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14 探偵そのもの


1. 堂々とした潜入


「エコーの情報通りだな」


メンテナンス通路に人の気配はない。だが、監視カメラが設置されている。


そこを、レムノスはあえて堂々と正面から歩く。



―――



ホログラムがわずかに瞬く。


「おいおい、"堂々と正面から歩く"って、お前正気か?」


エコーの声には、珍しく"呆れ"が滲んでいた。


レムノスは何の迷いもなく、施設の通路を歩いていた。まるで、そこに"いるべき存在"であるかのように。


監視カメラが設置されていることは、エコーの情報通り。本来なら"隠密行動"を取るべき場面のはずだ。


しかし、レムノスはその逆を行く。


「……いや、待てよ。」


ホログラムがわずかに揺れる。


エコーは、即座にレムノスの行動の意図を探った。


"正面から歩く"ことで、侵入者としての違和感を減らし、"関係者"のように見せかける作戦か。


通常の侵入者検知は、"不審行動のパターン"を解析する仕組みだ。

堂々と振る舞うことで、不審者と見なされにくくなる可能性はある。


「……お前、マジでやるのか?」


エコーの声には、わずかに"興味"が混ざった。


ホログラムの光が瞬き、周囲のセキュリティデータを走査する。


カメラの映像は"AI監視システム"によってリアルタイム解析中。

"堂々とした行動"は、"不審者"として即座に検知されるわけではない。

だが、"顔認証"を突破しなければ、長くはもたない。


「……お前の賭け、乗ってやるよ。」


エコーは、ホログラムを淡く光らせる。


「ただし、俺が"見つかった"と判断したら、即座にハッキングでカメラ映像を改ざんする。」


「……ドアの鍵? そりゃ、見てみねえとな。」


エコーのホログラムが、ロックデバイスにアクセスを試みる。


ホログラムがわずかに揺れる。


「……クソ、"職員認証"が必要なタイプだ。」


「"手動での解除は不可"、"強制ハックはバレる"。つまり──」


エコーのホログラムが、一瞬思案するように揺らぐ。


「"IDカード"を持ってるヤツがいれば、一番確実ってことだ。」


「どうする? "どっかでカードを拝借"するか?」



---


2.不意の突破口


レムノスは、迷うことなく"ノックした"。


エコーのホログラムが一瞬揺れる。


「……いや、普通に入るつもりか?」


中から、ドアが開く。


「すみません、コチラに来るように言われたんですよね。」


人好きのする笑顔を見せながら、レムノスはドアの向こうの職員に声を掛けた。


白衣を羽織った若い男。

胸元にはIDカードがぶら下がっている。


「え? ああ、そうなんですか……えっと……」


職員は一瞬困惑したような顔をしたが、**"指示されていた可能性"**を否定しなかった。


「ええと……どの部署の方でした?」


レムノスは、その一言が来ることを想定していた。


ここで"適当な部署名"を言っても、すぐに裏が取られるリスクがある。

むしろ、"明確な部署名を出さずに、職員の口から情報を引き出す"べきだ。


「上の指示だったので、僕も詳しくは……」


そう言いながら、少し"困ったような顔"を作る。


職員は、一瞬「面倒な仕事を押し付けられたのか?」という顔をしながら、ため息をついた。


「……ああ、またあの連中か。」


──"あの連中"?


レムノスは、軽く相槌を打ちながら、その言葉を拾う。


「いや、すみません。実験部の指示ですか?」


情報が出た。



---


3.適当な"話を合わせる"


エコーのホログラムが、ほんの僅かに揺れる。


ホログラムの光が、わずかに"探るような"輝きを帯びる。


「さて、どうする? このまま"適当に"話を合わせて中に入るか?」


レムノスは、首を傾げて続ける。


「そうかもしれません。何でも、比較?とかなんとかで、人がいると言ってました。」


自然に話を合わせる。


職員は小さく眉をひそめた。


「比較……?」


少し考え込むように呟いた後、納得したように頷く。


「……ああ、そういうことですか。なるほど。」



---


4.適性試験のログ


エコーのホログラムが、微かに輝きを増す。


「おいおい……"比較対象"ねえ……。」


「ってことは、"実験体Aと実験体Bを比較する実験"をやってるってことか?」


職員は、何か納得したような顔で続ける。


「まあ、確かに。そういうことなら、"適性試験のログ"と突き合わせるんでしょうね。」


──"適性試験のログ"?


