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ハートのエースが出てこない?

 「あ、あの……お父様……ちょっとお聞きしたい事が……」


 「なんだ?」


 (睨まないで……怖いよ)


 ローズを見事メンバーに迎え入れた翌日、ピーチは再び父親の部屋を訪れていた。

 仕事上、対人関係においてかなり精通している父親に再び相談しようと言うピーチであった。


 「あの……踊りが上手な女性をご存知ないかと……」


 「昨日は歌、今日は踊りか? ピーチ、お前はグループを結成して歌でも歌うつもりか?」


 「いいえち、違います! 何を仰るウサギさん! そんな事あるわけないじゃないですか……」


 「まあいい。踊りか……そうだな……ああ、そう言えば鍛冶屋のリバーの娘のシュガーは小さい頃、サーカスで踊り娘をしていたと聞いた事あるが?」


 「シュガーさん……ですか?」


 「そうだ。今は冒険者になり、剣士として各地を飛び……ああ、そう言えばこないだは体調3メートルのギガントゴリラを一刀両断にしたと噂になっていたな」


 「え?! 冒険者?! それに、あ、あの、ギ、ギガントゴリラをですか?!」


 「ああ。大仕事を終えて今は実家で訓練してるんじゃないか?」


 「と言う事は大きな女性なんですか?」

 (野村様に見せてもらった動く絵の中には太った方はいなかった記憶があります……)


 「いや。お前と背格好は変わらんな。それに歳も同じじゃなかったか?」


 「そうですか……」


 「なんだ? まさか会いに行くつもりじゃないだろうな?」


 「いえ! そ、そんな!」


 「……まあ、いい。ちょっと変わった娘と聞くからな。なんか、やたらと占い好きだとかどうとか……」


 (あれ? 冒険者だけど意外とおとなしいのかな?)


 ◇◆◇◆◇◆


 「社長、それでは当期の決算では赤字が予想されると言う事ですか?」


 「ああ、そうだ。現状はかなり厳しい。一応追加の出資先が見つかり、補正予算を含め組み直しをしているところだ」


 事務所では全従業員30名が集まり、緊急の会議が行われていた。

 所属タレントの稼ぎ頭が結婚し引退してしまった今期。

 そして、新たにデビューするタレントも少ない現状で、経営的にも厳しい状態である事が発表された。

 まあ俺はスカウトマン兼プロデューサー見習いだから、経営に関してのこの様な場は本来出席しない。だが全員を集めると言うのは、厳しい現状を全従業員間で周知し一致団結しようと言う社長の思惑が垣間見えた。

 重い空気が会議室全体を覆い隠している気がしていた。


 コンコン――


 重要な会議中と言うのは告知されていたのにも関わらず、ドアのノック音が響き渡る。


 「……誰だ? 会議中だと通達したはずだが?」


 ガチャ


 「は、はい……申し訳ありません。この娘さん達が、今すぐ野村さんに会わせて欲しいと……」


 「え?! ピーチとローズ?!」


 会議室の隅、末席にいた俺は思わず声をあげてしまった。

 受付女性の後には紛れもなく、ドレス姿のピーチと私服……とは言っても農作業服姿のローズが立っていた。

 

 「野村。このドレスの女の子はたしかお前の……」


 「あ! はい! も、申し訳ありません! 私、ちょっと彼女達とお話ししますので、応接室に!」


 「なんだ? 約束してたのか。ちゃんとバッティングしない様に段取りしなきゃ駄目だぞ野村」


 「申し訳ありません!」


 ◇◆◇◆◇◆


 「ど、どうしたんだい二人共?」


 逃げる様にして応接室に二人を押し込みソファに座らせ、俺は表面上は大歓迎の笑みで問いかけた。


 「はい。一応野村様が仰っていた踊りが上手な女性が見つかりましたので、お知らせに……」


 「そうよ。私なんか実家の農作業を手伝ってる途中だったのにも関わらず来てあげたんだから感謝しなさいよね」


 ローズはやっぱりツンデレ属性があるな。


 「そうか。わざわざありがとう。それで、その女の子は一緒じゃないのかい?」


 「今の部屋にいた、前から二番目、左から三番目に座っていた、大きな男性は左ききね。書くものを持っていたのが見えたわ。アレは粗末そうだから、私のタイプではないわね」


 「…………」


 ローズはなんか面倒くさいし、空気を読まないな……。それに根本的にアイドル意識が欠けてるな。指導が必要だ。


 「私とローズさんでお誘いしようと思ったんですが、ローズさんが勤めるギルドの規則で冒険者さんとプライベートの接触はあまり良くないらしくて、かと言って私一人では心細くて……」


 「当たり前じゃない。特定の冒険者さんを贔屓してると思われ兼ねないから、私は会いにはいけないわよ」


 「なるほど。その女の子は冒険者なのか。それで俺がピーチと一緒に行くと言う訳だな?」


 「はい」

 「そうよ。お願いね」


 「…………」


 ◇◆◇◆◇◆


 「剣士だと?」


 とりあえず、あの魔導書を使いピーチ達の世界にやって来た。

 どうやって?

