えるな。そんな発想は、考えたことがない。——だが、試してみる価値はありそうだ」


「イエナ。自動回復が、可能になれば、作戦の危険度は大幅に下がる。——時間はないが、訓練してみてくれないか?」


イエナは、一瞬だけ迷い——

それから、強く頷いた。


「分かりました。やってみます」


ガルフが、黙ったままその背中を見ている。

だが、止めることはなかった。


「……タツオ、この自動回復の設計は、恐らくプログラミングに近い。サイレスさんのサポートをしてくれないか?」

俺は、隣に座るタツオだけに小声で伝える。

タツオは、いつものように「りょーかい」と言った。


「テリーズさんは、俺と一緒に対人戦の訓練をお願いします。できれば、騎士団の皆さんもお借りしたい。

統率された集団に対して、どんな式が効果あるのか。

実践で試したい」

俺が言うと、テリーズは頷いた。


「俺も協力しよう」

ガルフが言った。


「本音をいえば、戦いに出向きたいが。

ここを守るのも、我々の仕事だ。

せめて、できることをやらせてくれ」


俺は、力強い言葉に、大きく頷いた。


「出発は、三日後。それまで、各自訓練を。

必ず、アレクシオを取り戻し、この国を守りましょう」

俺は、最後にそう締め括った。


やるしかない。

奪還まで、残り七日。


敵は、科学都市国家。

背後には政治的思惑と、未知の式。


——戦いが、始まった。



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