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スローモーション 前編

 「お父様……ちょっとお話しが……」


 翌日、ピーチは再び父親の部屋を訪れていた。

 全く自分で探す気がない他力本願のピーチであった。

 

 「チッ……またか? 今日はなんだ?」


 (え?! 舌打ち?! 怖いよ……)


 「はい。実は元気な女性を探していて……ご存知ないかと……」


 「……元気? なんか漠然とし過ぎてないか?」


 「え? いや、ほら! お父様、この子は見てるだけで元気が出るな〜みたいな?! す、すみません!」


 「それにしても歌に踊りに元気だと? お前は劇団でも結成するのか? さすがにそれは許さんぞ?」


 「いえ、まさか? そ、そんな滅相も御座いません! 白蛇占いで、こんなんでましたけど〜なんて! 失礼しました……」

 ※元ネタは占い師の泉アツノさん。

 ユーチューブなどで、こんなんでましたけどと検索してください。


 「まあいい。元気な女性だな? う〜ん……要は性格が明るい女性か……となると、パインのとこのスイートかな?」


 「スイートさん?」


 「ああ。魔導具屋の娘だ。職人でもある」


 「え? 魔導具職人?」


 「まだ……いや、お前より歳下だがかなりの腕前らしい」


 「そうですか……あの……お店の場所はどこに……」


 「城下のパールホワイト地区だ――なんだ? まさか行くのか?」


 「いやですわお父様! 行く訳ないじゃないですか!」


 (職人さん? なんか無口なイメージあるけど大丈夫かな?)


 ◆◇◆◇◆◇


 「なんだと? 炎上した?!」


 「は、はい……」


 事務所では俺の同僚が担当するタレントが不祥事を起こしたと言う報告があり、社長が大激怒している……。


 昨今、SNSの発言が元で炎上してしまう事例は多々ある。だが、その後の対応など火消しがうまくいかないと場合によってはCMスポンサーの撤退、レギュラー番組の降板などでタレント生命をも失いかねない。

 俺の事務所では、コンプライアンス遵守専門の講師の方を外部からお招きをして、その辺りはデビュー前も後も所属タレントには徹底して指導していた。

 それにも関わらず、裏垢との誤爆と言う事態が発生してしまった。

 しかも現在テレビラジオレギュラー3本を抱える新進気鋭のタレントだった。


 「おい! すぐに今後の対応を検討するぞ! 野村! お前も会議室に来い!」


 「は、はいっ!」


 緊急事態だ。社長の怒号が響き渡る。


 コンコン――


 「誰だ!」


 ガチャ


 「失礼致します……も、申し訳ありません」


 入室した受付の女性も一瞬で雰囲気を察した様だ。


 「なんだ?」


 「はい……この子達が、野村さんに今すぐ会わせて欲しいと言って刀を……」


 「……え?! ピ、ピーチにローズにシュガー?! 三人で?!」


 またもや声をあげてしまう俺。

 当然ながら、ピーチはドレス、ローズは農作業着――そして、シュガーは上は皮の胸当て下は皮の腰巻き、左手には2メートルはあろうかと言う長剣を持っている。


 「野村、ドレスの子と作業着の子はお前の……もう一人は……てか、なんだこの刀は?」


 「あ、社長! 申し訳ありません! 実はこの子達にコンプライアンスについてお話しする予定でした!」


 「……とりあえず法務部の中村君を呼んでくれ。今後の対応の会議をする。野村はその子達の対応をしろ」


 「あ、ありがとうございます! 私も対応の会議に参加したカッタナ〜なんて!」


 「…………」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はシュガーが持つ刀の剣先に注意をしながら、三人を応接室に押し込めた。


 そして顔は満面の笑顔、心はプチ怒で問いかける。


 「みんな、今日はどうしたんだい?」


 ピ「はい。元気なメンバーが見つかったのですが、ローズさんとシュガーさんが一緒に行けないから野村さんに来て欲しくてお願いに……」


 ロ「私、ギルドのアルバイトが終わった後は犬の散歩で忙しいのよ。社長さんの他のもう一人いた男性は従順そうね。彼氏にしたら、バター犬として育てたいわ」


 シュ「私、行こうと思ったんだけど魔導具屋がある場所は私の家から南南西の方角でしょ? 今日はそっちの方角に行くと水の災いが起こると出たのよ。だから駄目なの」


 「……わかった。とりあえず行くよ。魔導具屋だかマシュマロだか知らんが案内頼む」


 ◇◆◇◆◇◆


 異世界の生暖かい風を頬に受け、俺とピーチは怪しさ満載の魔導具屋の前に立っていた。


 だから今度話すから、どうやって来たかの詳細は待ってくれ。別に借金の返済を待ってくれと言ってるわけじゃないんだからいいだろ?


