二つに一つ。希望か絶望か。観測者か救済者か。
とても偉大な頭脳を持つ人が居た。
どれほど偉大かと言えば、偉大過ぎて文字では表現できないほどだ。
そんな人だからこそ、自分に出来ることが何かを知っていた。
資源に自分の活力、そして時間など多くのモノから計算をして、自らが生涯において何を成せるかを知っていた。
さて、そんな偉大な人にとって生涯をかけて成したいことが二つあった。
しかし、自分の生きている時間的に行えるのは一つだけだと分かっていた。
そこで、その人は限られた時間の中で精査し一つを選びとった。
目的の遂行のため実に精巧な機械を造り上げると、その人は残りの時間を機械が弾き出す答えを待つことに捧げた。
今、世を去ろうとしているこの人が選ばなかった選択肢の一つを先に述べよう。
それは『今の時代』から争いを無くすこと。
偉大なる頭脳を持つ故に生涯をかければ、この目標を成すことは不可能ではなかった。
しかし、争いが無くなるのはあくまで『今の時代』であって『後まで続く時代』ではない。
故にそちらを選ぶことは止めた。
流石に確信こそなかったが、それでも人類が一時の平和の後に争いだし、最終的には地球諸共に滅び去ると予想していたからだ。
さて、ではもう一つの選択はどうだったのだろうか。
宇宙に打ち上げた観測機から送られてきたデータが長い時間の果てに今、機械を通して出力された。
それを見たその人は息を漏らす。
「やはりか」
答えを知って出た至福の一言。
そして、その言葉を置いて十数秒の後にその人は世を去った。
全ては計算済みだ。
答えを得る時間も、その答えを知って満足する時間も、その満足感が絶望に変わらないまま逝ける時間も。
死人の隣に置かれていた機械には簡易的な文章が記されていた。
『観測結果:膨大な宇宙に他の生命はなし。生命があるのは地球のみ』
最早、偉大でもないただの屍は満足気な表情だった。
問いの答えが知ることが出来たからだ。
これから腐りゆく屍は、直前まで幸福に満たされていた。
何せ、人類により地球が滅び、遠からず宇宙から全ての命が消え失せる絶望感を覚える前に死んだから。