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テオロッド戦記 —異世界転移に巻き込まれた俺—  作者: ヨダカカツキ


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10/13

第九話 旅のはじまりと、混入者と。

翌日。集合場所に集まったのは、

俺たちフォーリナー三人に、イエナを加えた四人だった。


ガルフが見送りに来たが、

「気をつけろよ」と一言だけ言った。

あれこれ言ってイエナに怒られたくないのだろう。

と、勝手に父親の気持ちを察した。


サイレスに教わった通り俺は馬車を動かし始める。

前部座席にはイエナとミサキ。

後部座席にはタツオ。


タツオが出発早々はしゃぎながら言った。

「ねえ、新しいチーム名どうする?」


「のんきでいいよな、お前は」

俺は手綱を握りながら答える。


「せっかく、国の未来を背負ったチームなんだから、カッコいいのにしたいよね」

タツオはやけに楽しそうだ。


「適当に考えとけ」

俺は、慣れない馬車の運転に気をつかっているのだ。

タツオに構っている暇はない。


「ノリが悪いなぁ」

タツオは不満そうに言った。

ぶっ飛ばしてやろうか、こいつ。


イエナとミサキは、女子たちらしく、お喋りに花を咲かせていた。気が合うか少し心配だったが、イエナが見事に聞き役に徹している。


「ミサキさんは、オウシュウ出身なんですよね。

雪が多いって聞いたことがあります。積もるんですか?」

イエナが聞く。


「冬はずっと、国中真っ白だべ。

雪遊び楽しいけど、雪かきはしんどいべ」

ミサキは答える。

「あと、仲間なんだから、敬語はやめてほしいべ。呼び方もミサキでいい。私も、イエナって呼ぶ」


それを聞くと、イエナは笑って言った。

「分かった。じゃあ、ミサキ、ね。

式術学校は楽しかった?」


「そうだな。こいつらの面倒みてると飽きなかったべ」


「おいミサキ」


俺がツッコむと、イエナがくすっと笑った。

「みんな仲良いんですね。うらやましいなぁ」


「誰も相手をしなかったから、仕方なく私が声かけてやったんだべな?」

ミサキは得意そうに言う。


最初は少し距離のあった二人だったが、イエナは上手だった。

質問の仕方が柔らかくて、相手を気持ちよく話させる。

いつの間にか、ミサキの方からも質問を返している。


よしよし。

なんとかこのチームもやっていけそうだ。


俺は前を向いたまま、一人頷いた。


車の運転中の父親って、こんな心境なのかな……。


そんなことを考えるながら、手綱を軽く引く。


タツオはというと、出発して三十分もしないうちに、

後部座席で完全に寝ていた。

規則正しい寝息が聞こえる。


予想通りではあるが、ここまで見事に自由にされると、腹が立つな。

……後でこきつかってやろう。


テオロッドを出て、二時間ほど経った頃。

イエナの提案で、小さな村で休憩を取ることにした。

「ユイトさんも疲れているでしょ?」

その気づかいが、胸に沁みる。

「もう着いたの?」と言いながら伸びをしているタツオは、ぜひイエナを見習っていただきたい。


この村は以前、特使として訪れたことのある村らしい。

村長や数人の大人たちが、馬車を見るなり駆け寄ってきた。


「これはこれは、イエナ様!」

「お元気そうで何よりです!」


イエナはにこやかに応じ、軽く会釈をする。

さすがの人身掌握である。


俺も馬車を降り、軽く体を伸ばした。

護衛クエストの時はテリーズに馬車を任せっきりで申し訳なかったなぁ、と思っていると。


——ゴトン。


積荷の樽の一つが、明らかに動いた。


一瞬で、体が硬直する。


アクアスライム……!?


反射的に、あの時の感触が蘇った。

俺は手を構え、イエナも半歩前に出る。


「……何かいる」

ミサキが幻惑の準備をする。


樽が、もう一度揺れた。


次の瞬間。


蓋が内側から押し上げられ、

中から——


人間の子供が、顔を出した。


「……っ!」


金髪。

見覚えのある顔。


あのクソガキ王子である。



「アレクシオ!?」


イエナが声を上げる。


樽から飛び出してきたのは、間違いなく王子だった。


「まさか……潜り込んだの!?」

イエナは驚きと同時に、すぐに説教モードに入った。


「我慢するの大変だったぜ」

アレクシオは体を伸ばしながら言った。


「勝手についてくるなんて……!