 そんな事は後でゆっくり語るから勘弁してくれ。とりあえず、今回スカウトする女の子が剣士と言う事に驚愕するので精一杯なんだ。


 「はい。ローズさんに聞いたんですが、冒険者歴は2年、ギガントゴリラ退治などのモンスター駆除が20件、窃盗団壊滅などの犯罪者への対応15件、山頂、洞窟、遺跡などへ薬草や秘宝の回収は30件以上の実績がある冒険者さんで階級は――」


「わかったよピーチ。とりあえず、熟練の冒険者の女の子だと言う事だな」


 「あ、はい」


 「わかった。とりあえず、まずはその子に会って見て、メンバーに入れるかは俺が判断してもいいかな?」


 「はい、もちろんです」


 剣士、冒険者……要は男まさりで剛力の持ち主だろう。こんな事を言って大変申し訳ないが、ちょっと容姿的にアイドルとしては不適格かもしれないな。


 鍛冶屋は、木造の平屋の建物だった。

 なんか昔の江戸時代の刀鍛冶のイメージがする家だな。


 「裏に母屋がありますでしょ? 今日はそちらにシュガーさんがいるとの事ですのでいきましょう」


 「わかった」


 建物の裏にある母屋には入口らしき木のドアが2つある。


 どちらから入ろうか? とピーチに問いかけていたが……


 「野村様、よく見るとドアに文字が書いてあります」


 「文字?」


 「はい。こちらのドアは1、5、0が付く日の暦には使用するなと書いてあります」


 「ん? どう言う事だ? ピーチ、こちらの世界の今日の日にちは?」


 「はい、6の月の22日です」


 「と言う事はこのドアを使用した方がいいと言う事だな?」


 「そうだと思います」


 なんなんだ?


 ◇◆◇◆◇◆


 花びらがたくさん落ちてる母屋内は落ち着いた香りがする空間だった。


 「ありがとね。ちゃんとドアのルール守ってくれて。私に何か用事ですか? 依頼ならなるべくギルドを通して欲しいのですが……」


 は? 背格好はピーチと変わらないぞ? しかも顔立ちも整っているし、想像してたムキムキガールじゃないぞ?


 そして母屋の中にいた女剣士シュガーさんは、俺の想像とはかけ離れたアイドルオーラを持っていた。


 「その前に、いきなりで済まないがあのドアはどんな意味があるんだい?」


 「あれは私の好きな占い師さんに0、1、5の付く日には南西のドアを使用しない方が良いと言われたの」


 「占い?」


 「はい。今も気になっていた依頼を受けるかどうか、花で占ってたの」


 なるほど。

 好き……嫌い……とか言いながら1枚1枚花びらをもぎとるやつだな。落ちてる花びらは残骸だな。


 「シュガーさん! 私と……歌って踊り……ませんか?!」


 業を煮やしたピーチの援護射撃が再び登場だ。


 「アイドル?」


 俺はこれ見よがしにタブレットを起動させ、黙って今人気のアイドルグループのコンサート映像を見せた。


 「これを私がするの?」


 「は、はい! 一緒に……やりましょう!」


 「君は闇夜を切り裂いて出現する虹だ。その虹を僕と渡って、光があたる世界に行かないかい?」 


 「……なんかよくわからないけど、あっ! ちょっと待っててね」


 シュガーは突然立ち上がり、母屋内の奥から持って来たトランプの様なカードを持って来た。そして枚数は50枚くらいか? をテーブルに並べた。


 「このカードのうち一枚を野村さんにめくって欲しいの」


 「どれでもいいのかい?」


 「はい」


 俺は自分から見て一番後の隅にあるカード1枚めくった。


 「正義のカードね。逆向きね」


 「え?」


 異世界版タロットカードか?


 「ローズさんはこちらの小アルカナのカードをどれか1枚めくって」


 「あ、はい」


 「金貨のナイトカードね」


 「え?」


 「う〜ん……まあ、いいわ。やってみます」


 「え?」

 「え?」

 俺とピーチの困惑が被る。


 「逆向きの正義のカードは、二つの事に手を出すとどちらも中途半端になる意味、金貨のナイトは新鮮味がない毎日……つまり、冒険はしばらくやめて、アイドル? でしたっけ? それをやってみます」


 「あ、ありがとう」


 「シュガー……さん! よろしく……お願い……します」


 この子はなんでも占いで決めるのか?

 あと、ピーチは同性と話すのが相変わらず苦手みたいだな。必ずどもる。


 現代に戻った夜、俺は窓の外から虹がかかっている光景をイメージして考えていた。


 ピーチはともかく、ツンデレギルド嬢のローズ、占いでなんでも決めるシュガー……あと2人だよな? 大丈夫か?


 俺はまたしてもシュガーの踊りを確認するのを失念していた今日と共に、デコボコ過ぎるメンバー構成に一抹の不安を抱えていた。 

 

 「ハートのエースが出てこない」

 1975年に発売されたアイドルグループ、キャンディーズのヒット曲。


 オリコン週間ランキング最高位11位

 年間ランキング87位

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