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ハローグッバイ

 俺が住む現代と、ピーチ達が住む異世界。


 ピーチと初めて出会った教会で魔導書の最後のページを開き、呪文の様な言葉を詠唱すると眩い光に包まれて洞窟内の祭壇に来る事が出来る。


 そして戻る時も同様――この祭壇で魔導書を開いて最後のページを詠唱し光に包まれると、現代のあの教会に戻れるのだ。


 ピーチが発見した魔導書。

 そして現代の教会と異世界の洞窟にある祭壇。


 もう、かれこれ4回目だ。


 思えばこの数日は激動だった。

 ピーチに出会い、アイドルとしての光を見出した。

 そしてその光は異世界からの輝きだった。

 その光に導かれ集った3人の少女。

 ギルドの受付嬢ローズ。

 冒険者、剣士のシュガー。

 魔導具職人スイート。

 

 未だに信じられない。


 そして、最後の1人に会いに行く為、俺とピーチは異世界の急な丘を登っている。


 もうどれくらい歩いただろう。

 かれこれ1時間以上も坂道を登っている。


 ピーチは長いスカートが歩きにくそうだ。

 俺はスーツでカバンを持っている為に汗だくだ。


 しかも、異世界は軽い夏。

 現代ほどではないが、ジリジリと容赦ない太陽光線を俺たちに照射し、体力をむしり取っている。


 無言で歩きながら、今までを振り返る事で気持ちを奮い立たせていたのだ。


 「はぁ……はぁ……ピーチ。まだ着かないのか?」


 「はい……はぁ……はぁ……恐らくこの丘を登りきった所に湖があるので、あと1時間くらいは……」


 「…………」


 1時間前――俺達は最後の1人ジャスミンさんに会いに彼女の家を訪ねた。


 しかし、そこは家と言うよりは馬小屋の様に小さく、古く、みすぼらしい場所だった。

 壁は泥を固めた……屋根はわらを何重にも敷き詰めている質素な物だった。


 両親が小さい頃に亡くなったと言うジャスミンは、大変貧しい暮らしをしていたと聞いた。普段の主食はトウモロコシだそうだ。


 だが、そんな逆境にも負けず周囲の人達を常に笑顔にして生活しているらしい――そして、何よりもジャスミンがこの付近の噂の可愛い娘と言う事実。


 謎のあしながおじさんを自分に置き換え、アイドルになり彼女を貧しい生活から脱却させてあげたいと思った。


 しかし、そんな俺の親心にも似た感情は【急用が出来たから丘の上の湖に来・て・ね】と言う置き手紙によってかき消された。


 更に高地特有のスコールが俺達の進軍を阻む。あいにく傘など呼べる代物はない。

 ぬかるんだ道、まとわりつく泥、水を含んだ重いスーツ――


 幸い十分くらいで激しい雨はやんだが、今度は再び直射日光……。


 「はぁ……ピーチ大丈夫か?」


 「はぁ……はい……はぁ……」


 よく考えたら、事前にアポまでピーチが取っておきながら置き手紙一つで、こんなに困難な湖までの珍道中をさせるなんて失礼じゃないか? いや、急用なら仕方ないか。


 怒りに変換された気持ちをグッと抑えた所で、1時間後ようやく丘の頂上付近にある小さな湖に到着した。


 俺達がいる湖畔の対岸には小屋が見える。ボートなど用意してるはずもなく、更に湖を周回するように歩かなければならない。

 今までの道のりに比べたら大した事はないが、それでも15分はかかるだろうな。


 「まさか、あの小屋か?」

 「そのようですね」

 「……仕方ない行くか」


 ◇◆◇◆◇◆


 「お疲れ様でした。ごめんね、わざわざ来てもらって。ちょっと夕食に魚を食べたいなって思って、獲りに来てたの」


 「なるほど、じゃあ仕方ないな」


 急用……ではないな。

 野菜か肉にすれば済んだ話じゃないか?


 一通りの自己紹介を手短に済ませて、俺とピーチ、ジャスミンは小屋のテーブル越しに対峙していた。

 ジャスミンは確かに色白で美人……と言うか可愛いらしい。何かピーチとは違う万人受けのオーラを感じる。


 「それで私に何か用かな?」


 「ああ。とりあえずこれを見てくれ」


 いつもの様に現代から持参したタブレットを起動させた。雨の影響で壊れてないか不安だったが、問題ない。充電も大丈夫だ。

 ここでいつもならピーチの先走り暴走勧誘が入る所だが、疲労の為回避された様だ。


 ◇◆◇◆◇◆

 

 「え? 私がこれみたいに、みんなで歌って踊るの? 無理じゃない?」


 「いや、君の可愛らしさは皆を花の香りに包んでくれるはず。ぜひともお願いしたい」


 「……ちょっと野村さんの発言が気持ち悪いけどいいよ」


 「え? いいのか?」

 

 「じゃあ、私が出す問題に答える事が出来たらいいよ。3問中2問当たったらね」


 「お、おう……」


 問題だと?

 なるほど。面白い娘だ。


 全国高校生クイズ本選出場経験を持つ、この野村三平が華麗に答えようじゃないか。


 「じゃあ問題ね。成長するにつれて、毛が生えて、皮がむけてくるモノといったらなんでしょうか?」


 「…………」


 ローズを連れてくるべきだったか?


 「お父様ですか?」


 ピーチ……やっと口を開いたと思ったら、君はお父様のナニを……失礼、何を想像しているんだい?


 「ブッブー! 答えはトウモロコシだよ〜。トウモロコシの毛って意外と取るのめんどくさいよねアハハ!」


 「…………」


 確かにこの娘はみんなを笑顔にさせる素質があるな。アレ一択だった俺の馬鹿さ加減に笑えて来た。


 「次の問題は三択ね。私は今どんな気持ちでしょうか?」


 「え?」


 「①、私みたいな貧しい子とわざわざ湖まで来てくれて、仲間になって欲しいって言われてとっても嬉しい。②、嫌だな〜。③不快。どれでしょうか?」


 「ジャスミン……」


 ジャスミンは泣いていた。

 答えは無論①番。


 「身分の差なんて関係ないです! 私と頑張りましょうジャスミンさん!」


 同性コミュ障のはずのピーチが、ジャスミンの両手を握って涙ぐんでいた。


 「うん。わかった。ありがとうピーチさん!」


 なんだかわからんが、ジャスミンは俺達の諦めなかった珍道中を気に入ってくれたらしい。


 だが、二つだけ後で問い詰めよう。

 ここに来させたのはわざとなのか?

 問題は3問だったはずだが?


 

 

ハローグッバイ

 1981年発売の柏原芳恵さんの七枚目のシングル。彼女はこの曲でブレイクしました。

 オリコン最高位22位。

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