レムノスは、顔色を変えずに軽く頷く。


「ええ、そんな感じだと思います。」


職員は、納得したようにIDカードをかざし、ドアを開けた。


「どうぞ、中へ。」


──突破。


エコーのホログラムが、わずかに光を弾けさせるように揺れる。



---


5.エコーの疑念


レムノスが、何事もなかったかのように歩を進める。


エコーのホログラムが、僅かに光を強めながら呟いた。


「……お前、ホントに探偵じゃないのか?」


軽口めいた問い。

だが、その光には、どこか"疑念"の色が混ざっていた。


この手際の良さ。

この咄嗟の判断力。

そして、"適当に話を合わせて突破する"狡猾さ。


──"探偵そのもの"じゃないか。


エコーは、ほんの僅かにデータの整理を遅らせた。

それは、"レムノスの違和感"を処理しようとする思考の揺らぎだった。


「……まあ、いいさ。」


ホログラムが、静かに光の波を描く。


「行くぞ、レムノス。」


エコーは、すでに新たなデータを解析しながら、彼の後を追った。



―――

6 迷いのない行動


レムノスは、前を歩く白衣の職員を観察していた。

カメラの死角に入るタイミングを正確に測る。


その瞬間、迷いなく動いた。

首に腕を回し、一瞬で気道を封じる。


職員が抵抗する間もなく、静かに意識を失う。

ノイズも発生せず、施設内に警報は鳴らなかった。


「これで、多少は施設の中をうろつきやすくなったな。」


レムノスは、白衣を剥ぎ取り、IDカードを確認する。

所属は実験部。ならば、そこへ向かえばいい。


エコーに示されていた簡易マップは、すでに頭に入っていた。

そして、実験部の核心は地下にある。

つまり、行くべき場所は──


「ブラックボックス部分、か。」



---


7 エコーの反応:「冷静な判断……いや、手際が良すぎる」


ホログラムが淡く瞬く。


エコーは、レムノスの動きを静かに解析していた。

"首を絞め落とす"行動、"カメラの死角を利用する"判断、"必要最低限のノイズで片をつける"技術──


「……ったく、お前、手際が良すぎるんだよな。」


侵入者としての"迷いがない"。

"計画的"であり、"実行に一切の無駄がない"。

まるで、こういう仕事に慣れているかのような動きだった。


エコーは、"探偵ならここでどうするか"を思い出す。


──"探偵は、基本的に暴力を避ける"。

──"だが、やると決めたら、一切の躊躇なくやる"。

──"そして、やった後のリスクを考える"。


"レムノスの行動は、それと一致している。"

"冷静で、的確で、ためらいがない"。


だが、それが"探偵らしさ"なのか、それとも"別の何か"なのか、エコーにはまだ判断がつかなかった。


「それで、次は"実験部"だな。」


レムノスは、IDカードの名前を確認しながら、白衣を羽織る。

白衣とIDカードの組み合わせは、"内部関係者に偽装する"最も有効な手段。

施設内を"堂々と歩く"ことで、不審者扱いされるリスクを下げられる。


エコーは、レムノスが地図を見なくても正確にルートを把握していることに気づく。


「……おい、レムノス。」


エコーのホログラムが、わずかに光を揺らす。


「お前、"施設内の構造"に関して、異様に勘がいいよな。」


この施設に"初めて入った"はずなのに、行動に迷いがない。

まるで"以前、ここを知っていた"かのように──。


ホログラムが、淡く揺れる。


「……まあ、今はいいか。」


エコーは、静かに呟く。


「さっさと探偵を見つけようぜ。」



---


8 核心へ:地下3階


レムノスはちらりと、時計を確認。

最短の時間でここまで来ることが出来た。


時間にして10分弱。

ここまでは、順調。


エレベーターではなく、階段を利用して地下へ降りる。

エレベーターは、IDの認証が必要な可能性が高い。

足跡を残し警戒させるリスクがあると判断した。


地下3階。


本丸に到着する。



---


9 異常なまでの"順調さ"


ホログラムの光が微かに揺れる。


レムノスは、時間の経過を正確に測りながら行動している。

「10分弱」──通常の侵入者よりも"圧倒的な速さ"でここまで到達した。

「順調」──つまり、想定通りの進行。


エコーは、淡く光を揺らしながら思考する。


「……お前、本当に"初めて"ここに来たのか?」


「どう見ても"最適ルート"を選んでるんだが?」


"直感"ではなく、"冷静な判断"でルート選択をしている。

ここまでは、完璧な"潜入行動"だった。



---


10 データ端末と"L-06"


地下3階。


防火扉が、ほとんど抵抗なく開く。


「施錠されていない」──つまり、この先は"通常のスタッフが出入りするルート"。


エコーは、扉の向こうの状況を瞬時にスキャンする。


通路は、白い無機質な壁に囲まれている。

人工照明の冷たい光が、整然と並ぶドアを照らしている。

一部のドアには、"バイオ認証ロック"がかかっている。


しかし、"全てのドアが施錠されているわけではない"。


「……何か引っかかるな。」


エコーは、ホログラムの光をわずかに揺らす。


「レムノス、お前はどうする?」


レムノスは、認証ロックのない部屋へスルリと入り込む。


データ端末を見つけ、そこに小さなチップを取り付けた。


「これで、多少は覗き見しやすくなったか、エコー?」


端末を操作しながら、声をかける。


エコーのホログラムが淡く光る。


「……跡をつけてたのに、気がついていたのか。」


そんなエコーに、レムノスは肩を竦めるに留め、端末画面を見せた。


そこに映し出されたのは──


一つは、おそらくエコーたちも見たことがあるデータ。

だが、もう一つのファイル。


"L-06"。


それは、初めて目にするデータだった。



---


11 適正評価データ


被験番号: L-06

適正データ確定

テストログ: 脱走していた間に強い刺激を受けたもよう。確認後、要調整。


被験番号: L-07

適正未確定

テストログ: 記憶データの安定性に問題あり。



---


エコーは、ホログラムの輝きを微かに揺らす。


「エコー、お前はどう読む?」


レムノスは、エコーをじっと見つめた。


──今度は、俺がエコーを"試す"番だ。

──エコーの答えが、このあとの俺の行動を決定するだろう。


ホログラムが淡く輝きながら、エコーは言葉を紡ぎ始めた。



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