ユイトさん。すぐ戻りましょう」

そう言ってイエナは俺を見る。


「ダメだよ!」

アレクシオはそれを制した。

「俺がイエナを守るんだ。こいつらだけには任せておかない」


アレクシオは、真剣な顔で言った。

並々ならない気迫を感じる。

場が、一瞬静まる。

その沈黙を破ったのは、寝起きのタツオだった。


「ま、いいんじゃない?」

あくび混じりに言う。


「え?」

ミサキが振り返る。


「一人増えるだけでしょ。本人が行きたいならいいんじゃない。自分の命くらい、自分で守れる自信があるんでしょ?」

口調は柔らかいが、明らかに——脅しである。

タツオなりに、説得しようとしているのかもしれない。


アレクシオは一瞬口をつぐむ。


「……当たり前だろ!お前ら全員、俺が守ってやるよ」


「ふーん。頼もしいね。ドラゴンにびっくりして、おもらしとかしないでよ?」

タツオはバカにするように言った。


「するかよ!おもらしなんて、もう二年もしてないぞ!」


「へぇ。二年前までしてたんだ。今何歳?」


「十一歳だ!……あのな、俺は王族だぞ!それに、お前より、俺の方が先に式術学校卒業してるんだぞ!先輩だぞ!」


「残念ながら僕はテオロッド国民じゃないので王族に興味はないし、君は二式?だっけ?僕は一式。

テオロッドではどっちが偉いの?」


「……っ!!うるさい!!」


「口で負けて叫ぶなんて、まるで赤ちゃんだね。あやしてあげようか?」


いつのまにか、精神年齢同レベルの舌戦が始まっている。

こんなに生き生きしているタツオは初めて見た。


しかしどうしたものか。

俺は頭を抱える。


面倒くさい。


しかし、ここから引き返してまたここまで来る時間を考えると、先を急いだ方がいいだろう。

こうしている間にも、ドラゴンの被害が拡大しているかもしれない。


「もういい、分かった」


俺は一度、深く息を吐いた。


「条件付きで同行を認める」


俺がそう言うと、アレクシオの目が輝く。

「さすがリーダーだな。俺の力を分かってるじゃないか」


「ただし」

俺は続ける。


「前線には出ない。絶対にだ。

戦闘が始まったら、俺たちの後ろから一歩も動くな。

破ったら、即座に縛って村に送り返す」


アレクシオは、不満そうな顔をする。

「まぁいいか。連れてってくれるなら。おい、お前。

ユイトだっけ?ほめてやろう。いつか家臣にしてやるからな」


——やっぱりクソガキだ。


今すぐ樽に戻して放り出してやろうか、と思ったが、

イエナの目線があるのでやめておいた。



村での小休止を終え出発準備を整えていると、ミサキがそっと俺に近づいてきて、耳打ちする。


「……ライバル連れてっていいんだべか?」


「……は?」


俺は、言葉の意味を理解するのに一拍かかった。


どういう意味だ?


