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9/10

僕、笑っちゃいます。前編

 激動の一週間が終わった。

 俺はこのキャットプロダクションに入社してから無遅刻無欠勤だ。

 休みの日も必ず朝7時には目覚ましなしで覚醒する。

 しかし本日の土曜日、俺が覚醒したのは現在12時を少し回った所。

 自分では気付かなかったが、かなり疲労していたと思われる。もちろん先日の丘登りの影響もあるだろう。


 みんなに課題曲を与えたが、しっかり練習しているだろうか?

 一応表面的にはやる気に満ち溢れていた様に見えたが、なんせ思春期の女の子達だ。女心と秋の空――的確な例えではないかも知れないが、万が一がある。いや、そんなことでどうするんだ俺は。ピーチを……みんなを信じなくちゃ誰が信じてあげるんだ?

 とにかく久しぶりの土日休みだ。

 みんなを信じて、たまには趣味のお寺巡りでも行くとしよう。


 ◇◆◇◆◇◆


 お寺巡りの成果は、都内計5箇所での願掛けで終える事が出来た。

 無病息災・恋愛成就・合格祈願――ご利益の内容には全くこだわらず、無作為に思いついたお寺を参拝。

 なりふり構わない祈願だ。


 月曜日

 俺とアイドル候補生達は事務所に集結していた。

 約束した、それぞれ課題曲の品定めを行う為、ある場所に向かう告知をしていた。もちろん、再び熱血教師と化して。


 野村「よーし。みんな揃ったな?」

 ピーチ「はい」

 ローズ「揃った? 当たり前じゃない。みんな一緒に来たんだから」

 シュガー「ちなみに今日のラッキーアイテムは治癒の水薬よ」

 スイート「終わったらアイス」

 ジャスミン「どこに行くの?」


 俺は思案の結果、カラオケに行く事にした。

 もちろん事務所のレッスンルームでも品定めは可能だが、歌唱の専門家でもない俺の意見など、みんなは聞く耳持たないだろう。

 この一筋縄ではいかないメンバーを相手にはやはり数字だ。つまりカラオケと言うのは点数機能がある。

 しかも今のカラオケは高音、低音、ビブラート……など内容の評価も可視化してくれる機械もある。

 それを踏まえてそれぞれに指摘・指導して行こうと思う。


 だが、事務所から十分程歩いた駅前のカラオケに行く前にやらなきゃいけない事がある事に気付いた。


 「みんな、聞いてくれ。これから場所を移動する。そしてそこでみんなの練習の成果を見せてもらう……だがその前に一人一人に言いたい事がある」


 ピーチ「なんでしょうか? 野村様」

 ローズ「なにかしら?」

 シュガー「なあに?」

 スイート「アイスたくさん?」

 ジャスミン「なにかな?」


 「まずはピーチ。君は着替える必要があるな」

 「え? 一応王室晩餐会用の衣装にしたのですが、駄目でしたか?」

 「いや、俺的には駄目じゃないが世間的に目立ち過ぎる。手配するから少し待っててくれ」

 「わかりました……」


 「ローズ。君が抱えている動物はなんだ?」

 「ケルベロスの子供よ。冒険者さんが捕獲したのをウチで飼ってるのよ」

 「そうか。だが、現代には存在しない三つ頭の生き物だ。見られたら騒ぎになる。それに今から行く場所は動物は持ち込み不可だ。カゴを手配するから待っていてくれ。あと服も用意する」

 「……仕方ないわね。わかったわ。置いていくわ」

 

 「シュガー。君は問題外だ。背中に背負っている剣は置いて行くんだ。現代では銃刀法違反と言う法がある。捕まったらアイドルどこの騒ぎじゃない」

 「え〜。だって……遺跡から直接来たから仕方ないじゃない」

 「あと、靴に仕込んでる短剣も置いて行くんだ」

 「え〜これも? ラッキーアイテムなのに」

 「あとは着替えも手配するから待っててくれ」

 「ぶ〜ぶ〜」


 「スイート。君が耳に付けてる大きなイヤリングも外してくれ」

 「なんで? 炎耐性の魔除けの魔導具だよ」

 「理由は二つある。まず一つは、現代では君くらいの年齢の女の子は耳たぶには何も装着しない。そして二つ目はその大きさだ。肩までぶら下がってるじゃないか。目立ち過ぎる」

 「じゃあ終わったらアイス2個ね」

 「ああ。それにもちろん全身黒づくめのローブも着替えてくれ。年相応の服も用意する」

 「はあい」


 「ジャスミン。君は可愛いから服を用意しよう。汚れた服だと、君の可愛さが半減するからな」

 「ありがとねノムリン!」


 俺は矢継ぎ早に指摘を完了し、カラオケ店に行く準備を整えた。

 異世界と現代の橋渡しの場所――あの教会からは歩いて30分以上はある。よく毎回ここまで職務質問されずに来たものだ。

 

 とりあえず、俺が一緒に外を歩ける最低限の装備に身を包み治させカラオケ店に向かった。

 道中、彼女達はそれぞれ装備した現代の服に「可愛いね」等の会話に花を咲かせて一喜一憂していた。

 その様子に俺は先頭を歩きながら、束の間の微笑ましさを噛み締めていた。


 ◇◆◇◆◇◆


 カラオケ店に到着し、部屋に入室。

 あいにく、小さなステージ台はあるが少し狭い部屋だ。


 ローズ「野村さん? こんな狭いところで何をするの? 自家発電くらいしか出来ないじゃない」

 

 「なるほど。だがここは健全な発電をする所なんだ。皆も少し狭いが勘弁して欲しい。じゃあまずはピーチから頼む。準備はいいか?」


 「え? あ、はい……でも、皆さんの前で歌うなんて恥ずかしいです……」


 「だが、デビューしたら何百人の前で歌う事になる。訓練だとも思って欲しい」


 「わ、わかりました……」


 いよいよ始まった。

 みんなはちゃんと練習して来ただろうか?

 敢えて課題と言う形にして持ち帰ってもらったのも、各自のやる気を測る為でもある。我ながら良いアイデアだと思った。


 ピーチの課題曲

 松本伊代さん

 センチメンタルジャーニー


 (著作権保護)――――ジャン♪


 「野村様……ど、どうでしたか?」


 「よく頑張ったぞ」


 ピーチは、最初こそ恥ずかしそうにしていたが、ちゃっかりサビの所は『ピーチはまだ16だから』と自分の名前にアレンジしていた。ノリノリじゃないか。

 モニターが点数を表示――

 【55.95点】


 正直あまり良くないが大丈夫。

 想定内だ。

 カラオケと言うのはだいたいの機械が加点方式と減点方式の併用だ。つまり、90点辺りををベースにミスなどがあれば減点していく。そして、声の強弱、こぶしなどアレンジが加点される。

ピーチの場合は加点はない。つまり基本的な歌唱力は訓練する必要があると言う事だ。

 とりあえず全員分を聞き終えてから選評するとしよう。

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