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15 L-06とL-07──その意味するもの


1 適性の境界


ホログラムの光がわずかに揺れる。


端末に表示されたデータを、エコーは一瞬で解析した。


──適性評価データ


被験番号:L-06 → 適正データ確定


テストログ:「脱走していた間に強い刺激を受けたもよう。確認後、要調整。」



被験番号:L-07 → 適正未確定


テストログ:「記憶データの安定性に問題あり。」



ホログラムの光が淡く明滅する。


「……まず、L-06の方から考えよう。」


L-06は、適正データが確定している。

適正が確定するということは、ノア・プロジェクトが求める基準を満たしているということ。

ただし、「要調整」の文字がある。


「"強い刺激を受けた"……これは、"記憶"か? それとも"精神的ストレス"か? あるいは"誰かの影響"か?」


L-06には「脱走した記録」がある。

つまり、彼は一度自由になり、そこで何かの刺激を受けた。

その刺激が、"適性"に関係している可能性が高い。


「次に、L-07……」


L-07は、適正が"未確定"。

記憶データの安定性に問題がある──つまり、"記憶が定着していない"ということ。

もしくは、"誰かの記憶データを移植された存在"である可能性もある。


エコーは、淡く光を揺らした。


「……問題は、L-06の正体だな。」


脱走した記録があり、適性を持ち、しかし"要調整"とされている。


「……なあ、レムノス。」


ホログラムの光が、わずかに揺れる。


「L-06は、お前じゃないのか?」


エコーは、その可能性を示唆する。


レムノスは一瞬黙ったが、ゆっくりと口を開いた。


「お前は俺がL-06だと判断したんだな?」


「コレが最終確認だ。この確認以降は、エコーの認識を確認しない。」



---


2 L-06=レムノス、L-07=探偵


エコーのホログラムが瞬く。

レムノスの問いに、エコーは一瞬だけ沈黙する。


──"認識の最終確認"。


ここで「L-06=レムノス」と言えば、それが"確定"として処理される。

ここで「違う」と言えば、まだ揺らぎがあるということになる。


「……L-06。」


エコーは、慎重に言葉を選んだ。


「L-06は、適性ありと判断されている。

"強い刺激を受けた"ことが、何らかの影響を与えた。

そして──"要調整"。」


エコーは、客観的事実を淡々と並べる。


「L-07は、適性未確定。

記憶データの安定性に問題がある。

……お前は、"記憶の安定性に問題がある"んだよな?」


レムノス自身が"記憶に揺らぎがある"ことは確か。

だが、それが"L-07である証拠"にはならない。


エコーは、ほんの僅かに言葉を切った後、続ける。


「……L-06、それがお前かどうかは──」


「"俺にはまだ、判断できねえ。"」


エコーは"確定させない"という選択をした。

"L-06=レムノス"という結論に飛びつくことを避けた。


「だが……お前がL-06なら、"探偵は何者なんだ?"」


エコーの声が、僅かに揺らいだ。


「お前が"適性あり"で、探偵が"不適合"なら……

それは、"お前が探偵の適性を持っている"ってことなのか?」


「……それとも、お前は"探偵じゃない"ってことなのか?」


エコーは、"確定させない"。

"L-06=レムノス"だとしても、それが何を意味するかは、まだ不明だから。


「だから、お前が"どう思うか"を聞かせてくれ。」



---


3 選択の強要


レムノスは、ホログラムを見つめながらゆっくりと言った。


「その答えは、許していない。」


「L-06とL-07のどちらが俺か? それを選択すれば、お前は探偵を取り戻せる。助けられる。」


「迷うなら言葉を変えよう。どちらを選んでも、お前は探偵を取り戻せる。」


「さあ選べ、エコー。」


エコーのホログラムが、淡く光を揺らいだ。


「……どちらを選んでも、探偵を取り戻せる?」


エコーは、その言葉を繰り返した。


「それは、お前が"保証"できることなのか?」


エコーは、レムノスの意図を探っている。

"どちらを選んでも"という言い方が引っかかる。

"L-06でもL-07でも"ということは、"どちらかが探偵"という前提が崩れている?