ミサキは、アゴをくいっ、と動かし、俺の視線に指示をする。


前を見ると、アレクシオはイエナの隣にぴったり張り付いている。

得意げな顔で、何やら話しかけていた。


……ああ、なるほど。


どうやら、ミサキは中々鋭いようだ。

俺の気持ちに気づいている。

言われっぱなしも癪なので、俺はミサキに耳打ちした。


「お前こそ、タツオとどうなんだ?」


「なななな、なんの話だべ!?」

ミサキは顔を真っ赤にして馬車に逃げ込んだ。


俺は、馬車に乗り込み一同声をかけた。




村を出発してしばらくすると、空がゆっくりと茜色に染まり始めた。

夜の道中は魔獣が活発化するため、無理はしない。

見晴らしのいい小高い場所を見つけ、そこで野営をすることにした。

近くには森と川があり、水も焚き火用の木材も十分に確保できる。場所としては申し分ない。


俺は、夕食の準備に取り掛かる。

道中、運良くリーフボアの群れに遭遇し、数匹仕留めておいた。今日はローディンと作りあげたリーフボアのソテーである。

俺は手際よく下処理をし、シンプルに塩焼きにする。

手際に関してはローディンには到底及ばないが、

味に大差はでないはずだ。


焼き上がった肉を配ると——


「……おいしい」

イエナが目を丸くした。


「こんな料理、祝祭でも食べられないです」


「男子寮は、こんなの食べてたんだべか……」

ミサキも驚いた顔で肉を見つめている。


ふふふ。そうだろう。

俺とローディンで魂込めて作り上げたレシピだ。

充分に堪能するがいい。


「うん。悪くない」

アレクシオが腕を組んで言う。

「が、もう少し甘さが欲しいな」


クソガキが。

俺は何も言わず、肉を一切れ減らしてやった。


食事が終わる頃には、すっかり日も落ちていた。


焚き火の火が心地よく、体の芯まで温まる。

だが、歩き通しだったこともあり、汗が気になった。


うん、風呂、入りたい。


寮で実践したクオリティオブライフの向上により、俺は贅沢な身体になってしまったようだ。


幸い、すぐ横に川はある。

つまり、水もある。


素材をそのまま使う分には頭痛も起きない。


問題は——器だ。


「おい、タツオ。仕事だ」

俺は立ち上がり、タツオを連れて少し焚き火から離れた場所へ向かった。


地面の土を掘り、形を整える。

簡易的なバスタブを作り、タツオに声をかける。


「ここ、焼いてくれ」


「了解」


タツオが赤の式で一気に焼成する。

土は硬化し、十分な強度を持った。


さらに周囲を土壁で囲い、視線を遮る。


即席だが、立派な浴場ができあがる。


青の術式で水を張り、

そこにタツオが慎重に熱を加える。


「……よし」


最後に、おまけで風呂桶も作っておく。


完璧だ。


俺とタツオは焚き火に戻り、

念のため持参していた石鹸をイエナに手渡した。


「俺の国の文化を堪能してくれ」

イエナは少し驚いたあと、微笑んで受け取った。


俺は、入浴の手順を簡単に説明する。

イエナとミサキは頷き、浴場の方へ向かっていった。


「裸になるなんて、なんか恥ずかしいね」

などと話している。

やめてくれ。想像してしまう。


その背中を見送りながら、

男三人で焚き火を囲む。


いや、正確には男二人とクソガキ一人だ。


タツオとアレクシオは、チーム名問題について議論している。出てくる名前は、タツオアベンジャーズとか、アレクシオンとか、自分主体の名前ばかりだ。

くだらすぎて参戦する気の起きない議論だった。


——そろそろ、上がる頃か。そんな風に思っていると。

「……遅いな」

アレクシオが立ち上がって言った。

「心配だから、様子を見てくる」


「ダメだ」

俺は即座に首根っこを掴んだ。


「離せ!」


「ダメなものはダメだ」

俺は低い声で言う。


「お前の考えなどお見通しだぞ」


そう。俺も同じことを一瞬考えた。

だが、大人として人道を裏切るわけにはいかない。

分かるか、少年よ。


アレクシオは口を尖らせた。


「し、心配してるだけだ!」


「それは俺の役目だ」


アレクシオは不満そうにしながらも、渋々座り直した。

俺はため息をつき、焚き火に薪を足した。


少しすると、イエナとミサキが再び目を輝かせながら帰ってきた。だいぶ高評価のようだ。

ほんのり、石鹸の香りがただよう。

俺と同じ石鹸のはずなのに、香りが違うように感じるのは何故なんだろうか。


その後、俺たちも風呂に入った。

アレクシオは嫌がっていたが、強制連行した。