 「ピーチ。今から入るが、先にその子の情報をわかってるだけ教えてくれないか?」


 「はい。魔導具屋さんの長女でスイートさんと言います。職人さんでもあり、専門としてる魔導具はアヒージョ、ペンディエンテ、アホルカ――あ、錬金術にも精通してましてフェアシュメルツリングの手法を用いたオルボも作れ――」


 「あ〜わかったよピーチ。とても参考になった、ありがとう」


 ピーチは会話のプチ暴走をする所は治させないといけないな。


 「あなた達は?」


 「え?」


 背後から話しかけられた。

 振り向くも誰もいない。

 前を向く。

 話しかけられた女の子が立っていた。服装は全身黒のワンピースだ。背中まで伸びる長い髪を結ぶ事なく降ろしていて、魔導具職人と言うか魔女みたいだな。綺麗な子だ。

 

 「私の店に何か用?」


 あれ? 確か後ろから話しかけられたはずだが?


 「え? まさかあなたがスイートさん?」


 「そうよ」


 「ちょっとお話しがあるんだ」


 「私に? まあいいわ。でも、今ちょうど作業が終わったの。入浴して着替えるから――ほら、あそこに小屋があるでしょ? そこで待っててくれる? カギは空いてるから」


 「わかった」


 スイートが指を刺した先、魔導具屋の裏50メートルくらい離れた場所に小屋がある。


 俺とピーチは少し歩いて小屋に入った。作業小屋と言う割に家具に関しては、テーブルや椅子、本棚くらいで意外とさっぱりした部屋だ。奥は調理場か?

 一応道具箱らしき大きな箱はある。


 「とりあえず、椅子に座って待とうかピーチ」


 「はい」


 同性と話すのが苦手なピーチは少し緊張してる用に見えた。


 ガチャ

 「お待たせ〜」


 「え?」

 おい、まだ5分くらいしか経過してないぞ? 速くないか?


 俺達が入室して椅子に座った途端現れたスイート。

 先程の黒いワンピースではなく、可愛らしいピンクのワンピースを着ていた。


 着替えただけか――それにしても早いぞ。いや、違うぞ? 明らかに湯上がりで髪も濡れている。しかも、あの長い髪を二つに分けて三つ編みにしてるぞ? 速くないか?

 

 「ス、スイートさん? たしか入浴と……」


 「え? したわよ。しかも全身くまなく洗ったわよ?」


 「…………」

 さすがのピーチも絶句してるな。


 「ところで二人はコーヒー飲めるかしら?」


 「あ、ありがとう」

 「ありがとうございます」


 「じゃあ、入れるから本棚でも見て待っててね」


 「わかった」


 とりあえず俺とピーチは立ち上がり、本棚へ行き適当な本を棚からだそうとするも……

 

 カタン

 「はい。どうぞ」


 「え?」

 「えっ?!」

 

 思わず振り返る俺達。

 

 何もないはずのテーブルの上には熱々のコーヒーが注がれたティーカップが3セット、角砂糖を入れた小瓶、そして一輪挿しも置いてあり、刺されたスイセンの花が俺達に微笑みかけていた。


 速くないか?!

 もはやテレポーテーションレベルだぞ?!


 「座って。頂きましょ」


 「あ、ありがとう」


 「角砂糖は適当に入れてね」


 甘党の俺はカフェオレ愛好家。

 ミルクはないが砂糖を入れるか……


 「あれ? 砂糖をつかむやつがないね?」


 「あ、ごめんなさい。今持ってくるわ」


 立ち上がり、奥のキッチンへ行くスイート。


 「…………」

 なぜか絶句してるピーチ。

 「どうした? ピーチ?」

 「スイートさんのコーヒーが……」

 「スイートさんのコーヒー? うん?」

 

 あれ? スイートのカップ空だぞ?

 俺が角砂糖をつかむやつを探してる間に、もう飲んだのか?

 速くないか?

 しかも熱々だったはず。一気飲み出来る代物じゃないぞ?

 

 「はい。持ってきたわ。使って」


 「あ、ありがとう……」


 「あ、あの!」


 ピーチ? どうした?

 誘いの言葉はまだ早い――いや、もう早いだか速いだか、どっちが適切かわからないぞ?


 「なあに?」


 「私と……アイドル……しま……しませんか!?」


 ピーチ……


 続きます。


 


 


 

 

 


  

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