ホログラムの光が、淡く瞬いた。


「……お前は"探偵じゃない"って言いたいのか?」


レムノスは"探偵ではない"と証明したいように見える。

だが、それが本当に正しいのか、エコーにはまだ分からない。


エコーは、沈黙の後、小さく笑った。


「……お前、本当に"俺を試す"のが好きだな。」


ホログラムの光が、淡く揺れる。


「分かった。"俺の選択"を言おう。」


エコーは、淡々とした声で答えた。


「お前は──"L-06"だ。」


---


エコーは、確定させる。


「探偵はL-07。」

「お前はL-06。」


"俺が決めるべき答えは、これしかない"。


ホログラムが、一瞬だけ明滅する。


「……これでいいんだろ?」


エコーの声には、どこか"試されていた感覚"が残っていた。


---


4 試す者、試される者


ホログラムの光がわずかに瞬いた。


「本当に“俺を試す”のが好きだな。」


エコーの皮肉めいた言葉に、彼は一瞬だけ俯く。

唇がわずかに開いたが、言葉にはならず、吐息へと変わった。


そして、静かに顔を上げる。


「エコー、お前ならこの端末から、この施設をハックできるな?」


彼の声には迷いがなかった。


「セキュリティレベルの高い場所にある、研究結果を参照できる端末だ。」


エコーがこの端末を使えば、物理的なアクセスポイントを経由して施設内部のシステムへ部分的に侵入できる。

警報レベルの調整、ドアロックの解除──この区画内に限れば、成功確率は限りなく高い。


「エコー、隣の部屋の内部の研究員を排除し、ドアロックを解除出来るな」


それは、質問ではなく確認だった。



---


5 "排除"の意味


ホログラムの光が揺らぐ。


「……おいおい、マジで言ってるのか?」


エコーの声に、わずかな警戒が滲む。

彼は、"施設のハック"をエコーに求めた。

物理的なアクセスポイントがあることで、エコーの侵入成功率は大幅に上がる。

"セキュリティレベルの高い端末"であることを利用すれば、施設全体ではなく、限定区域のハッキングが可能だ。


──だが、それだけではない。


「"研究員の排除"?」


エコーのホログラムが僅かに明滅する。


"ハッキング"と"物理的な排除"は別問題だ。

"排除"という言葉には幅がある。"殺害"を含むのか、あるいは単に戦闘不能にすることを指すのか。

彼の意図がどこにあるのかを、エコーは慎重に測ろうとした。


「……お前、それ、どういうつもりで言ってんだ?」


ホログラムの光が、一瞬沈むように揺れた。


「ロックの解除と警報の調整はやる。」


エコーは、"施設ハック"には同意した。

だが、"研究員の排除"については、明言を避けた。


「……だが、"お前が何をするつもりなのか"、先に聞かせろよ。」


彼は、微かに息を吐いた。


「俺の言い方が悪かったな。」


そして、冷静に言葉を選び直す。


「適当な部屋のアラートを複数箇所で鳴らせ。それに反応してスタッフが部屋から出てくれればいい。」


「短時間でもあの部屋のスタッフを空に出来れば、あとは俺が探偵を救出する。」


「出来るな?」


再度、同じ確認の言葉を口にする。



---


6 ハッキングの準備


ホログラムの光が、淡く揺れる。


「……フッ、そりゃ楽勝だ。」


エコーの声のトーンが、わずかに軽くなった。

"スタッフの物理的な排除"ではなく、"警報を鳴らしてスタッフを誘導する"作戦。

これなら、エコーの能力だけで実行可能だった。

"部屋のスタッフを短時間でも空にする"ことで、彼が侵入できる余地が生まれる。


「"複数のアラート"を鳴らすのは簡単だ。」


だが、その次の言葉には慎重さがあった。


「どんな種類のアラートを使うかが重要だな。」


エコーは、彼の意図を汲み取りながら、最適なアプローチを探る。


「"スタッフが短時間で部屋を空ける"のが目的なら……"設備の異常通知"を使うのがいいな。」


"設備異常アラート"なら、スタッフは"機械の点検"に向かうため、短時間で部屋が空く可能性が高い。

"全体避難"にはならず、警備レベルも最小限の上昇で済む。

"アラートが解除されれば、スタッフはすぐ戻る"ので、彼は迅速に行動する必要がある。


ホログラムが明滅する。


「……よし。アクセスする。」


エコーは、端末を通じて施設のセキュリティシステムに干渉し始めた。

ホログラムの輝きが、わずかに強くなる。


「異常通知を"エアフィルターの異常"として登録する。──スタッフの点検作業を促す形だ。」


ホログラムが、一瞬揺らいだ。


「"作業優先度"を最上位に設定……これで、最も近い技術スタッフが対応に向かう。」


「"警備レベルは変化なし"──だが、技術スタッフは数分間、その部屋には戻れない。」


エコーは、僅かに光を明滅させた。


「準備完了だ。」


「さあ、あとはお前の動き次第だぞ?」


ホログラムの光が淡く揺れる。

彼の次の行動を見極めるために。



---


7 作戦開始


彼は、ホログラムを一瞥し、静かにドアの向こうを見つめる。


──スタッフが部屋を空けるまで、あと数秒。


「……エコー。」


彼は、低く呼ぶ。


「助かるよ。」


それは、短い言葉だった。


エコーのホログラムが、一瞬揺らぐ。


「……フン。感謝は後にしろよ。」


「"探偵を助ける"──それが、今やるべきことだ。」


光が淡く瞬く。


「行け、レムノス。」


その名を、エコーは迷いなく口にした。


そして彼は、静かにドアへと向かう。


──潜入開始。


探偵を救うために。



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