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スローモーション 後編

 「アイドル?」


 スイートさんの、速さと早さに驚愕している最中、ピーチの唐突なお誘い爆弾が炸裂。

 例の如くタブレットでライブ映像などを見せる事になった。


 ◇◆◇◆◇◆


 表情一つ変えずに、そして時々飲み物に口を付けながらタブレットの映像を見るスイートさん。 

 

 「……ふ〜ん。わかったわ 要はピーチさん達と歌って踊ればいいのね?」


 ピーチさん達と言うワードが出たのでおさらいしよう。


 ○メンバー

 ピーチ 16歳→貴族のお嬢様。

 ローズ 16歳→農家の平民。ギルドの受付嬢アルバイト

 シュガー 16 歳→冒険者。剣士。占い好き。

 

 「最終的には5人なんだ。スイート、君は4人目だ」


 「まあいいわよ。私は魔導具職人だから、本業の合間になるけど問題ないかしら?」


 「ああ。とりあえず当面の間は、2時間週5回、デビューを目指してのレッスンから始める。それを3ヶ月続けてデビューを目指す。問題ないか?」


 「わかったわ」


 「ところで君は何歳なんだ?」


 「12歳よ」


 「え? ああ、そうかわかった」


 見えない。

 やはり、この歳で魔導具職人として社会に出ているからか、随分と大人びているな。それに言葉遣いも大したもんだ。


 「え? じゅ、12歳? すごい……ですね!」


 16歳ピーチさん?

 何が凄いのかな?


 「向こうの世界には美味しいアイスあるかしら? 出来れば甘くて太らないやつ」


 「ああ。大丈夫だと思うよ」


 「じゃあ頑張るわ」


 うん。スイートは一応子供らしい所もある。


 遂に4人目のメンバーをゲットする事に成功。安堵する。


 とりあえずあと一人だな……


 ◇◆◇◆◇◆


 翌日


 (確か野村様が仰っていた条件は……)


 ガチャ


 例によって完璧な他力本願娘のピーチは、父親の部屋にノックもせず入室。


 「あ、あの……お父様?」


 「……なんだ? ノックも知らない礼儀しらずな我が娘よ」


 「あの……可愛いと評判の女性を知りませんか?」


 父親のオブラート発言を華麗にスルーするピーチ。

 

 「可愛い? ピーチ、お前は最近どうしたんだ? グループでも結成して歌でも歌うつもりか?」


 「そ、そんな滅相もございません! 私みたいなドジでノロマな亀がグループで歌なんて……」


 「……まあいい。可愛い女性か……とりあえずリバーのとこのジャスミンはあまり外には出ないらしいが、可愛いと噂になってるぞ」


 「ジャスミンさん?」


 「ああ。いつも笑顔で冗談を言っていて、可愛らしいと評判だ」


 (冗談? なんだろ?)


 ◇◆◇◆◇◆


 「野村さん……」


 「え? ミ、ミイちゃん? どうしたんだい?」


 午後7時。

 俺はピーチ達の今後のレッスンスケジュールに頭を悩ませ、ふと気付くと退勤時間を1時間以上も過ぎていた。


 事務所内には俺一人。

 そんな時に声を掛けて来たのが、事務所で一番の美人と噂の事務員ミイちゃんだった。


 「あ、いえ……遅くまでどうされたのかな? と思いまして」


 「ああ、そうですね。今メンバーを集めている新人のスケジュールをシュミレーションしていたんだよ」


 「そうだったんですね……でも、あんまり根詰めると身体に良くないですよ」


 「あ、ありがとう。じゃあそろそろ帰ろうかな?」

 

 「あ、あの……もし良ければご飯食べて帰りませんか? あ、なんか予定ありましたか? す、すいません突然……」


 「え? 俺と?! あ、そうだね、たまには行こうか?」


 「はい! ぜひ!」


 正直驚いている。

 入社以来、無我夢中で仕事に取り組んでいた。

 とにかく、自分がスカウト――そしてプロデュースしてデビューさせる事を目指していた。

 その為には色々な事を犠牲にもした。

 もちろん異性交流など皆無。

 高校時代に一ヶ月ほど付き合った女性はいたが、今は彼女と呼べる人もいない。

 そんな俺にも、申し分ない追い風が吹いた。まさか、社内一番の美女からお誘いなんて……夢じゃないな?


 「じゃあ、駅前のスカイタワーの屋上レストランにでも行ってみようか?」


 「はい! 嬉しいです!」


 これは完全にOKフラグだろ。

 メンバー集めも順調だし、明らかに俺のバイオリズムは右肩上がりだな。


 プルルルル――


 「あ、電話私でますよ」 

 

 『お電話ありがとうございます。キャットプロダクションです』


 『――あ、はい――あいにく当事務所の営業は終了してまし――あ、はい。少々お待ち下さい』


 ミイちゃんは困惑した様子で保留音を押し、こちらを向いた。


 「野村さん……若い女の子からなんですが、変なんです」


 「え? どう言う事?」


 「早く野村さんと話をさせて欲しいって……」


 「……あ、ああ。わかった代わるよ」


 ただ事ではない様子のミイちゃんから、俺は受話器を受け取る。


 『お電話代わりました。野村――』


 『野村様、建物に入れません……』


 『え? ピーチ? まさか事務所の前にいるのか?』


 『早く開けなさいよ。ところで今の女はだあれ? まさか真っ最中とかじゃないでしょうね?』


 『は? ローズ?』


 『今日の野村さんは、高い所での戦いをすると運気が上がるみたいですよ』


 『え? シュガー?』


 ガチャ


 「裏口が開いてたわ」


 「え? スイート? 裏口から? ここ五階だぞ? 早くないか?」


 その後、事務所の入口を開放し3人が合流。

 ミイちゃんは気を使い、そのまま一人で退勤。

 俺は心の般若を菩薩顔でひた隠し、4人を応接室に連行。


 ◇◆◇◆◇◆


 野村 「みんな……ど、どうしたんだい? どうやって電話してきたんだい?」


 ピーチ「はい。下でお借りしました」


 野村「は? 通行人に借りたのか?」


 ローズ「そうよ。私達を珍しそうに視姦してた男性がいたから話しかけたのよ」


 野村「……」


 シュガー「お礼に花占いしてあげたら喜んでた!」


 野村「……」 


 カチャ


 スイート「喉乾いたわ。ひねったら水出たからみんなで飲みましょ」


 気付くとグラスに入った水道水が人数分並んでいる。


 野村「……スイートいつの間に?! 早くないか?」


 ピーチ「野村様、可愛い女性が見つかりました。だから一緒に来て頂きたくて……」


 野村「そうか」


 ローズ「そうよ。だから知らせに来たのに女と一緒だなんて、姫始めでもしてたの?」


 野村「なるほど。だが事務所ではするべき事じゃないかもな」


 シュガー「今日はコチラの世界では何日なの? 5が付く日は大殺界だから野村さんは大人しく家にいた方がいいと思いますよ?」


 野村「ああわかった。シュガーの言う通り今日は5日だが、家にいるかは貴重な意見として心に閉まっておくとしよう」


 スイート「アイスは?」


 野村「……」


 俺への爽やかな追い風は、冷たい北風に変わってしまったようだ。


 スローモーション

 1982年に発売された中森明菜さん最初のシングル。

 オリコン最高位は30位。

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