男には裸の付き合いも大切である。


嫌がっていた割に、湯船に浸かるとアレクシオは感動していた。広めに作っておいてよかった。

三人入っても、足が伸ばせる。


やはり、風呂は最高だ。

タツオとアレクシオも口喧嘩もなく、

ゆっくりと風呂を堪能していた。


全員風呂から上がると、俺はお茶を淹れた。

サイレス仕込みである。

湯上がりの体に、苦味が沁みる。

皆も同じ気持ちのようだ。

馬車、食事、風呂の世話まで俺担当。

もはやリーダーというより保護者である。


夜も深くなり、そろそろ交代で睡眠をとりたい。

ここまで来ると、寝る場所にもこだわりたくなる。

どうにかならないか。


素材に変化を加えることもできそうだが、

例の頭痛も心配だ。

ましてやサイレスの話を聞いた後だ。

寿命を削る可能性もある。


今ある素材で、どう寝床を作るか。


俺はとりあえず、先ほどの風呂を再利用することにした。

水を抜き、そこに森から集めた枯葉を集めに敷く。

その上に馬車の荷台に積まれていた帆布を広げた。

完璧とは言えないが、地面に直接寝るよりはずっとマシだ。


試しに寝転がってみる。

うん。良い感じ。

木の根を枕にして、首を痛めることはなさそうだ。





焚き火の音が一定のリズムになり、

森のざわめきも、昼間のそれとは別物に変わっていく。

俺とアレクシオは、それを挟んで向かい合っていた。


「……なんで俺とお前なんだよ」

アレクシオが、恨めしそうに言った。


「お前、雷の二式だろ」

俺は焚き火から目を離さずに言う。


「タツオは赤の一式。

火力担当は分けた方がいい。

皆を守ってくれるんだろ?」


「……ふん。まぁ、そうだな!」


「魔獣が来たら、頼むぞ」


「当たり前だ!任せておけ!」

アレクシオは、細い胸板をドン、と叩いた。


もちろん、建前である。


本音はもちろん、

お前をイエナの横に置く気はない、である。


所詮まだ子供。

御しやすく、可愛いもんだ。


「なぁ。それ、カッコいいな」

アレクシオは俺の頭を指して言った。

イエナと一緒に買った、鉢金だ。


「これか?ハーラッド商会で買ったんだ」


「俺も欲しい」


「いや……お前はやめといたほうがいいんじゃないか?」


「なんでだよ!」


「雷は、金属に集まるだろ?

これつけてたら、お前の式の邪魔になるかも」


「あ……そうか。じゃあ俺は何つけたらいいんだよ……」


「麦わら帽子でも買ってやろうか?」


「バカにするなよ!」


くだらないやり取りをして、時間を潰す。


だが、しばらくするとアレクシオはこう言った。

「……なぁ」


「ん?」


「俺、ちょっと眠くなってきた……」


そう言いながら、

アレクシオは自然な動作で立ち上がり——

そのまま、イエナの寝ている寝床の方へ向かおうとした。


「ダメだ」


俺は再び、首根っこを掴んだ。


「なにすんだよ!」


「戻れ」


「子供は寝る時間なんだぞ!」


「都合のいい時だけ子供を出すな!

お前は今、夜番だ。責任を持て」


「……ちぇ」


俺はアレクシオを引きずり、元の位置へ戻した。


そんなやりとりをしていると、

なんだか生意気な弟のように思えてきた。



交代の時間になった。


「交代だ」


俺がそう言うと、

タツオは寝ぼけた顔で立ち上がり、

イエナも静かに頷く。


その時。


ミサキが、

なぜか目を真っ赤にして、俺の袖を引いた。


「……ユイト」


「ん?」


顔を近づけると、

ミサキは小声で、しかし真剣に言った。


「次の夜番、私とタツオを分けてくれ」


「……は?」


「分かってるべ!?……眠れないべ」


理由を聞く前に、

俺は、はっとした。


あ。そう言えば。


うっかり、

ミサキとタツオを横にしてしまった。


俺は、配慮不足を反省する。


しかし……となるとチーム分けが難しいな。

タツオとミサキが離れるかつ、

火力分散も考えると、


俺、タツオ、イエナの選択肢しかないか。


「分かった。俺はこのまま起きてるから、アレクシオと寝てくれ。なんだかんだ眠そうだし。ミサキも寝られてないんだろ?俺は、次でいい」


ミサキは頷くと、目を擦るアレクシオを連れて寝床に戻った。


夜はまだまだ、長くなりそうだ。


焚き火の火が、パチっと小さく爆ぜた。


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