とある除霊師の話
「最近悪い事ばかりが起きるんです! これって霊の仕業じゃないんですか?」
「そうですね……。確かにあなたには霊がついています」
「やっぱり! そうですよね! どんな霊ですか?」
「黒くてカサカサ動いてたまに飛んでくるアレの霊があなたの右肩に乗っています」
「それって、ゴキ――」
アレの名前を言うとする依頼者を除霊師は止めた。
「待ってください……それを最後まで言ってはいけません。アレに気付かれてしまいますからね」
「そういうものなのですか――。あなたがゴキ……アレを嫌いなだけじゃなくて?」
「そうです。私がアレの事を嫌いで名前を言いたくないだけではないのです。以後、敬意を持って“アレ”の事を彼と呼びたいと思います」
「まぁいいや……。どうすれば霊を祓えますか?」
「危険な事ですが、私が彼と話してみます」
すると除霊師は依頼者の右肩を見ながら話し始めた。
「彼はあなたによってこの世を去ることになったそうです。彼はそれ以来あなたの肩に乗っているそうです。心当たりはありますか?」
「二週間ほどまでに台所で彼に出会いましたが、私も彼が嫌いなのでこの世を去ってもらいました」
気付けば依頼者も“アレ”のことを彼と呼んでいた。
「彼の事を好きな人は少ないですよね。彼もそのことをよくわかっているようです」
「そうですよね……。彼に謝ればいいのですか?」
「彼はあなたのことを恨んではいないようです」
「だったら! どうして!」
「彼はあなたのことが好きだったそうです。それで気持ちを伝えたくて台所に現れたと言っています」
「そんな……」
「彼は自分が嫌われている事を十分理解しています。なので最後に見た光景があなたで良かったと言っていますよ。それほどまでに愛されていたのですね」
「私ったらなんてことをしてしまったの……」
「彼は『醜いボクを愛してください』と、言っています。それで旅立つことができるそうです」
「私はあなたの愛の重さを知らずに見た目だけで判断してしまったわ……。ごめんなさい。来世があるとするならば、今度こそあなたの愛に答えたいと思う……」
その時、除霊師は隣の席の人に向かって飛んで行くアレの霊の姿を見た。
「彼は旅立ったようです」
「本当だ! 肩が軽くなったような気がします! ありがとうございました!」
「お役に立てて良かったです」
その夜、依頼者の洗面所に現れた黒くてカサカサ動いてたまに飛んでくるアレは問答無用で始末された。
(了)